最終出社日の午後1時半頃、製品Vのユニットリーダーを私から引き継ぐT主任から、製品Vの全体のメーリングリストに次のようなメールが流された。

 

「◯◯主任(私)が本日が最終出社日となります。本日16時半より、◯◯で退職の挨拶があるのでお時間のある方は参加をお願いします」

 

できるだけ静かにこの場所を去りたいと思っていた私は、

「そんなメールを送る必要なんてないのに・・・」

と心のどこかでは思ったが、それでもT主任が私のために気を使ってこのメールを送ってくれたんだろうと好意的に受け取ることにした。

 

 

 

 

午後の時間、まず私は更衣室に向かった。

 

そこで作業着から私服に着替え、作業着はいつものようにロッカーのハンガーにかけるのではなく、そのまま手に持って更衣室を外に出た。私がこの5年間使い続けたロッカーにはもう何も入っていなかった。作業着はそのまま居室隅にある廃棄箱の中に入れた。

 

 

 

居室に戻る際、T主任がメーリングリストに送ったメールを見たのだろう、私服の私の姿を見て、製品Vやそれ以前の製品で関わっていた人の幾人かから声をかけられた。

 

 

私が企業Bに転職した直後に担当した製品Kでも関わったE室長は、私を見て、

「今日が最後なんだ」

と話しかけられた。

 

「はい。今までお世話になりました」

私は軽く頭を下げる。

 

「いやいや、こちらこそお世話になりました」

 

 

 

また、製品Vの直前の検討でも色々とやり取りをしていたY主任からは、

「お疲れ様でした」

と声をかけられたので、私も、

「お疲れ様でした」

と返した。

 

 

 

 

その後、人事の退職担当に電話をして、これから退職関連の書類を提出したいので人事の居室に向かうことを伝える。

 

 

書類、会社から支給されていたPHS、そして未使用の作業着を持って人事に向かった。

 

 

人事の居室に入った私を見て、一人の男性社員が立ち上がって私に声をかけてきた。

「作業着を受け取りに来たんですか?」

 

私を別の誰かと勘違いしたらしい。

 

 

「いえ、退職のための書類を持ってきました」

 

すると、居室の奥から以前に退職ヒアリングもした退職担当が駆け寄ってきた。

 

 

始めに私に話しかけていた男性社員は、私が退職する社員であることを知って少し気まずそうな顔をしていたのだけど、私は自分自身を卑下するつもりは全くなかった。

 

私は退職担当に持ってきた書類を渡して、その居室を後にした。