私が大学生の頃、NHKで「プロジェクトX」というドキュメンタリー番組が放映されていた。

 

この番組の主題歌は中島みゆきの「地上の星」となっていて、この主題歌も流行って紅白歌合戦では黒部ダムから中継で中島みゆきがこの歌を歌っていた。

 

 

 

「プロジェクトX」では、毎回ある一つのプロジェクトを取り上げていた。

 

そのプロジェクトを完遂させるために途中様々な障壁や問題が立ちふさがり、それをメンバーが一致団結してそれらを解決していき最後にそのプロジェクトを成功に導く。毎回そのようなストーリーに沿って番組は構成されていた。

 

そのプロジェクトが「黒部ダムの建築」だったり、マツダの「ロータリーエンジンの商品化」だったりした。メーカーが画期的な商品を何とかして世の中に送り出すというものがテーマとしては多かった気がする。

 

 

 

 

 

大学生の頃の私は、そのドキュメンタリーを毎回ワクワクしながら見ていた。

 

何にそんなにワクワクしていたのだろうか。今となってはよく思い出せない。ただ、目指したい目標があって、必死になって努力をしてその目標を仲間と一緒に達成させていくという単純なストーリーに感動を覚えていたのかもしれない。

 

 

 

 

大学から大学院に進み、一年も経つと周りは就職活動を始めるようになった。

私もその波に乗り遅れないと思い、様々な企業の会社説明会やら筆記試験やらに応募した。

 

その当時はNHKの「プロジェクトX」に大きな感銘を覚えていた時期でもあったので、私は当然のようにNHKの新規採用にも応募していた。このように人を感動させられる番組を作れるのなら、私のそれまでの無味乾燥の人生も少しは意義を見いだせるような気がした。

 

だけど、NHKは結局書類選考で落ちてしまった。

 

 

 

 

私は次の進路を考え直す必要があった。

 

私の中には特に「〇〇をしたい!」という強い思いは全くなかった。

ただ、就職して自分だけの収入を作り出して経済的に自立したいという思いだけがあった。就職に有利だろうと選択した「機械学科」という学科。そしてプロジェクトXで感動した「世の中にインパクトを与えるような商品の開発」という物語。その二つから導き出せるのは、「メーカーで製品開発職に就く」という道だった。

 

 

その当時の私は嫌々その道を選択していたわけではなかった。

 

新しい製品を作り出して、それを世の中に送り出す。

そのような仕事は誰もが出来るわけではなくて、それこそメーカーの製品開発職に就かないとできないことだった。それならば、その道を進んでみるのも面白いのかもしれない。そんな漠然とした期待が自分の心の片隅にはあったのだと思う。