<(いくら考えても我が家に迎えるにあなた以上の方は想像ができません。)
 (物怖じもせず作る食い物は旨い。  要するに つまり——)
 (私自身が あなたのことを気に入っている! )>(114頁)
これ以上の言葉は、なかなか思いつかないと思います。
新九郎は、奉公衆小笠原政清の末娘ぬいと結婚します。

奉行衆と奉公衆が引き起こした「文明十七年の動乱」の処理を巡り、御所義尚(よしひさ)と大御所義政のつばぜり合いがありました。御所の勢力が決定的に伸長し、義政は、義尚の求めに応じ出家しました。この間、どこの分国も在地の者による押領などにより、守護などが国に下向せざるを得ない状況は、より深まっていきます。

長きに渡る関東の戦乱、享徳の乱は終わりましたが、様々な場所で火種はくすぶっていました。
太田道灌は主家との折り合いが決定的に悪くなり、終には暗殺されました。
東国は動き始めます。

新九郎が思わず口走った言葉があります。
<(その場合は どこかの荘園でも奪い取って事後承認してもらいますか。)>(114頁)
同時に、頭の片隅で考えています。[ え⁉  ちょっと待て俺‼ ] と。
言葉は、本人に、その場で否定されますが、しかし…

新九郎は、申次(もうしつぎ)を務め、御所の最側近を務め、奉行衆と奉公衆の実態も知り、幕府のタガが緩み切っていることを理解し、領地経営の実態も知り尽くしています。
さらに、東国の状況も熟知し、譲状(ゆずりじょう)により、駿河に一定の足場も確保しています。そこに、駿河の一地方の代官の話が舞い込んできているのです。

京都近郊の「宇治田原」の地を占領された件について、新九郎とその家来たちが対策を協議している場面があります。「狐」の東国の情報をもたらす場面とともに、ほとんど軍議の観がありました。新九郎の家来たちは、準備万端整い、具体的な行動を待ち望んでいるようです。思わず、何事かを口走っても、無理もないか、と思ってしまいます。

新九郎は、その何事かに向かって、ひた走ります。


*ゆうき まさみ 著『新九郎、奔る!(14)』
 ゆうきまさみ   しんくろう、はしる!
 BIG SPIRITS COMICS SPECIAL 株式会社 小学館  2023/10/17