冬のモンゴル馬はモコモコしてカワイイでしょ?
 

モンゴルだるま@モンゴルよろずコーディネート会社社長兼業遊牧民です。
ただいま、厳しい冬のサバイバル続行中です。
モンゴルの全国でゾドと呼ばれる厳しい気候の影響で家畜に深刻な被害が出る災害が起きています。

前回は草原の我が家の様子と、ずっと昔のゾドの大晦日の壮絶な話を書きました。
今回は、馬たちが越冬している森の仮小屋でのお話です。長文なので、すごく暇な時に何度かにわけてご笑覧いただくことをおススメします。

 

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馬牧民のアセンバイがしみじみとつぶやきました。
「チカは馬の越冬地を選び間違えることがないなぁ。」

 

これは、今は亡き生涯現役馬牧民を貫いたラクチャーおじさんからも言われたことです。


子供の頃から、天気予報とか気象学が好きで、仕事で牧畜気象学(日本だと農業気象学っていうのかな)をかじらせてもらったり、過去5年間分くらいの全国の気象条件や草地条件のデータと実際に旅行アテンドで現場に行って草地を見たり、河川湖沼など水場の状態を見たりしたり、友人や仕事仲間のドライバーさん達や牧民さん達の情報などを総合して、信頼できる地元の人がいて、草地や冬営地のベースキャンプを一緒に使わせてもらえそうなところを候補として検討し、最終的には、自分のできる範囲のベストが何かを選択し、決断します。

 

私の事業の重要な稼ぎ頭でもある大切な馬たちなので、体力温存、越冬、出産あるいは春の厳しさを生き抜けるように年間を通じての、餌と運動と手間のかけ方のバランスが重要だと考えています。

自分で年がら年中、馬と一緒にいられれば良いのですが、あいにく自分の体力とか経済力とかが、そういうリスクを伴う道楽を許してくれません。
最初のうちは、牧畜の規模も小さく、会社のスタッフの人数も少なく、ミニマリストなワークライフバランスで済んでいたけれど、今は、専用のコックさんやゲルメンテナンスマネージャーさんがいて、仕事があってもなくても、結構な額の人件費が飛んでいきますから、真剣に仕事を作り、稼ぐためのチャンスを作るのが私の社長としてのお役目なのです。

兼業遊牧民としての家畜のオーナーであり、経営者としてのお役目は「決断する」こと。
越冬方法を決める、というのは、いろんな命や生活を握ることになるので、決断力が鍛えられます。

ほんとは、ずっと家畜の世話をしながら、厳しい自然の中でゲルで暮らしている・・・っていう遊牧民っぽいほうが読者の皆様のイメージだろうし、私もそのほうがラクチンで楽しいんだけど、と思いつつ・・・
私にとっては、遊牧生活というのは、ビジネスの根幹であり、スタッフが安心して、仕事に専念できる環境を作り、家畜が彼らの一生を十分に人間の役に立って全うできるようにすることが、経営者・オーナーとしての役目だと、ここ4-5年で腹をくくっています。
 

確かに、わたしは、これまで、馬の冬営地はゾドを避けて選んできました。

だから賢いとか、一人前だとかっていうことではなく、たまたま、予測が当たったのと、準備計画の遂行につきあってくれる遊牧民スタッフがいてくれるおかげです。

 

被害にあった遊牧民の方が経験不足、というわけではありません。
ダメな時は、ダメ。それは、私も何度も経験しています。

 

全国的にゾド傾向にあり、すでに21県のうち17県150ソムあまりがゾド認定を受けているという状況。
もちろん、私たちの馬が越冬している、森の仮小屋の周辺だってゾドじゃないわけではありません。

 

 

一面雪だらけ。こんもりしているのは、家畜小屋から出した牛糞

遠出してもどうせ、草ないもんね、とベースキャンプからあまり離れない馬群

 

 

羊やヤギ、牛にとっては、雪が深く、かつ高低差が激しすぎるため、近所では、結構沢山の家畜が被害にあっているようです。

夏の大干ばつや、西部地方から干ばつを避けてオトルという緊急避難移住で1000頭以上の家畜を引き連れて、何軒もの遊牧民が、草原の我が家の夏の放牧地や冬の放牧地に夏中居座り続け、草地がすっかり荒れてしまいました。

仲の良かった遊牧民さん達も夏の半ばで、東部の草の条件がいいらしい、という噂を頼りに引っ越してしまいました。

 

馬をどこで越冬させるか、遠くでオトルをさせるには、8月下旬には移動をはじめ、冬が来る前に、拠点を決めて、その地に馬たちを馴らしておかねばいけません。

馬は厳寒期でも馬小屋で飼うという飼育方法ではないので、馬の越冬オトルは極めて身軽。男の人だけで越冬する場合も少なくありません。

 

実は、2017年は干ばつがひどかったこともあり、アセンバイ兄弟が管理していた森の仮小屋が電気が切られてしまっていて、深井戸での給水ができないなどの問題もあり、テレルジの奥のほうで越冬しようか、という話が出たり、東ゴビの友達のところに預けようか、という話が出たり、ヘンティー県の故ラクチャーさんの親戚のところに預けてもいいよ、という話も出たりしたのです。

アセンバイやガナー君、周囲の牧民さんたち、バータルさんなどがあーだこーだと色々なことを言っていました。

だけど、越冬地をどこにするのか、という判断には、馬たちの安全と共に馬を世話してくれる人の安全と生活の確保、補給ルートの確保、もしも、の時の救援手段の確保、餌の調達供給にかかる全ての費用など、複雑に条件がからみます。


そして、そのリスクを背負うのは私で、かかる費用を捻出するのも私です。

 

2016年は夏の馬旅のお客様に恵まれ、9月末まで、結構駆歩での長距離ライディングをご所望の方もいらっしゃったため、うちのエース馬は、ずっと働きっぱなしでした。
冬はしっかり休ませるつもりだったのに、私が一時帰国している間に、牛の世話をしていたバータルさんがずっと乗用に利用していて、春に突然、衰弱で倒れ、無駄に苦しませて死なせることになってしまいました。

モンゴル人がいくら子供の頃から家畜と共に生きている、とはいえ、結局、生死を分ける判断、決定権をゆだねてはいけない。彼らには責任をとることなどできないのだから。

なので、意見としては、皆さんから自由に忌憚のない意見をいただきましたが、最終判断はすべて私独りですることにしました。
 

この冬は、どこに行っても、ゾドになるんだろうな、という予感はありました。
ならば、馬たちが住み慣れているところで、私たちもいざとなったら1日で駆け付けることができる場所で越冬しようと決めました。

去年は、同業他社が10月くらいまで乗馬トレッキングキャンプツアーをやっているのを後目に、9月上旬で乗馬プログラムは終了。


旅行シーズンのかきいれ時を短縮しても、馬の体力を温存したかったのです。

馬の体力が有り余っているうちに、早めに秋営地へと馬を移動させました。

 

乗用馬として活躍してくれた年老いた去勢馬も越冬が厳しいと判断して、感謝と愛情の全てを注ぎ込みながら、見送りました。

「こんなにおとなしくて、子供を乗せても安心な馬は、モンゴル中探したって、何頭もいないよ。俺が頑張って世話するから、来年の秋まで頑張ろうよ」

馬牧民のアセンバイは、命乞いの懇願をしたけれど、夏のシーズンですら、時々、その老馬がため息をつき、群から何となく離れて草を食んでいることに、私もアセンバイも気づいていました。

いくら餌をやっても、いくら手厚く世話をしても、厳しい寒さや硬く凍り付いた枯草と干し草が餌となる過酷な越冬環境では、体力がなく、食べる力も失っては生き抜くことはできないのです。

歯の摩耗具合が悪かったり、心肺機能が弱ってきていることがわかったら、無理はさせず、ゆったりとした老後を過ごさせ、脂がのった状態で、終息させるしかない。

 

もうちょっと頑張れば、長生きさせられるかも、この冬を乗り越えられれば、あと数か月は生き永らえることができるかも・・・私だって、思います。

 

モンゴルのような厳しい自然の中で、放牧状態で暮らしている馬の人生は、20年前後で終わります。

囲いの中で一頭飼いで餌をやり、ビタミン投与や点滴をすれば、もう少し長く生きられるのかもしれない。

 

だけど、それは馬らしい一生ではないのだ、と遊牧民はいうのです。

 

わかっていても、馬らしく、命をまっとうさせる、その瞬間の決定を下すのは辛い。
 

アセンバイはほとんど一人で馬の世話をしながら越冬しなければいけないのです。
群の管理とは別に、衰弱した馬を持ち上げたり、介護したりと余計な世話をする体力も余裕もない。それは、アセンバイもわかっている。
可愛がっている馬をいざ、さらば、という命を絶つという決断を下すのはとてつもなく辛い。
辛い私の気持ちも慮っているのはわかる。私だって、ずっとずっと一緒にいたいって思う。
それでも、食欲を失い、仲間の群についていけなくなって、雪原で独りぼっちで絶望の中で倒れ、起き上がることができずに、そのまま孤独に死に絶える・・・それもつらい。
あるいは、300㎏以上ある馬を独りで抱え上げ、ベースキャンプまで連れて帰る、なんてことも無理。馬にとっての幸せな一生をまっとうさせるための決定。
一頭だけではなく、馬の群全体とその世話をする牧民の安全と最大幸福を考えて、決断したのでした。

 

 

 

馬は馬の群と共にいてこそ、幸せ。
人間と暮らすことが幸せなわけではない。
馬は自由に暮らしていてこそ幸せ。
ぬくぬくした家畜小屋で暮らしたいわけではない。
馬は気ままに草原を駆けることができてこそ幸せ。
よぼよぼで群においてけぼりにされてまで、無理して立っていたいわけではない。

私は、馬は馬らしい幸せを全うして欲しい。

 

馬は家畜の中でも特別な存在です。
人間と意志を一にして、旅をしたり、仕事をしたり、家族同然な存在です。
姿が美しく、凛とした高潔さを感じる。
それでいて、愛嬌があり、賢さといじらしさがある。

それでも、家畜は家畜なので、最後の最後まで、人間とともに生き、人間の役にたって、命をまっとうしてもらいたい。

遊牧民の心は複雑です。
羊やヤギをさばくのと、馬の命を絶つのは、心構えも違うのですね。

 

極寒のピークを越えた今、アセンバイにとっては、馬の群がまとまり、元気でいてくれる、というのは、ほんとにうれしいことのようです。

 

今はホジルもたっぷり撒いているので、馬の群は、基本的に森の仮小屋から遠く離れて徘徊することはありません。(黒っぽい筋になっているのがホジルです)

 

 

家畜小屋の近くに人がうろうろ現れると、「餌がもらえるかも!」とお調子者の馬たちが、鼻息で馬面を真っ白にしながら寄り集まってきます。

 

ツァガンサルが終われば、春が来る。
はやいところではそろそろ子羊・子ヤギが生まれます。
4月、5月になれば、子牛が生まれます。
去年は出産しなかったメス家畜が多かったので、牛も馬も出産が早いかもしれません。

色々な判断をしながら、今、家畜たちがそれぞれの越冬地で、それなりに元気に暮らしてくれている、ということは、私にとっても、本当にうれしいことです。

 

今回、今のところ、なんとか無事に越冬している、とはいえ、まだ春の嵐や大寒波、干ばつなど厳しい状況が、これからも何度も起きるでしょう。
そのたびに、私たちは大切な何かをもぎ取られるように失い続ける。


それでも、やっぱり家畜とともに草原で暮らす生活は楽しいし、素晴らしいし、大事にしていきたいと思う。
死の悲しみは、生の喜びとともにある。

 

極寒も猛吹雪も耐えながら、元気でいてくれる馬たちに感謝だし、面倒みてくれているアセンバイにも感謝です。

越冬地の選択は確かに私がしたけれど、世話を引き受けてくれる牧民スタッフと、耐え忍んで生き延びてくれている馬たちだから、今、生きているんだと思います。

 

 

真ん中は、私の専用馬(馬の自意識的に)のちびくりちゃん。
私がのたのたビニール袋とかズタ袋を持って歩いていると
なんかええもん、持っとるの?とぐいぐい寄ってきます。

 

 

こんな感じで、結構、いろんなものを背負いながら、生きております。
極寒や大雪、猛吹雪など厳しい環境を乗り切って、夏にはまた、お客様をのせて、ひゃっほーな感じでご機嫌な馬旅で活躍するぞー!
 

 

今年も2018年6月以降の馬旅・家族旅行(夏休みの自由研究・絵日記のメインテーマになる!)・お友達旅行・リトリートプログラムなど、お客様の夢をかなえる冒険イベントを色々企画していきます。
何かピン!と来てくださった方、ぜひ「草原の我が家」のお客様になってくださいませ。

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長々とありがとうございました。
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