戦士たちのところに、お姫様が助けを求めてやってくる。話を聞いた戦士たちは、お姫さまとともに冒険の旅に出る。簡単に言えば、これだけの話である。しかし、読まされてしまう。

ジブチの自衛隊活動拠点を出た自衛官たちは、捜索していた連絡ヘリの墜落地点を見出したが、既に遅い時間で野営することになった。そこに、ソマリアの小氏族のスルタンの娘を含む三名の女が逃げこんできた。事情を聴いている時、敵に急襲され、生き残ったのは隊員七名と娘だけだった。活動拠点に戻ること、それだけのことが、命を懸けた戦いとなった。

銃から手榴弾、地雷、RPGその他ありとあらゆる武器が使われる。同じく銃といっても、様々な拳銃、小銃、機関銃がある。狙撃銃もある。ナイフ、刀剣もあれば、敵にも味方にも使い手のいる武術という肉体のみの戦いもある。
土漠という砂漠、洞窟、突然出現する川、地域特有のハムシンの砂塵嵐等々、戦闘の背景も様々である。
一口に戦闘といっても、戦闘のバリエーションは無数にある。描写に迫力があり、読んでいて飽きることがない。

主人公は友永芳彦曹長35歳。他の隊員も含めて、すべて習志野の空挺団からきた自衛隊の選りすぐりである。
戦闘についてのエキスパートであり、戦闘場面でもそのように描かれているが、常に自衛隊特有の問題に悩まされている存在でもある。
戦闘を成し遂げる能力があることは自覚している。しかし、どこまでならば、許されているのかは、実質、誰も答えてくれない。やりすぎれば、自分たちが自衛隊によって、日本国民によって見捨てられるかもしれない、という不安が常にある。

小氏族を背負ったスルタンの娘アスキラに、友永は淡い恋心を抱く。しかし、アスキラもまた戦っている。国家間の思惑に巻き込まれ、翻弄されてきた。アスキラの振る舞いもまた、どうであれば、とは、誰にとっても言えるものではない。

隊の他のメンバーにも、様々な場面で発揮される、個人個人の特異な能力がある。だが、隊員一人一人のそれらの能力に寄り添うかのように、彼らの背負った個人史が見えてくる。彼らにとって悔いの残る記憶である。

よくできた冒険小説として楽しめるものだった。だが自衛隊を扱ったもののほとんどがそうであるように、戦後の歴史の苦みを、それがどれだけであるかは人により感じ方が違うのだろうが、味わった。なかなか苦いものであった。

たぶん、この小説のような事態があることは、日本人は、日本国の国民は、知っていた方がよいのだろうと思う。

*月村 了衛 著『土漠の花』 幻冬舎文庫  2016/8/5
 (月村 了衛 著『土漠の花』 幻冬舎 2014/9 )