飛信隊と李信将軍の名は、朝廷の集まりの席でも口の端に上るようになり、李斯のようにその力を高く評価する者も出てきました。

番吾(はんご)の戦いが始まります。秦軍25万に対する趙軍30万。前年の雪辱戦です。
飛信隊は、これまでの一万五千から三万に増員され、秦右翼に配置されました。対する趙左翼は七万です。明らかな劣勢です。しかし、信は開戦の口火を切るように指名されました。

開戦の口火を切った後、敵陣に飛び込んで戦う信を見ている新入りの歩兵たちと、歩兵長崇原(すうげん)、古参兵田永(でんえい)との間に、次のようなやりとりがありました。
<歩兵(…いや確かにすげェけど… 将軍自らあんなに前に出て大丈夫か⁉  さす

     がにやばいんじゃ)
   … 略 …
 崇原(いや さすがにあれは一人で出過ぎだ  田永 信を止めろ 危ないぞ)>

 (114頁)
開戦の口火を切るということが影響したかどうかは別にして、信に気負いがあるのは間違いないでしょう。

同時に、河了貂(かりょうてん)にも、気負いが感じられます。
多勢の趙軍左翼の七万に対し、秦軍右翼の飛信隊三万で立ち向かう意味について、河了貂(かりょうてん)は考えます。
<だからこそ この右翼の飛信隊が敵の予想の上を行く働きをすることが重要なんだ

   王翦(おうせん)将軍もそれを見越してこの右から開戦させた…
   … 略 …
 そう 李牧に勝つには 李牧の想像にない程の動き・働きをしないといけない  

 それをやるのが飛信隊(うち)だ
   … 略 …
 この戦いは 右翼から崩して 李牧に勝利するんだ—— 

 >(116頁 下線は原文では傍点)
全体に、地に足がついていない印象ですが、”右翼から崩して”には、殊に気負いを、危うさを感じます。信にも 河了貂にも気負いがある、のは、飛信隊にとって大きな危機です。

李牧は自陣営の会議で、趙軍の利の一つとして、「”軍容”の利」を挙げていますが、思い出すのは次の場面です。
李信や河了貂(かりょうてん)などの、隊の主だった者たちが集まった所に、遠くから声が掛かります。
<三能(隊長— 羌瘣(きょうかい)隊も隊整理できました—  今回から羌瘣隊の副

    官を務める三能(さんのう)です)
 李信(オ オウ…)
   (え⁉ 何だって⁉)
 三能(三能です—)>(13頁)
この「三能」とはどんな人物か、が大変気になります。秦軍の新顔ではこの人物しか思い当たりません。秦軍の危機を救うのは、この人物だと信じています(?!?)。
もう一つ言えば、信と李牧のそれぞれのロマンスは、ひょっとしたらひょっとして、戦局に驚くほど大きな影響を与える、という根拠なき確信があります。

毎回毎回楽しませてくれる作品です。

*原 泰久 著『キングダム 71 』
 はら やすひさ
 ヤングジャンプ コミックス 株式会社 集英社 2024/2/24