広い草原の北側には、彼方に大地を囲むように高い山々が見える。
この山の向こうはバヤンウルギーというカザフ民族の土地だ。
この山の向こうはバヤンウルギーというカザフ民族の土地だ。
西に行けば県都オラーンゴム、東に行けば世界遺産のオブス湖。
南には遮るもののない大平原。
南には遮るもののない大平原。
これが、西モンゴルのオブス県、これから私が滞在する場所の風景。
「あの山地の名前はバヤンハイルハン。そして隣はハルヒラ・トゥルグン山地。その隣はダブスト山地。その中で一番高いのがフゲン山」
「ふむふむ」(私は手帳にメモしながら聞いている)
「その昔、ここは赤い土の土地と呼ばれていて…(以下滔々)…」
「待って!そんなに早くたくさん話されたらわからんー!」
「何がわからないんだ?ここまではわかったか?いいか?」
声が大きくて、たたみかけるように話すソドノム。
顔が笑っているから怒っているわけじゃない。
正直言うと、方言がきつくて怒鳴っているようで、何を言っているのかまるでわからないお母さんの方がよっぽど怖い。
顔が笑っているから怒っているわけじゃない。
正直言うと、方言がきつくて怒鳴っているようで、何を言っているのかまるでわからないお母さんの方がよっぽど怖い。
「ユミ、お前の専門は何だ?」
モンゴル人はよくこういう質問をする。
仕事は何?ではなく専門。
共産主義の頃の名残だろうか。
初めは違和感があったけれど、つまりは何が得意なのか、どんな仕事をしているかを答えればいいらしい。
仕事は何?ではなく専門。
共産主義の頃の名残だろうか。
初めは違和感があったけれど、つまりは何が得意なのか、どんな仕事をしているかを答えればいいらしい。
「ソドノム、あなたの専門は?」
「私は詩人だ。今は母の手伝いをしているけど、最近まで街に住んでラジオ局で働いていた。今度2冊目の詩集が出る予定だし、首都まで芝居の脚本を売りにも行くんだ」
詩人!
真っ黒に日焼けして、分厚い手と太くて筋肉質の彼は、見た目にはコテコテの遊牧民なのだが、人は見かけによらないものだ。
まあ、詩人が繊細な外見だというのは私の勝手な思いこみである。
ソドノムの詩がどんなものかはまだわからないけれど、遊牧の詩は遊牧の暮らしの中から生まれて来るのだろう。
ソドノムの詩がどんなものかはまだわからないけれど、遊牧の詩は遊牧の暮らしの中から生まれて来るのだろう。
こんなに饒舌な文化人と一緒にいたら、かなりモンゴル語鍛えられるなあ。うーん、ありがたい。…あれ?じゃあ彼は馬頭琴弾きじゃないってこと?
そういえば、ゲルのどこにも馬頭琴は見当たらなかった。
「あなたは馬頭琴弾けるの?」
「いや、弾けない。でも馬頭琴弾きには今度街に行く時に会わせてあげよう」
何もかもは上手くいかないのは旅の常識だが、軽くがっかりである。
「じゃあ、モンゴルのこの地方の歌とか教えてね」
「ああ、たくさん詩や諺も教えてあげるよ。あ、馬がはなれてる。つないで来るから」
そう言うと、ソドノムは馬のつなぎ紐を、雑作もなく手近な草にぐるぐると縛り付けて戻ってきた。
「へええ!馬をつなぐのって草でもいいんだ!そっかー。」
「はは、面白いか?なんでも使えるよ。馬に関する言葉も教えてやろう」
鞍、鞍の上にのせる敷布、鐙(あぶみ)、鞭などの言葉を教えてもらい、聞き取れないので手帳に書いてもらい、そんなこんなしながらゲルに戻ると、お母さんとアリマーが朝食の支度をしていた。

