5歳か6歳くらいだったと思います。ある年の夏、母がタンスのなかから黄色いワンピースを出してきて、私に着るようにといいました。

 

私は、絶対に嫌だといって、泣きじゃくりました。自分でも、何でこんなに泣いているんだろうと不思議に思うくらいでしたが、泣きやむことができませんでした。

 

そのワンピースは、黄色い縦縞で白い襟がついていて、スカート部分がふんわりと広がっていました。夏らしくて、さわやかで、かわいらしいワンピースでした。でもそれをみたとたんに、私の心のなかに、いいようのない悲しみが溢れたのです。

 

それは、姉のお下がりでした。でも、姉のお下がりが嫌だったのではありません。

 

母が、姉のほうをより愛おしく思っていて、私を憎んでいることを、黄色いワンピースを通じて、私は本能的に察知したのです。

 

母には私を憎む理由があったのです。

 

母は父とは再婚で、8歳になる姉を連れて新潟の家にお嫁に来ました。父は長男ですから、家を継がなければいけません。そして私が生れました。私は総領娘ですから、特別な存在です。祖父母も叔父叔母もあからさまに姉のことを差別していました。

 

母が姉のことを不憫に思ったのは自然の心の流れです。母は姉のことを不憫に思っていただけでなく、自分自身と姉を重ね合わせていたのです。いじめられている姉はいじめられている自分自身だったのです。そしていじめている側は、家制度の側で、私はそちら側の人間なのです。

 

結局、そのワンピースを着たのかどうかは覚えていません。

 

半世紀以上が過ぎた今でも、毎年夏になると、そのことを時折思い出して、胸が締めつけられます。あのときの悲しみが心の中に再現されるのです。