県警本部の捜査一課の刑事、上條元(かみじょう はじめ)は、故郷の所轄、北嶺(きたみね)署刑事課に赴任しました。一年前の誘拐事件の自らの失敗を挽回するためです。

上條は高校を卒業した時、故郷を捨てた人間でした。若き日の二年に満たぬ結婚生活で、妻を亡くし、生まれた直後の息子は義理の父に取り上げられ、以後会ったこともありません。仕事だけがすべての生活をしてきました。

しかし、戻ってきてみれば、多くの者が待ち受けていました。
親子関係がぎこちなかった父の古い友人、ヒッピーがそのまま歳をとったような萩原明浄(はぎわら めいじょう)は父のやっていた店を引き継いでいました。
高校時代の友人もいました。一人は勤務医で外科医をしている関谷研(せきや けん)。もう一人は、暴力団組長の父の跡を継いだ小野里康永(おのざと こうえい)です。
その他、仕事上の知りあい、仕事上の関係もできてしまった過去の女性等様々です。

更に思わぬ荷物もしょい込むことになりました。
たまたま少年たちの暴力事件に出くわし、助ける形になった被害者らしき少年の面倒を見る羽目になってしまったのです。記憶喪失ということで、仮に「アキラ」と呼ぶことになりました。

上條は、警察組織をほとんど無視し、ほとんど独力で捜査を続けていきます。浮かびあがってくる姿は……。

昭和文学の巨匠といわれる人が、ハッピーエンドでなかったら、金返せ、と言ったとか、言わなかった、とか。
少なくとも、エンタメで、ハッピーエンドでない結末がわかっていたら、私はその本を読もうとしないかもしれません。悲惨な描写に耐えきれず、これまでに途中で読むのをやめてしまった本は結構ありました。

この本の終わり近くを読みすすめながら、少年ジャンプのスローガン「友情・努力・勝利」に当て嵌めてみました。
友情って、どういう状態ですか? どうなれば、友情があると思うのですか?
努力って、何に対して、何をすれば?
勝利って、どうなれば勝ったと言えるんですか? 何が何やらわかりませんでした。

文庫本で500頁余、次々に何かが起こりました。目は頁を追いました。
最後の何十頁、多くの人々の姿を、ハッピーエンドの向こう側に見たように思います。
少なくとも、なにかを見たのは間違いない、と思いました。

*堂場 瞬一 著『棘の街』
 どうば しゅんいち とげのまち  
 角川文庫 令和5/9/25