松本清張が好きではないと、今の時代、この本を手にする人は、そうはいない気がする。この「空の城」は、数十年前に実際にあった安宅産業事件を物語として書かれている。なぜ、今頃安宅産業のことなんか読むのかなんですが子供のころから美術が好きで、父から安宅産業で所蔵していた陶磁器は住友グループがお金を出し合って今の大阪東洋陶磁器美術館に展示され、速水御舟の絵画は山種美術財団が購入し山種美術館で見ることができることを教えてくれた。速水御舟の作品、106点の中に代表作となる作品「炎舞」「名樹散椿」などが含まれていたにも関わらず、山種美術財団だけで購入したが、この陶磁器は1社で購入できず住友銀行が頭になって住友グループがお金を出し合って購入して、こうしてみることができる。なぜ、安宅英一郎という人が、安宅産業でこれだけの陶磁器をどうして、どうやって購入できたか以前から知りたかった。
まず、本を読んでいて思ったのが、ほぼほぼドキュメンタリーなので、会社名を伏せなくいいのにと、なにか違和感を感じた。これ解説に書かれていたのだけど、松本清張はこの本を執筆したのが、安宅産業と伊藤忠商事が、合併した前後あたりから文藝春秋に連載をはじめたらしい。まだ、事件が落ち着いてなかったろうし、関係者が事後処理をしていた中で書き進んだというのは、すごい生々しさがある。
読んでいて、何もかも異常としか思えない。最初のクイーンエリザベスでの船上での話も、なぜ本社社長より支社長の方がよい部屋であり、パーティも社長をホストする訳でもない。この違和感を詳しい説明がないまま物語が進んでいく。そして、どう考えてもサッシンというに人間はどこまで信用していいのかわからないのは、この時代の人でも気がつくだろうと思う。けど、この時代の商社は大なり小なり博打のようなことをして会社を大きくもしたり、小さくもしたのだろうと想像がつく、そのため、松本清張はこの本で江坂明太郎のディズニーシーの失敗などをさりげなく書かれている。今、浦安にディズニーランドの横にシーもあるが、時代が早かっただけなんだろうと思う。
読み進んでいく中で1番、衝撃を受けたのはクラウン・カンパニーでは無くなっていたことをサッシンが上杉に伝えるとこだった。この時点で、何か対策をうつことができなかったのかと思うが、現実的に考えてもあれだけの施設をクイーンエリザベスをチャーターして見学しているだけあって、信用するしかないのだろうか・・・。
後半、安宅産業のメインバンクの住友銀行とのやりとりがでてくる。この本を読み終わって、カナダにある製油所があるのか調べていたら、住友銀行の樋口広太郎氏が、この安宅産業の担当者だったことが書かれていた。松本清張が、事件後数十年あとに執筆していたら、のちにアサヒビールを再建する樋口広太郎からの目線を入れると、どうだったのかと思う。
この本を読み終わって、企業とは何か?と考えさせらる。
ただ、池波正太郎もそうなのだけど、これだけ厚い本でありながらテンポが遅い。それと、私的にはちょと意味のない説明が多かったのが読んでいて辛かった。
すみません、あとで安宅英一郎のことを追記します