11月1日        <回転扉>
以前ゴールドマン・サックスの共同会長で、米国財務省長官に就任し辣腕を振るい、最近辞任したロバート・ルービン氏が、今度は何とシティー・バンクの共同会長に就任しました。「リボリング・ドアー(回転扉)」とよく言われる、このアメリカにおける官民の交流は、確かに行き過ぎるといろいろと問題もあるでしょうが、一般には官にも民にもいい影響の方が多いようです。もう一つ重要なのは、このようなことがあまり問題視とされないことの背景には、きちんとしたルールが確立されていて、不透明な部分がなく、認知されているのでしょう。日本においては、このようなルール作りがまず大切だと思われます。


11月2日     <郵便貯金>
もしアメリカで、明日からFED(連邦銀行)が個人から10万ドルまで預金を預かる、消費者間でも消費者・企業間でも決済業務を取り扱うと言ったら、アメリカの銀行株はどうなるでしょうか?FEDの抜群の信用力と基幹ネットワーク。中々勝負になりません。恐らく暴落すると私は思います。日本における郵貯も同じですよね。預金の上限を大幅に下げるとか、何か対処しなければ日本の民間金融機関は見えない巨大な内なる敵に押し潰されてしまうと思うのですが…


11月4日    <流体力学>
スペース・シャトルに載って何度でも宇宙に行けたり、遠い惑星までにも宇宙船を辿り着かせることのできる時代になりましたが、一方、今手元にある風船が、5分後にどこにあるかを計算するのはほぼ不可能だそうです。制御の技術は格段に進みましたが、数多くの変数によって流体がどのように時間軸の経緯とともに動くかの予測は極めて困難です。これは高速道路が渋滞しないように入り口を閉鎖するのは簡単ですし、車を運転して日本中どこへ行くのも簡単ですが、東京都内で日中どこか目的地に行く時に、到着時間を確定するのが難しいことにも似ています。市場の動きも似たものがあるかも知れません。特に何かの情報や心理状態をきっかけに一方向に動き出す時のタイミングやその程度について予測するのはとても難しいものです。いずれ流体力学の手法ももっと進み、市場の動きの解明にも利用できる日が来るのでしょうか?


11月5日     <対GDP比>
日本とアメリカの人口比は約1:2、GDP比も約1:2、しかし上場企業の時価総額の和の比は約1:4です。上場基準の違いであるとか、今の日本が特別に抱えている(かも知れない)含み損の問題とか、いろいろとあるでしょうが、それにしても日本の株価の対GDP比がアメリカのそれに対して半分しかないというのはちょっと行き過ぎでしょう。金融関係の様々な指標は長い目で見るとmean(平均値)に戻ってくる性質がママ見られますから。


11月8日     <ネット取引関税>
本日の日経新聞によると、アメリカ政府はネット上でのソフトウェアや画像・音声コンテンツの国境を越えた売買に関する関税の免除措置を恒久化する方向で月末のWTOに提案するらしいです。明らかにネット社会における覇者としての地位の逃げ切り策の1つでしょう。関税を無税化してEコマースが栄えれば栄えるほどネットで先行したアメリカの企業は収益を伸ばすでしょう。アメリカはこのような国内企業の発展のための施策に抜け目がありません。そもそも国の成り立ち自体が、それぞれの生業を持つ人たちが集まって、自分たちの利益を代表・調整するために信託者としての政府を選出し行政を信託した経緯があるからでしょうか。為政者と信託者の違いが、今のような動きの早い時代にはいろいろと差を生んでくる気がします。


11月9日       <煙草の煙>
煙草の煙は紫煙ですが、一旦吸われて吐かれた煙は白煙です。これは気管の中で水分が煙の粒子に付着して粒子が大きくなるためです。吸う前の小さな粒子は波長の短い紫色だけを反射し、吸った後の大きな粒子は長い波長も含めて反射するので白く見えます。同じ理由で空に泳ぐ小さな粒子に青い光が乱反射し空は青く見えますが、逆に空に散る多くの粒子を通り抜けて来なければならない夕陽は、長波長の赤色となります。ネットの世界ではいろいろな情報が氾濫しています。お客様のニーズもいろいろな形で観測されます。掲示板上にあるもの、直接弊社に送られるもの。でも全ての人の意見を含んだ本当の色は、紫色でもなく、赤色でもなく、やはり白色なのだと思います。どのようにこの白色光(全ての波長を含んだ光)を理解して行くかは、大きな課題だと思っています。


11月10日   <まだはもう>
トレーダーがたまに口にする語り継がれて来た文句は中々趣のあるものがあります。その内のひとつに、「まだはもう、もうはまだ」というのがあります。但しこれは日本のトレーダーだけが言うセリフのようですが。いわゆるファンダメンタルズに基づくトレンドを軸に、常に期待の形成とその修正が繰り返され、その結果としてマーケットは小刻みに行ったり来たりします。いち早く期待の形成に参加するトレーダー、人より先に見切りをつけるトレーダー、そういったトレーダーたちがトレーディングの世界では成功することが多いようです。それに替えて、人の後を追って行く行動をトレーディングの世界では「提灯をつける」と言いますが、中々成功しないようです。ちなみに言葉の由来は残念ながら知りません。


11月11日     <LTCM>
かつて「ドリーム・チーム」と言われ、ノーベル賞受賞者2名を擁した、伝説のトレーダー、ジョン・メリウェザー率いるヘッジ・ファンド「LTCM」が、ロシア危機などを契機に大損失し、欧米の金融機関から36億ドルの緊急出資を受けたのは昨年の夏のことでした。かつてソロモン・ブラザーズにいた頃、彼らの教育を受け、彼らのために働いたことのある私にとって、それは衝撃的な、そしてある意味でノスタルジックな出来事でした。「ひとつの時代が終わった」と。しかし今日の日経新聞によると、その36億ドルのうち7割強を既に返済し、近く6億ドル強も返し、それで9割を返済すれば新規資金の導入を認めるという条件を満たし、新たなファンド「JWMパートナーズ」を近々設立するということです。いやはや、あっぱれとしか言いようがありません。しっかりと借りを返し、そしてまたあくなき挑戦に挑む。私にとっての先生でありヒーローであったJMとその仲間たちは、やはり私にとっては永遠のヒーローです。たとえ今回のファンドで失敗することがあっても。


11月12日    <トレーダー達の想い出>
昨日LTCMのジョン・メリウェザーとその仲間たちの話を書きましたが、ひとつ想い出話を。あれは1988年のことだったと思いますが、JMの配下のトレーダー達は自らの理論を信じてそれを実践し、市場の歪みから巨利を挙げており、文字どおりウォール・ストリートを闊歩していました。ある日みんなでアトランティック・シティーという隣の州にあるカジノに行こうということになりました。平日の午後2時半頃に早々に取り引きを手仕舞い、三々五々タクシーに乗り込み、当時まだウォール・ストリートの近くにあったヘリ・ポートに行き、そこからみんなで(総勢10名強だったと思います)アトランティック・シティーにヘリで乗り込みました。カジノの理論は彼らにとっては正に専門分野であり、理屈でいうとお客さんに勝ち目は無いことは誰よりも熟知しており、あくまでもレクリエーションとして出かけた訳です。特に、長く多くの賭けをすると、着実にハウスが勝って行きます。私たちが選んだのはクラップスというサイコロ・ゲームでした。私たちだけでひとつのテーブルを、それもハウスが「打ち止め」となる額の低いテーブルを占拠し、各人がサイコロを順番に振って行きました。ミソは全員が常にお互いに同じ目に掛けたのです。違う目に掛ければ、二人が同時に勝つことはできませんから、当然ハウスが着実に上がりを取って行くからです。果たして、私たちは1時間ほどでそのテーブルを「打ち止め」に追い込みました。私たちも、ギャラリーも大喜びでした。綿密な理論武装と最後は運。彼らはトレーダーに必要なそれら2点を正に備えていた訳です。


11月15日   <トレーディング・ヴォリューム>
チャート分析は値動きだけを見るものですが、テクニカル分析の中には売買量も考慮に入れて分析する手法もあります。以前私はつぶやきの中で、市場の動きには無数の人の恣意が交錯し、結果としてその動き自体に株価の将来をも予測し得る意味が隠されていることがあり得ると書いたことがあります。しかし更につけ足して言うならば、売買を伴って形成された値動きなのか、そうでないかに大きな意味の違いがあると思います。会社の時価総額が大きく動く時に、その変動額に対して大きな割合の売買を伴っているのか、そうでないかによって、当然値動きだけでなく、市場価値自体の意味も変わると思うのですが、如何でしょうか?


11月16日     <祭日>
2000年問題などのリストを見ていると、来年から始まるハッピー・マンデーもたまに顔を出します。成人の日と体育の日を月曜日に合わせてしまうというものです。今までと休日のカレンダーが変わるからでしょう。但し私がふと「あれ?」と思うのは、従来から春分の日と秋分の日は毎年本当のEQUINOXの日に合わせて違って来た訳です。(私のアメリカ人の友人は「日本人は何とCOSMICな、情緒のある人たちだろう。」と感心します。)毎年春と秋の休日は変えて来たのですから、もう2日ぐらい増えても問題ないと思うのですが、まぁそこが落とし穴でうっかり忘れてしまったりするのでしょうね。


11月17日   <市場に委ねる>
今朝の新聞によると、FRBが米国の上位30から50の金融機関に劣後債を発行することを義務付けることを検討しているらしいです。何と素晴らしいアイデアでしょうか。各金融機関の評価を、当局によるお墨付きではなく市場のプライシングに委ね、その評価を勝ち得ようとする金融機関の自己努力を自然と引き出し、また市場の信任を得られなかった金融機関は調達コストの上昇により自然と退場を強いられる。資本市場の原理に沿った、透明で効率的な手法です。これは私が記憶する限りでは、実は5年ほど前に当時のNY連銀の副議長だったアラン・フィッシャーによって唱えられ、バーゼル委員会によって採択されたフィッシャー・リポートと極めて似た考え方です。当時も私はその先進性と論理性に痛く感心しましたが、残念ながらどういうわけかフィッシャー・リポートはあまり陽の目を見ませんでした。今度こそこの考え方には広く浸透してもらいたいと思います。


11月18日   <株の国籍>
最近では各企業が世界のいろいろな国でビジネスをしており、またその収益もビジネスをしている国、本店所在国などいろいろな所で計上されています。よく日本株、外株という分け方がありますが、近い将来、或いは現時点においても、そのような分け方にあまり意味がなくなってくるのではないかと思います。つまり、例えばその企業が世界的に通用するどのような技術を持っているかということが、自分の身近でその企業がどのようなビジネスをしているかよりも重要になってくるのではないかと思います。そう考えると世界にはいろいろな企業があるので、なんだか株を選ぶのがとても楽しくなってくる気がします。インターネットを使ってそのようなことが簡単にできる日が来るのもそう遠いことではないでしょう。


11月19日     <出口>
保育園の入園待ちの児童数が依然高いそうです。日本のように基本的に「人」だけが資源の国で、かつその人口が減ってきている国では、どうやって眠っている、或いは効率的に使われていない人的資源をより効率的に使うかが大変重要だと思います。ひとつの大きな潜在人的資源市場は女性です。日本とアメリカを比べて大きな違いは、社会において活躍している女性の数の違いだと思います。しかし女性が働くためには育児のバック・アップが重要であり、女性の雇用促進という「入口」と同様に、どうやって女性が働ける環境を作るかという、いわば「出口」論がもっと議論されるべきだと思いますが、噂によると厚生省(保育園管轄)と文部省(幼稚園管轄)の間でコミュニケーションができていないなどで、中々環境は改善されません。投資判断をする時も同様ですが、木を見て森を見ないことにならないように気をつけたいものです。


11月22日    <トレーダーの資質>
よくリクルート学生の方などから、どういう人がトレーダーに向いているかなどと聞かれことがあります。私はいつも異質なものと「コミニュケーション」する能力に長けている人だと答えました。ただし実はこれはトレーダーだけでなく、セールスマンなども同様だと思います。セールスマンは、特に債券ビジネスのように取次ではなくお客様の売買に対して自己でポジションをとることが主体な場合には、「お客様」と「トレーダー」というある意味で真っ向から相対する二者間において取り引きを成立させるべく調整をします。一方トレーダーも「マーケット」というとてつもなく大きく、あらゆる人の様々な思惑が交錯し、ある時は国が相手になり、かつ突発的にニュースが出たり、そしてそのニュースの伝達にむらがあったりするなどという、「異物」と格闘しなければならず、ひとりよがりで勝ち続けられる由もありません。常に細心の注意を払って、臆病にマーケットと付き合うことのできる人たちが、トレーダーらしいトレーダーです。では「異質なものとのコミニュケーション」って、一体どんなものでしょうか?私は常々、異性と付き合うことにどこか似ていると思ってきました。


11月24日   <岡目八目>
勝負事の世界では直接勝負に関っていない人の方が勝負がよく見えるとまま言われます。これは冷静な判断がどれだけ重要であるかをうまく表していると思います。投資、特にトレーディングについても全く同じことが言えるでしょう。自分でポジションを持っている時に、いかに冷静に客観的な判断をするかは極めて重要なテーマです。昔から使われるひとつの手は、例えば利が乗っている時に利喰うかどうか迷った時に取り敢えず半分利喰ってしまうという方法です。こうすると更に値が上昇しても全て利喰わなっかたのでそれなりに後悔しないで済みますし、値が下降し始めた時は半分利喰っておいて良かったと思えます。かなり適当な方法ですが、困った時にはこのような手を実際に使ったトレーダーがいたこと(例えば私)を憶えておいては如何でしょうか。


11月25日     <錬金術>
この世に、特に投資の世界において、果たして錬金術はあるでしょうか?必ず上がる株とか、いつも儲かるトレーディングというのはまずあり得ません。但し1つだけ錬金術的なものがあるとするとそれは分散投資によるメリットでしょう。以前にもつぶやきに少々書いたことがありますが、モダン・ポートフォリオ理論によると、2つ以上の資産を持った際に、ポートフォリオ全体の収益性は各資産の収益性の和に等しいのですが、ポートフォリオのリスクは最大値が各資産のリスクの和であり、最小値は各資産の差になります(資産の数が2の場合)。実際には各資産のリスクの相関・逆相関関係によってこの最大値と最小値の間になります。株を買う時にも、投信を買う時にも(もっとも投信はそもそもが分散投資された商品ですが)、なるべくこの分散投資のメリットを意識することにより、長期的なリターンを向上させることができると、私は信じています。


11月26日    <ヨーカ堂の決済専門銀行>
いやぁー、今朝は久しぶりに唸らされました。全国に9300拠点、しかも恐らくその大部分の拠点が既に採算が取れていて、しかも24時間営業。企業向け貸し出しは行わず、国債と高格付け流動資産で運用。日銀ネットにも参加。もしかすると通常の銀行よりも信用力の高い決済手段を、地域的にも時間的にもより網羅的に提供できる。しかも生活に密着した消費行動を行なう現場において。これは大変理念的ですが、素晴らしい構想だと思います。ではこの構想によって誰が得をして、誰が損をする可能性があるでしょうか?私は密かに例のリップルウッドが一番ほっとしているのではないかと思います。ヨーカ堂が日債銀買収に本格的に参画すると、新生長銀にとっては随分厄介な存在だったと思うからです。さて実際どのように展開して行くか、大変楽しみですね。


11月29日   <オリエンテーション・コミティー>
一昨日の土曜日に第1回のオリエンテーション・コミティーを開かせて頂きました。北は岩手、南は熊本からお客様にお越し頂き、忌憚のない御意見を拝聴させて頂くとともに、弊社といたしましても率直な回答をさせて頂いたつもりです。オンライン証券というヴァーチャルな業態でありながら、敢えて直接お客様にお会いしてなまの声を聞かせて頂く今回の試みは、マネックスとしては大変有意義であったと思っています。今後HP上でもその内容をご案内させて頂くとともに、今回の御意見も併せてアドバイザリー・ボードに諮って行きたいと存じます。業務報告的で恐縮ですが、今日のつぶやきに代えさせて頂きます。


11月30日      <為替介入>
中央銀行による為替介入は当然その瞬間はかなり効き目があります。但し中・長期的に見ると歴史的に見て殆ど全てのケースで元のトレンドを止めることはできず、中央銀行は「やられて」終わります。マーケットにおいて流れに棹さすことがどれだけ無益なことかよく分かります。しかしここで忘れてはいけないのは、為替介入の主体はあくまでも「国」であり、主権国家、それも力のある主権国家が本気でマーケットに臨む時は、市場参加者もそれなりの覚悟がいるということです。80円台まで円高が進んだ時の我が国によるドル買い介入は、最終的にはトレンドが反転し、日銀(正確には国の外国為替資金特別会計)は大勝ちで終わりました。でもイギリスとかアジアの国では、最後まで介入が負けて終わったケースもあります。要はどんなに大きな資本家でも、極めて稀ですが、カジノで負けて終わってしまうこともある訳です。トレンドを変えるのはトレンド自体であって、外部からの力ではあり得ないということをよく肝に銘じておきましょう。