第二十三話





「まだ世間様には蒼大さんとあなたの結婚のことをお披露目する予定はござい


ません。それにあなたのご両親にもお会いしていませんのに。ですので、この


ことは決してどなたにも口外なさいませんように。もちろん、龍大夫婦にも。で


はわたくしはこれから美容室へ参りますわ。その後は、F社の奥様がこちらに


お見えになります。お茶の用意と夕食のご接待、よろしく


 そう言って応接室を出て行く。今日の義母の装いはアイボリーのスーツ姿


だった。昨日の着物姿とは違って、ますます若く見える。セミロングの髪も、ゆ


るくウエーブがかかり、化粧も完ぺきだった。


 お金持ちで、うるさい夫もいない。ある程度の年齢を重ねた女性なら誰もが羨


むような生活を送っている周子さんだが、多実衣は彼女に対して何の羨望も抱


くことはなかった。


 あそこまでの美しさを今も維持しているところはすごいと思うが、それだけだ。


子どもや孫も自分の元を去り、崩壊してしまった家庭の中で、一生懸命、背伸


びをして生きているように見えてならない。


 一見冷酷にも取れる数々の言動も、一皮めくれば、ごく普通の女性の顔がそ


こにあるのではないかと思ってしまう。


 多実衣ははっとして我に返る。どんなに酷いことを言われてもその人は悪くな


い、そうなったのにはきっと何か事情があるんだと思ってしまうお人好しな部


分が、これまでも自分を苦しめてきたではないかと。


 こちらがいくら相手を理解しようと歩み寄っていっても、次第に悪循環を生


み、ますます険悪な関係になってしまうことも随分と経験してきた。


 まだまだこの段階で周子さんに気を許すのは早すぎるのではないかと、自分


を戒める。明日にでも、佑美と同じ立場になるかもしれないのだ。


 多実衣は不思議と、この結婚を辞める気にはならなかった。古い考えかもし


れないが、一度結婚という契約を交わした以上、最後まで相手と寄り添ってい


きたいと思う。


 たとえ先輩が、自分の身を守るために多実衣を利用したとしてもだ。


 多実衣はまず何から始めればいいのかを脳内で整理する。


 客を招き、お茶と夕食の接待をする。これらのわずかばかりのキーワードを


頼りに、彼女なりにタイムスケジュールを組んでみた。