戦闘員であることに耐えられず、故国日本に戻り、ごく普通の生活を取り戻そうとした男がいた。
国際テロ組織LELのハイジャックで拉致されたのは島崎真悟が九歳の時。戦地でLELにより、訓練され、教育を施され、戦闘工作員として世界各地で活動する。三十九歳で、日本に逃れる。

この作品では、島崎が憧れた「平和の国」である日本が、どのような顔を持っているか、が徐々に明らかになる。
#01 DEAR SHIMAZAKI IN THE PEACEFUL LAND の最後のコマの吹き出しには、こう記されている。
<島崎真悟が戦場に復帰するのは
 ——
 340日後のこと
 である              >(52頁)

島崎とコロニーで共に生活するオガタという女性が、限定フィギュアを手に入れたいと思った。
オガタは島崎とともに訪れたコンビニで、フィギュアを手に入れる。そこにいじめられっ子が現れ、カッターナイフを振り回して、フィギュアを奪おうとした。いじめられっ子はフィギュアを手に入れろと命令されていたからだ。女性のオガタは、弱い者と判断されたのだろう。
オガタは、ナイフでいじめっ子に立ち向かえと諭す。そこに、いじめっ子が現れる。

オガタと島崎は、目につかないところから、いじめっ子が、よってたかって袋叩きにされるのを見ている。オガタはいう。
<(よし!これから反撃が始まるよ! 見ものよ シンゴ!)
 (あれぇ?)
 (なんでカッターを振り回さないのよ~)
 (一発切りつければ強くメッセージが伝わるのに)
 (何ぐずぐずしてんのよ)
 (もういいや 飽きた)
 (帰ろ!)>(136-138頁)

限定フィギュアという、多くの者にとってほとんど意味の無いものをめぐり、争いが起こる。弱いものは、強いものに立ち向かうだけの気概を持てず、強いものに脅え、従い、より弱いものに対してのみ暴力をふるう。いじめという現象の典型例に近いだろう。確かに現代の日本の一断面である。

しかし、この話は、ここでは終わらない。
島崎とオガタを監視し、島崎に、いじめについて話しかけるオガタの言葉を盗聴する組織があった。かれらは、常日頃から、島崎たちに対する監視を怠らないが、あらためて言葉を口にした。
<(やっぱり…)
 (あいつらは危険なんだな…) >(138頁)

最後に、オガタが自室に帰り、限定フィギュアを無造作に放り出す姿が印象的である。


*原作 濱田轟天 漫画 瀬下猛 『平和の国の島崎へ①』
 モーニングKC 2022/12/22