最終出社日。

私が「会社」に出社する最終日。

16時半から、私からの退職の挨拶が予定されていた。

 

 

居室隅のミーティングスペースに、部署の全員が集まっていた。

一般の社員、そして定年後に再雇用された社員。また、T主任からのメールを受けて、製品Vの担当者も何人か後ろに立っていた。

 

 

 

企業Bに転職してきてからの5年間は本当に苦しいことの連続だった。そしてその日々の中で上司や会社に対して多くの疑問や不満もあったのも事実だった。長期にわたる長時間勤務に心の底からうんざりしていたのも事実だった。だけど、その挨拶に関しては、私は自分自身に一つのルールを課していた。

 

「決してネガティブなことは言わないようにする」

 

最後に捨て台詞のように不満を口にするようなことはしたくなかった。

 

 

 

 

「私は中途でこの会社に入社して、入社したのが2018年9月なので、ちょうど5年くらい前になります」

 

私はみんなの前に立って、口をひらく。

これが最後なんだ。

そう思うと変な緊張感が、私の口を硬くさせた。

 

 

 

「もともとは◯◯(前職の企業A)で製品開発をやっていたのですが、企業Aは企業向けの製品を主力としていたので、私は企業向けの製品を作っていました」

 

 

「ただ、私の中で、設計者として、どうせ作るのなら一般家庭で使われるようなコンシューマー製品を作りたい、という思いがあって5年前に転職しました」

 

 

「配属当初はコロナ前ということもあって、設計室の環境は今とは全く違っていて、設計の実務を派遣社員の方々が担っているような状況でした。転職して環境を変えたこと、そして、開発環境自体も全く違っていたということもあって、入社直後はこの職場に入っていくのに本当に苦労しました」

 

 

「入社後に私が担当になったのは製品Kでした。その担当管理職のNさん、そして、ユニットリーダーだったSさんにはこの会社のことを本当に色々と教えていただいて、二人の助けがあったからこそ、この会社での仕事がスタートが切れたと今でも思っています」

 

 

後ろの方に立っているNさんとSさんを少し見やりながら、私は言葉を続けた。