ホーチ・ホチ・ホチ・ホチ!


子牛の背中を見ながら、こんな声を掛ける。

牛追いの掛け声。

 

乳を絞り、草原に放ち、居場所を確かめ、

時々方向修正に行き、また連れ戻り、また乳を絞り…。

これが牛飼いの一日のサイクル。


ということが、この家に来て丸一日が過ぎてわかった、

その次の日の午後。

 

「ユミ、子牛を連れて戻ってきて」さらりとアリマーが言う。
「え!ひとりで?」
「そうそう。あそこにいるでしょ。できる?」
「やってみる。どうしたらいいの?」
「ホーチ・ホチ・ホチ・ホチ!」アリマーがニッと笑う。

 

アリマーが指差す方向に子牛たちがなんとなく固まって佇んでいる。
だだっ広い草原を、子牛の群れの方へとてくてく歩いて近づき、

何もなかったように一回通り過ぎてから振り返り、そして。


「ホーチ・ホチ・ホチ・ホチ!」
子牛たちがピクっと反応し、歩き始めた!
やったー!子牛にもモンゴル語通じた!!


パラパラと横広がりになる子牛たち。

右から左から声かけしながら、またてくてくとゲルへと向かう。

素直に歩いていく子牛たちの後ろ姿がもう愛おしい。

 

 

おおー、なんか遊牧民らしいやん自分。

思わずにやけてしまう。

 

ゲルに戻るとアリマーとお母さんが待っていて、

慣れた手つきでつなぎ綱につないでいく。


子牛の首紐は、放牧するときには首に巻きつけておいて、

つなぐときには紐の端を引っ張るだけで解けるように結ぶ。
この結び方、スムーズにできるようになるまで私は数日かかった。

 

ソドノムとバトカはバイクに二人乗りで草刈りに出かける。

秋のうちにたくさん草を刈って干し草にして、冬に備える。

これは男の仕事だという。


そして、3日に一回くらいは街まで牛乳を売りに行く。

3日前の牛乳を売りに行くわけではなくて、

自宅で加工する牛乳の余りが出るのが2、3日置きなのだ。

(草刈りと牛乳加工の話は長くなるので次回以降に)

 

そういうわけで、日中のゲルには女性たちだけが残っている。
遊牧民生活。

「男の仕事」とやらにもかなり興味はあるのだけど、

家の仕事もとっても興味深い。


掃除、牛乳加工、洗濯、燃料集め、ゲルの補修、繕いもの、

料理、食器洗い、子守り、箒草集め、燃料加工、水汲み、かまどの灰の片づけなどなど。

 

掃除はゲルの中を掃くだけなのだが、

箒は毎年この季節に作るのだそうだ。


お母さんがナイフを片手に外に出て行く。

私も一本ナイフを渡された。


家の周りのそこかしこに束になって生えている穂のついた草を一本ずつ切っていく。

穂が長くて綺麗な草を選んで、だいたい4~5指幅(親指の先から小指の先までの長さ)で切りとる。

これを干して束ねて自家製箒が出来上がる。
家の中にある箒は、もう穂の部分が擦り切れてかなり短くなっていた。


 

(あるがまま舎通信2014年8月号掲載、一部修正)