馬頭琴持参編なのだから、音楽の話を。
話は草原に着いた初日に遡るが、建て終わったゲルの中、
私にとっては初対面のたくさんの人たちが
車座になっていたときのこと。
旅の始め、知らない土地で、まるでわからない状況の中、
まだ緊張の真っ只中だ。
「モリンホール(馬頭琴のこと)を勉強してるんだって?」
「弾いてみせろー」
とそのときは誰が誰だかわからない人たちに言われて、
「まだまだ下手だけどー」とか言いながら、
しどろもどろに一曲弾いた。
そして、褒められたり冷やかされたりしたような気がする
(緊張のあまり覚えていない)。
しかし、ここで萎縮していては
何をしにきたのかわからない。
「私はこの地方の歌が聞きたいです。覚えたいです」と、
これまたしどろもどろに伝えた。
「地方の歌?伝統的な歌?それとも誰かが作った歌?」
「えーと、とにかくこの地方の人みんなが知ってる歌」
我ながら頼りない返事だと思いながら、
あたふたとレコーダーを取り出すと、
「録音するのか!?」皆さんにもやや緊張が走る。
「何の曲にする?」と相談している気配。
「録音準備できたか?」
いきなりこちらに声がかかってビクッとする。
「はい!えっとー、えっとー、テーマは?」
「テーマ?何のことだ?」
題名は?と訊きたいのに単語がわからない!
「いや、いいです。いいです。歌ってくださいー」
「大丈夫かー?」
笑いも起こる。
「オブスノールにしよう」
ここからすぐ5km先にある世界遺産「オブス湖」の歌らしい。
一人が歌いだすと、
他の人たちも少し照れくさそうに一緒に歌い始めた。
ゆったりとした壮大な印象のメロディが、
車座になった男達の低くて渋い素朴な声で、
不揃いに歌われていく。
そしてもう一曲。これは一人だけが歌ってくれた。
つぶやくように。
「バヤンハイルハン」
この地方の山地の名前だ。
哀愁を感じる美しい旋律。
歌われているのはどんな歌詞なんだろう。
この地で、草原で、ゲルの中で、地元の人に地元の歌を歌ってもらっている。なんという幸せな現実。この2曲を日本に帰るまでに馬頭琴で弾けるようになろう、と、このとき密かに心に決めた。
(あるがまま舎通信2014年8月号掲載、一部修正)
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