*ゆうき まさみ 著『新九郎、奔る!(12)』

 BIG SPIRITS COMICS SPECIAL 株式会社 小学館  2023/1/17

 

室町幕府は、誰が駿河の国を相続するか、という裁定をいつまでも引き延ばしていた。

新九郎が譲状(ゆずりじょう)でもあったら、とぼやいたことがことの発端であった。譲状とは姉伊都の夫、駿河守護だった故今川上総介が、すべてを嫡子龍王丸に譲るとした文書である。姉がこの方策を強く推したため、新九郎が譲状を偽造し、幕府に提出した。

偽造の発覚を恐れる新九郎の心配をよそに、故今川上総介の遺領相続を龍王丸に認める御内書は出た。室町幕府が発した公文書である。

新九郎は、姉の名代として駿河に向かい、現当主代行今川新五郎と直談判をすることになったのだが…

 

新九郎は、駿府に赴き、今川新五郎と直接会った。

この場での新九郎と新五郎とのやりとりが見ものである。

新九郎は、導くべき結論を視野に入れて、新五郎と相対した。そして、新九郎が想定した最上と思える結果を得た。

三年前の会見で、新九郎は太田道灌にいいようにあしらわれた。その後、都で、領国で揉まれてきた。その経験が生きた。

 

新九郎が成長したように、家来たちも変わりつつある。家来たちは、今川の家督相続のために、駿府を越えて、関東の形勢をも探っている。諜報網を持つ狐の力も大きい。兵法に通じ、新しく家来になった多米は家来たちを変えていきそうである。

 

新九郎の中で、道潅を中心とした関東の勢力図が出来上がりつつある。今川の家督相続のための、室町幕府の「お墨付き」を、単なる「お墨付き」ではなく、実効性のあるものにするべく、新九郎は動き始める。

 

さらには、京に帰った新九郎は、自分の隣に大いなる策士がいたことを発見する。

姉が、偽造の発覚を恐れる新九郎とは対照的に、泰然自若としていられたのには大きな理由があった。新九郎が、それを理解する下りは、他愛のない話であればこそ(本当に他愛のない話?)、大いに読者を楽しませてくれる。こういうところ(どこが?)が、 ゆうき まさみ である。