~乳製品の話(その1)~
初めて畑をした人が、野菜の育ち方や実り方を初めて知って驚くように、パックに入った牛乳か、できあがったヨーグルトやバターやチーズを買うだけの日本人にとって、モンゴルの牛乳加工は感動的だ。

朝と夕方に絞った牛乳は、ごみを取るために漉しながら、竃にかけた大鍋に入れられる。これは夕食の後片づけも終わった後の、あとは寝るだけ、という時間の夜のお仕事。
大鍋の中の牛乳を、お茶を沸かすときのように、ときどきお玉ですくい上げながら沸かす。沸く前に、水かお茶で溶いた小麦粉を少し入れるのを忘れてはいけない。なぜ?まだ内緒。

お母さんはその沸きたての牛乳を茶碗に注いでくれる。みんなに一杯ずつ。
子どもの頃、私は沸かした牛乳に出来る膜が嫌いだった。ぺったり口につく感触。特に味のない、下手をすると口の中を火傷さえする無駄なものという感じがしていた。
ところが、ここで頂くほかほかあつあつの牛乳は、その膜の方が美味しい!脂肪分をたっぷり含んだままの牛乳の膜はチーズじゃないかと思うくらいにこってりとコクがあって、噛むほどにおいしいのだ。もちろん牛乳自体にも甘くてしっかりした味がある。
そんな心も体もあったまるホットミルクを飲んで眠りにつく。体の芯から緩んでいく。ミルクのある日の夜は幸せな気持ち。牛乳を飲むのが目的じゃなくて、翌日加工するために沸かしているのだから、これはラッキーなおまけ。毎日いただけるわけじゃないのだ。乳茶は毎日飲むけれど。

さて翌朝。そのまま一晩おいておかれた大鍋の蓋をあけると、分厚い湯葉のようにさらに膜ができあがっている。ぷつぷつと沸いた泡のあとさえも残っている、見るからにおいしそうな膜である。
この膜は「ウルム」といって、たいていのモンゴル人の大好物だ。鍋からスプーンですくい取って皿に盛られたウルムは、表面こそ膜だけれどその下はクリーム状で、バターのように使われる。パンやドーナツのようなお菓子に塗ったり、ひと匙とってお茶の中に混ぜたり、そのままおやつにすることもある。
味はバターよりも生クリームに近い。これをぽってりとパンに塗り、さらにちょっと砂糖をふりかけたりしようものなら、かなりの至福である。
ここで、「なぜ牛乳を沸かすときに小麦粉を入れるのか」の解答を。小麦粉を入れると、このウルムが分厚くなるのだそうだ。
みんなウルムが大好きだから、分厚い方がうれしいに決まってる。

 

(あるがまま舎通信2014年10月号掲載)