今野敏の『一夜 隠蔽捜査 10』が出ました。
出先の書店で、平積みの最後の一冊を手に取りました。奥付によれば今月15日の発行とのこと。本書を買ったのは25日のことでしたので、10日以上気づかなかったことになります。その間に、書店には行ったはずですが、気づきませんでした。危ういところで手に入れたことになります。

最近ハードカバーの本はあまり買いません。特にシリーズものはめったに買いませんが、『隠蔽捜査 』のシリーズは数少ない例外です。
とにかく、早く読みたい、の一心です。文庫化までとても待てません。要は、『隠蔽捜査 』のシリーズのファンなのです。

今回の話は誘拐事件です。

純文学の人気作家北上輝記(きたがみ てるき)が誘拐されます。そこに、北上と親しいエンタメ作家の梅林賢(うめばやし けん)が、竜崎伸也(りゅうざき しんや)刑事部長に、捜査への協力を申し出ます。
同時期に、警視庁管内では殺人事件が起こり、竜崎の息子邦彦(くにひこ)はポーランド留学から帰り、東大を辞めたいと言いだすのです。

この誘拐事件には、金銭の要求がありませんでした。怨恨も男女間のトラブルも考えられませんでした。どれほど捜査しても、誘拐の目的が明らかにならなかったのです。

この事件には著名人が絡んでいます。当然、著名人にはファンがついています。

今回は、純文学の作家北上輝記には、内海順治(うつみ じゅんじ)小田原署副署長、佐藤実(さとう みのる)神奈川県警本部長がファンだと名乗り出ています。エンタメの人気作家梅林賢については、何と警視庁の伊丹刑事部長が大ファンだと強調しています。

ファンが多いというのは、陰に陽に警察での扱いにも影響があります。
内海副署長が北上輝記のファンであったがために、単なる行方不明者届であったものが、あっという間に県警本部に情報が届き、北上ファンの佐藤本部長が刑事部長の竜崎に特別な配慮を望むところまで行くわけです。
梅林賢についても、伊丹刑事部長と特異な関係が築かれていくことになります。

誰かのファンになったことはないと公言する竜崎に、佐藤本部長が語りかけます。
<「しかし、不思議だなあ……」
 「何がでしょう」
 「さっきまで俺、しょげてたんだけどね。刑事部長と話をしているうちに、なんだ

  か、どうでもよくなってきた」
 「そうですか」
 「誰かのファンになったことはないと言ったけど、もしかしたら、ファンを作る側

  かもしれないね。周りに刑事部長ファンがいるんじゃない?」
 「私は音楽もやらないし小説も書きません」
 「そういうことじゃなくてさ」 >(324頁)

ファンにも色々あるようです。
同様に、ファンであることが与える影響にも、色々あることも描かれています。

*今野 敏 著『一夜 隠蔽捜査 10』
 こんの びん いちや いんぺいそうさ
 新潮社 2024/1/15