鳥山明が存在を“忘れてしまった”女性キャラとは…? 名作『ドラゴンボール』の裏話を紹介。最も不遇だった登場人物とは?
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●『ドラゴンボール』から消えたキャラクターとは?
『ドラゴンボール』はコメディ要素を含むアクション漫画としてスタート。読者に多くの元気と勇気を与え、悪に対する善の勝利が描かれる壮大な叙事詩へと進化を遂げ、最終的に少年漫画界の王様と化した。その後世界的に広く認知され、後続の世代の人気少年漫画『NARUTO』や『ONE PIECE』に多大なインスピレーションを与えた。
鳥山明の想像が産み出す生き生きとした刺激に満ちたデザインは、主人公の孫悟空や、気高いベジータなど、カラフルで奇抜なキャラクターの登場により命が吹き込まれる。そんなページを埋め尽くす刺激的なキャラクターの中には、元々はライバルであるものの主人公・悟空と後に親友となる“クリリン”のような、徐々にその重要性が増す登場人物もいる。しかしそれとは対等に、物語との関連性を失い、途中で姿を消す登場人物もいる。
変化する物語に途中で適応しなくなり登場場面がなくなることは自然なことだ。しかしその中でも注目を浴びるのは、物語の初期に姿を表したものの急速にその姿を消した“ランチ”の存在だ。
このユニークな個性を持つランチというキャラクターは、『ドラゴンボール』の人気レギュラーキャラクターであったが、やがて漫画のページから完全に姿を消す。そんなランチは、シリーズ初期の登場人物で、原作では、其之二十六「?(ふしぎ)な女の子」、アニメでは第15話「?(ふしぎ)な女の子ランチ」でそれぞれ初登場を果たす。
彼女の面白いところは、普段は黒髪のおしとやかな美女ではあるが、くしゃみをするとマシンガンを片手に持つ金髪の荒々しい性格へと変貌する部分にある。
そんな青髪の大人しい人格と、金髪の凶暴な人格がくしゃみで入れ替わるランチは、凶暴な金髪の人格が銀行強盗を行い逃走するも、くしゃみで大人しい青髪の人格へと入れ替わってしまい、自身が警官になぜ追われているのかわからなくなる。
しかし偶然にも「ぴちぴちギャルを連れてくる」という条件の元、亀仙人に弟子入りを志願していた悟空とクリリンが、警察から追われるランチを救い、亀仙人の元へ連れていくのだ。その後、ランチは亀仙人の亀ハウスに残り、亀仙人を助け続けることを決め、繰り返し作中で登場するキャラクターとなった。
乙女チックでありながらも自分の身は自分で守れるという強い性格の二面性を持つランチは、シリーズで最も愉快なキャラクターの一人となっていた。
しかし『ドラゴンボールZ』ではランチの役割は大幅に減少し、『ドラゴンボールZ』の最初の物語「サイヤ人編」では、天津飯に恋し追いかけ続けるガールフレンドとして登場するのみとなる。
ちなみに、ランチが初めて天津飯に恋心を抱くのは、第22回天下一武道会の時である。しかし2人の関係は、特に重要な物語としては扱われない。天津飯が一度殺されたとき、ランチが亡くなった天津飯を悼む姿が描かれたが、幸いなことに、天津飯はナメック星のドラゴンボールを使って復活を果たす。しかし、彼の復活後ランチがシリーズに登場することはない。
●鳥山明は何年もランチのことを忘れていた
コミカルな脇役からちょっとしたカメオ出演まで、ランチの出番は限られており『ドラゴンボールZ』初期の短い登場を最後に、突如姿を消してしまった。結局、ランチの登場はそれっきりとなり、全シリーズに登場することはなかった。しかし、なぜ彼女はドラゴンボールから完全に姿を消したのだろうか?
とあるインタビューで鳥山明は、ランチの存在をしばらく忘れていたことを明かしている。鳥山はその後、人格が入れ替わり、攻撃性を増すランチの存在を思い出すものの、髪の毛が金髪に変わりより力強くなるという彼女の性格は、新しく登場する超サイヤ人(スーパーサイヤじん)の姿と酷似していると感じ、ランチをシリーズに登場させないことに決めたのだ。
金髪のランチはスーパーサイヤ人のような強靭なパワーを持ち合わせてはいない。しかし鳥山明が言う類似点は確かに一理ある。金髪のランチとスーパーサイヤ人は、どちらも金髪であり、目の色を緑に変え、本来の状態よりも遥かに高い力を発揮する。
『ドラゴンボールZ』の世界観と初期の『ドラゴンボール』とは大きく異なり、ランチはその変化に適合し難いキャラクターとなってしまったのだ。しかしドラゴンボールの映画やビデオゲームでは、今でもランチの姿が登場する。鳥山明が彼女のことを忘れてしまったからといって、ファンがランチを忘れることはない。
ドラゴンボールOP