とにかく、画、画、画です。圧倒されます。
雰囲気として、絵、ではありません。
一つ一つが、緻密を極めます。
これでもかと書き込まれた背景があり、そこに全身像が置かれている大きなコマが、要所要所にあります。場の重みを感じます。
縦に、細く長いコマも多用されています。上下を、高さを意識させる構図が多いのも印象的です。

最初に桶職人が描かれていたためか、連想したのが葛飾北斎の浮世絵です。
『富嶽三十六景』が、思った以上に自分の中に残っていました。
同時に、マンガに、いや我々の生活の中に、浮世絵が深く根を張っていることを実感します。

<これは 神田のとある職人の日常>という言葉で始まるのが、「桶職人」、「刀鍛冶」、「紺屋」の三篇です。

 

 

「桶職人」は、店での、桶を通した近所の人たちとの交わりが描かれます。「刀鍛冶」は、自分が打った刀を、斬り捨て御免の道具として使われたと知った刀鍛冶の意地の通し方、「紺屋」は、藍染の意匠に悩む職人の姿、です。
言葉少なに、一人の職人の、職業上では日常(?)として捉えられている特異な営みが、丁寧に描かれています。

 


 

「畳刺し」は、若い畳刺しの、吉原の遊女屋の畳の張り替えでの一日であり、職人の仕事の確かさと対比して、花魁の淡い恋心が描かれます。

百年前に建てられた土蔵と茶室。他に比して長めの「左官(一、二、三)」は、それらが建てられたときの経緯が、職人頭長七の仕事が語られます。
大した腕もないのに仲間をいじめる職人。上方から流れてきた腕利きの職人。その他様々な職人たちを、頭はまとめ上げ仕事を成し遂げなければなりません。しかし、衝突は起こりました…。





この作品は、結局は、画、ですネ。

 

*坂上 暁仁 著 『神田ごくら町職人ばなし
 さかうえ あきひと  かんだごくらちょうしょくにんばなし いち
 株式会社リイド社 2023/9/6