トランプの登場以来、アメリカは変化したように見える。

本書は、「白人ナショナリズム」という、これまでとは違った角度でアメリカを見る道具(概念)を与えてくれる。

 

著者は、まずは実際に人に会って、人間そのものの感触を探っている。

 

白人ナショナリズム(=白人至上主義)の指導者的存在のジャレド・テイラーは、日米間の翻訳・通訳業で成功を収めた。雑誌『アメリカンルネサンス』(AmRen)を発行している。

 

著者は米南部テネシー州のナッシュビルで、テイラーの雑誌の年次会合に出席する。

<自分たちがリベラルな社会秩序の「犠牲者」であるという意識は、会合全体を貫く通奏低音であると言ってよい。>(13頁)

著者は、移民・難民の流入等を否定するために<白人支配を正当化した往年の優生学を焼き直した疑似科学>を援用していると感じた。他方、<直接的な反ユダヤ主義の言説はほとんど耳にしなかった。>ただし、この会合への<参加履歴が判明すると、解雇・退学処分になる公算が大きい>。<まるで学会のような雰囲気>であったが、アメリカの一般社会からは、そのように見られているということである。

 

トランプ氏に関しては、

<人種としての「白人」を意識して選挙戦を勝ち抜いた「米国初の白人大統領」>と外部では評されているが、<AmRenのホームページではトランプ支持者に対するヘイト犯罪を地図上に示した「反トランプ・ヘイトマップ」が掲載されている>(19頁)状態である。

 

ロサンゼルスでは「米国自由党」代表のウイリアム・ジョンソンに会う。多くの日本企業の顧問弁護士を務めている。反ユダヤではない。自称<人種的現実主義者>(20頁)である。

「米国自由党」の主張をマイルドにすると、トランプの政策に近くなる。

党の綱領には、<私たちは米国人と米国第一主義のためにあります>(22頁)とある。

 

AmRenの会合で知己を得た夫妻に、カリフォルニア州南部の邸宅に招かれた。ブランチで老若男女20余名のゲストと同席する。

<冒頭、ゲストが皆で「フォーティーン・ワーズ」(14 Words)(*1)を唱えたので驚く。>(29頁)

<米国に有るのは多様性などではなく、第三世界からやってきた数百万人、数千万人の移民がもたらした混乱にすぎません><多様性を好んでいるのはビジネスだけです。そして、ビジネスの世界はユダヤ人が牛耳っています>(30頁)

<白人のエスノステート(*2)の創設が急務です>(32頁)

 

著者は改めて考える。

<しかしながら、確かに彼らの視点や論点は過激ではあるものの、まったく理解できないわけでもない。少なくとも、彼らの主張に共振する米国が存在することは否定できない。>(34頁)

 

かつて「クー・クラックス・クラン」(KKK)の有力団体の最高幹部を務め、知名度が高いデヴィッド・デュークと電話で話を聞くことができた。

自らを人権活動家human rights activist)と称し、人種ごとのエスノステートの実現を望んでいる。シャーロッツビルでの抗議集会に参加したが、事件(*3)に対するトランプ大統領の態度にはおおむね満足している。反ユダヤ主義が言葉の端々に伺われる。

 

シャーロッツビルでの抗議集会には、これまで述べた旧世代に対する新世代である「オルトライト」(Alt-Right)も参加した。活動内容に大きな違いはないが、オンラインコミュニティを積極的に活用しているところが多い。

 

白人ナショナリズムの多くの分派も記述されている。歴史的経緯についても触れられている。アメリカとヨーロッパ諸国の右派との相互の影響関係も取り上げられ、何とも盛りだくさんの内容である。さらに、陰謀論もてんこ盛りである。

正直、挙げられた多くの人名の中で、トランプとスティーブン・バノン以外の名前を知っている読者がどれほどいるだろうか。つくづく日本人の知らない世界だと思う。

 

<白人ナショナリストに関して、高学歴の者が多かった点に加え、もう一つ印象的だったことは「人種思考」(racial thinking)の強さである。>(124頁)

<テイラーは「米国最大のタブーは人種間の能力の違いを認めようとしないこと、人種間には遺伝子によって規定され、継承される明確な差異がある」という。>(124頁)

 

著者は考える。

日常生活で何気なく用いられる用語を、記述的概念とすれば、<白人ナショナリストの場合、記述的概念である「白人」を科学的概念のごとく扱い、自らの政治的主張に援用している点が非科学的で危険に映るということだ。>(125頁)

 

様々な意味で興味深い話も多い。。

<KKKというと黒人排斥のイメージが強いが、実際のターゲットが、カトリック、ユダヤ人、黒人の順だったことは興味深い。>(81頁)

<米南部では一八七七年から一九五〇年までの間に四〇〇〇人近い黒人が私刑によって殺され、うち二〇パーセントは白人観衆が見守る「公開行事」だったという。>(82頁)

 

<「白人ナショナリストの九九パーセントは日本が好きです」。>(20頁)

これ以外にも日本に関連したことがいろいろな形で出てくる。

白人ナショナリストが日本に好ましさを感じるのは、日本の人種的な均質さのせいなのかどうか。さて ……。

 

**************************************

(*1)凶悪なテロ事件を起こし、獄中死したネオナチ系団体のリーダーが生み出した「私たちは自らの種族の存続と白人子孫の未来を守らねばならない」(”We must secure the existence of our people and a future for white children.”)という14単語のスローガン。

(*2)white ethno-state、白人のみが市民権なり居住権を持つ州ないし地域。

(*3) シャーロッツビルでの白人ナショナリストによる抗議集会では、右派の集会の発起人「ユナイト・ザ・ライト」に抗議する集団に乗用車が突入し女性一人が死亡、一九人が負傷した。