高岡藩一万石の跡継ぎである井上正紀(まさのり)は、目下謹慎の身の上である。おしこみで捕縛された以蔵と南町奉行所の同心塚本の証言により、押し込みへの加担を疑われたからである。 

このままでは、正紀は廃嫡となり、藩主の座を奪われる可能性が出てきた。 

 

正紀の身辺に起こった犯罪に巻き込まれる。捜査の進展に伴って、高岡藩そのものと、本家、分家の藩、尾張徳川家の思惑、幕閣の意向等々が明らかになってくる。これが、これまでの話の組み立て方である。今回も、ほとんどその形を踏まえている。 

 

これから為すべきは、まず正紀の無実を明らかにすることである。 

正紀の押し込みへの加担を疑わせる発端となった巨漢を探す必要があった。 

さらに、以蔵の妻と子の行方を追わなければならない。以蔵の正紀に対する証言は、妻子を守るために為されたはずである。江戸での聞き込みで、関係のありそうな人、落ち着き先を探し出さなければならない。 

 

本書は、ほとんど警察小説の趣である。 

江戸屋敷で、正紀に付き従ってきた面々は、藩の財政的な問題のために様々な商家を廻り、陰謀に巻き込まれて、張り込みをし、尾行をしてきた者たちである。最近は、とくに江戸家老の嫡男の佐名木源之助にとっては、聞き込みなどお手の物となってきた。しかし、佐名木と植村の捜査は難航した。手掛かりは少なかった。 

藩内も揺さぶられた。地位を餌に取り込まれ、反正紀派の連判状まで作られる始末である。 

 

これまで様々な場面で描かれた、水運に関する知識も披露されている。巻頭に置かれた、関東の河川地図もだてではない。この水運が利用されることによって、この話に空間的な広がりが与えられている。 

 

しかし、問題は解決される。その問題の解決の仕方が独特であった。どのような経緯で、どんな形で問題が落ち着くか、それも本書の読みどころとなっている。