試作機を前にして温度上昇試験を行っていた。

 

その試験は一回3時間かかる。ただ、途中で何かトラブルがあった時にすぐに対応できるように試作機の前を離れるわけにはいかなかった。

 

 

 

私は椅子に座り、稼働している試作機を見ながら、だけど頭の中では先ほどの企業B人事担当Kからの電話の内容がぐるぐる回り続けていた。

 

 

 

企業Bへの転職の内定を受けるべきだろうか。

 

確かに目の前の苦しみからは逃れられる。

 

だけど、私は周りとうまく関係を作っていくことができない人格を持ち合わせていて、それなのに転職してしまうとこれから全く新しい場所で一から人間関係を作っていく必要がある。転職したとしてもその先にも、私は今と同じか、あるいは今以上の暗闇が立ち込めているのが見えるような気がした。同じことを同じように繰り返すだけのような気がした。

そのような未来が怖くて怖くてたまらなかった。

 

だけど、このまま企業Aに居続けても、私はどこかで潰れてしまう気がした。

企業Aの中で私が進んでいる道の先に、私が目指したいと思える未来なんて存在しなかった。そのまま企業Aに居続けて、そのまま企業Aで定年を迎える。そのような未来を想像するだけで私は絶望に襲われた。

そのような未来なら私は欲しくない、とすら思った。

 

 

 

つまり、私は転職する未来、転職しない未来、二つの未来に同じように絶望していた。

 

 

 

私はどうすればいいのだろう。

自分自身に問いかける。

 

考えれば考えるほど、何が正解なのか分からなくなった。

 

 

 

その日は、いつもと同じように22時頃に会社を出た。

家に帰り、風呂に入る。

 

私はどちらの道に進むべきか。

そのことを考え続けていた。

 

 

 

だけど、その1ヶ月前に転職活動を始めた時点で、ある意味では私の中では答えは出ていたのだと思う。

 

 

 

転職するという未来が怖くて怖くてたまらないのだとしても、私はその道を進むしかなかった。それ以外の選択肢はなかった。

 

だって、そのために転職活動を開始したのだから。

 

それくらい、その当時の企業Aで私は追い詰められていたのだから。

 

 

 

たとえその先に暗闇が待っているとしても、それよりも、転職することによってすぐ目の前にある苦しみから逃れ、なんとか今日という1日を生きのびることの方が大切だったのだから。