Imagine...All The Outtakes/John Lennon | もん・りいぶる21(21世紀のレビュー三昧)

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雑食性のレビュー好きが、独断と偏見でレビューをぶちかまします。

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森羅万象系ブログを目指して日々精進です。

1998年? VIGOTONE

木々の葉がすべて落ちて、煌びやかな電飾がその代わりに点滅する頃になると、ついこの人のことを思い出すのだが、しかし、その日からもう28年になる。

だからといってその日にレビューを書いても気持ちの痛さは薄れることはないから思いついたら吉日と、今日このレビューを書いてしまおう。

20世紀を代表するソロシンガーの作品として、最初に指を折りたくなるのがジョン・レノンの『イマジン』だ。その出自を赤裸々に歌い、バンドメンバーとの相克や真っ白な純愛などをデコレートしたこのアルバムは、詩作という点でも燦然と輝くアルバムだ。

気の置けない友人たちだけに取り囲まれて磨かれたシンプルなサウンド。
そして、虚飾をすべて取り払って研ぎ澄まされたボーカル。
地球上に住むすべてのひとに捧げられた平和への祈りのメッセージ。

このアルバムを聴くたびに思うのだ。
ひとりで人間は生きているが、音楽はそのひとりであることをむき出しにする。
そしてむき出しにされてヒリヒリの肌を改めて覆ってくれて、温もりを提供しながら隣にいる誰かと音楽から得られた感情を共有しようとしてしまう、そんな音楽の効用を。

そして人間の欲望は正直だ。
この感動をいつまでも続けたいと思う。
もう少し違った流れでも感じてみたい。
もっと別な、ほんの少し違ったもの、そして、その出来上がりの源泉のせせらぎの音まで。

という思いが多く重なって、別バージョンのイマジンが正式に発売される運びになったりもした。

しかし、多くのファンはそれだけしかないわけではないことを知っている。
膨大な時間をかけてジョンが自己との対話を記録し続け、その成果として一枚のアルバムが出来上がったことを。
さらにいえば、アメリカのFM曲で膨大な量のジョン・レノンのアルタネイト・テイクが放送され、いつ正式リリースされるのかと心待ちにされてもいることを。


だが、やはりそれは叶わぬ夢。
だからこうした企画版の密造酒が造られることになる。

全49バージョン。
これですら全セッション記録ではないけれど、バンドメンバーとのやり取りも含めて、生きているジョンがつい目の前で離しながら曲想を固め、徐々に形が出来上がっていく生々しい姿がここにはある。

合間にはアルバムには収められていない曲もあるけれど、繰り返し「眠れるかい?」とさまざまに歌い継がれてしまうと、やはりノックアウトだ。


アルバム構成は
1枚目がオリジナルアルバムと同じ曲順にアウトテイクが並ぶ。
ある意味、同じでありながら違うパラレルワールド。

2枚目はイマジンを中心としたアウトテイクスで、3枚目はハウ・ドゥー・ユウ・スリープ中心。
イマジンの造られるプロセスも興味深いのだが、執拗に7回繰り返されるハウ・ドゥー・ユウ・スリープは、何度聴いても鳥肌が立つ。
執拗に執拗に。

しかし、それは昇華されていくから美しい。昇華されない愚痴は出口を間違えるし、蛇口から汚い廃液しか出ずに他人に害を及ぼすが、昇華されて芸術に高められた愚痴は、その蛇口から芳醇な酒が迸り出て人々を酔わす。

ジョン・レノンの最期を思うと、あまりに悲しいのだが、彼の出自の中で刻まれた数多の悲惨が徹底して磨かれ昇華されたその芸術は、やはり不滅だ。
この徒花は当然の如く否定されるだろうが、徒花があっての名花であることを思うと、やはりこの徒花を飾る栄誉もこの世の中にはある。