伊勢新九郎盛時(後の伊勢宗瑞/北条早雲)の一代記も、11巻めになる。
最初に店頭でこの本を見つけた時には、とにもかくにも、ゆうきまさみの作品であるということだけで、レジに直行したのを覚えている。『機動警察パトレイバー』や『じゃじゃ馬グルーミン★UP! 』は最高だった。
何時のことであったか記憶に無いのだが、どこかで北条早雲は、戦国大名のはしりであり、名君であったと聞いた。だが、知っているのはそれだけだった。
足掛け5年、このシリーズを読んでいることになるが、このシリーズ以外で、新九郎(その他の名前も含めて)のことについて触れられているのを見た記憶がない。 本人以外でも、足利義政を除けば、室町幕府の時代について知っていることはほとんど無く、初めて聞く話ばかりだった。足利義政に関しても、彼の生きた時期について、大きな誤解があったように思う。
前巻で述べたように、新九郎は、姉とその息子龍王丸(たつおうまる)を連れて帰京した。そして、領地の荏原(えばら)にも赴くことになる。その地の彼の初恋の人も、姉と同じように思い悩んでいた。今は弟よりも我が子が可愛ゆい、と言い、息子に実家の家督を乗っ取らせようと画策していたのだ。
馬に乗りながら、家来三郎と話している。
<新九郎(む~~ん…)
三 郎(殿、大丈夫ですか?)
新九郎(なあ 三郎、)
新九郎(世の母親というのは心に鬼神を飼っているものなのか?)>(42頁)
新九郎は、領地の凶作について重臣安芸守を詰問し、領地の者すべてが不正に関わっていることを知る。
<新九郎(だからといって いやしくも 伊勢家の者が年貢を誤魔化していいわけがあるまい! これでは御所様に顔向けができぬ!)
安芸守(殿は誰の御味方かぁっ‼)>(46頁)
安芸守の切腹騒ぎが収まった後、家来たちに漏らした言葉があった。
<新九郎(又次郎 三郎——)
新九郎(俺には領地経営はできぬかもしれぬ。)
三 郎(またまた そーゆーことを。)
…(中略)…
新九郎(しかし どうしたらいいのか分からぬ。)
三 郎(殿は正しすぎるんだ。 少~~し 頭をユルくしなきゃ。)>(48-49頁)
従弟の伊勢盛頼は、新九郎を「正攻法一直線」と評する。だが、一直線が、単に一直線でやっていけるか、新九郎が自らに問う場面が増えていく。
新九郎たちにとって、今一番の懸案が、姉の息子龍王丸が今川家の家督を相続することである。
新九郎は、姉に対する情にほだされたと自ら言っているが、家督相続の謀略の中心的役割を果たすことになった。まことに不安である。
同時に、情報収集にも余念がない。多米権兵衛(ため ごんのひょうえ)を家来に加え、関東に派遣し、かの地の状況を調べさせた。武の鍛錬にも励み、徐々にではあるが、 体勢は整いつつある。
ゆったりと、だが確実に、時は流れていく。