『将棋の渡辺くん⑦』が出ていました。二年ぶりくらいでしょうか。
変な話ですが、普段読んでいる物語や小説とは違い、私は、彼の身の上にどんなことが起こったのか知っているわけです。大げさでなく、「渡辺くん」の運命を知っているのです。

<——2022年2月
       藤井五冠誕生 >(10頁)
で始まる王将戦後の会話のエピソードがあります。「渡辺くん」は0勝4敗で負けています。
<伊奈(藤井くんはまだ成長すると思う? )
 渡辺(分かんないね 今でも結構完成されちゃってるから )
   (これより上があるのかっていう )
 伊奈(君は? 君は成長する? )        
 渡辺(変わんないでしょ! )   
 伊奈(現状維持が目標だ )        
 渡辺(現状維持してもさぁ もう勝てないじゃん 彼には )
 伊奈(彼以外には勝ててるよね
    まぁ 彼以外には大威張りなわけだ
    それで満足と           )        
 渡辺(そうじゃないわけですよ 明らかに )   >(13頁)
本の最後近くに「藤井新名人誕生」のエピソードがありますが、それも含めて、この本の内容を凝縮したような会話だと思います。<現状維持してもさぁ もう勝てないじゃん 彼には>、これに尽きるでしょう。ただ、これを口にできるというのも、すごいことだと思います。

最近、将棋の話題をほとんど見聞きしていません。そもそも将棋の記事が目の届く範囲に無いのです。藤井八冠の一強時代が続いているせいではないかと思います。
藤井ブームになって、周りの雰囲気に巻き込まれてファンになった私には、それ以前の雰囲気が想像できません。しかし、ひょっとして、ブーム以前以下の低調さではないのか、と思ってしまいます。
この本を読んだから、だけではありませんが、藤井八冠の負ける姿が想像できないのです。周りの多くの人もそうではないかと想像してしまいます。結果のわかっている勝負事ほど興を削ぐものはありません。

今でも、将棋記事があればそれなりに目を通すのは、本屋でたまたま手に取った、このシリーズを通して「渡辺くん」を、他のキャラクターを知ったからです。

藤井八冠が強かったからブームが起こった。藤井八冠が強すぎたからブームが去った。
一般のファンがいなくなればそのジャンルは衰退します。新しい藤井八冠に対抗できる新人が早く現れてほしいものです。

*伊奈 めぐみ 著 『将棋の渡辺くん⑦』
 いな めぐみ しょうぎのわたなべくん
 ワイドKC 週刊少年マガジン 株式会社 講談社 2024/2/8