9月1日
貯金局を含めた、日本の金融機関上位20社のバランス・シート上にある個人金融資産の総額ってどれくらいあるのでしょうか?いわゆる1200兆円の70%ぐらいあるでしょうか?日本中の個人のお金の70%が、20社を通して日本中の企業・個人の経済活動のための資金として供給されているわけです。これって随分無理がありますよね。やはりもっと直接金融型の商品に対する投資が行われないと、この国のお金は回り始めないのではないかと思います。


9月2日
昨日の話の続きですが、 預・貯金、生命保険という形で全国の個人から集められたお金が、郵貯・銀行・生保を通じて、日本全国の企業・個人の経済活動のために出資、或いは貸付けという形で供給されています。「個人投資家」と言うと株式投資や投信を買っている人のことを言っているイメージがありますが、実際は銀行預金しか持ってない人も、銀行を通じて企業などに「投資」しているわけです。いろいろな企業に分散投資されているというメリットもありますが、一方でいわば高速道路の料金所のように「投資家」と「企業」の間に「金融機関」が立ちはだかっているので、渋滞も起きてしまいます。料金所の性能が落ちると尚更です。料金所のない高速道路。それが直接金融です。日本の直接金融比率は極端に低いのが現状です。マネックスはこの構造の変化の一翼を担いたいと思っています。


9月3日
イギリスの「エッグ」と言う会社を御存じですか?英国最大の保険会社のプルデンシャルが去年の10月に作った、オンライン専門の銀行です。費用が低い分、高い預金金利を可能にし、また低い手数料で住宅ローンを提供しています。1年も経っていないのに、55万人の顧客が既にいます。(本日の日経金融新聞より) これからの個人向け金融にとっての貴重なモデルといえるでしょう。会社のコストを徹底的に低く管理すること。それが、個人向け金融にとって、最終的にもっとも重要なことだと考えています。なぜなら、コストは必ずいつか何らかの形で、顧客に転嫁されるからです。マネックスでもこのことは肝に銘じて行きたいと思っています。


9月6日
ゴールドマン・サックスのパートナーの一人に、オプション理論と、モダン・ポートフォリオ理論を確立したフィッシャー・ブラック博士がいました。残念なことに既に他界されましたが、本来であればノベール経済学賞を取っていた筈です。私も個人的に直接話す機会も何度かありましたが、実際のトレーディングに関してもなかなか造詣の深い観察をされていたのが印象的です。その中からいくつか御紹介したいと思います。
一つは、トレーディングをする際に、持ち値であるとか、それまでの経緯を考慮に入れることは、理論的に意味がないということです。あと一歩で持ち値まで戻ると待っているうちに値が下がり始めてしまって、損切りのタイミングも逸してしまうということもよくありますね。アメリカにおいて、一時大変強いトレーディング・ハウスであった「オコナー」(のちにスイス銀行と合併した会社です)では、毎日の終わりにトレーダー全員のポジションは全て会社全体のポジションとして吸収され、まとめられたポジションはトレーダーとは別のリスク管理者が一括して管理し、各トレーダーは次営業日はまたポジション・ゼロから一日を迎えたそうです。中々含蓄がありますね。
他の話はまた次回に御披露致します。


9月7日
昨日の話の続きで、フィッシャー・ブラック博士の思い出についてお話しさせて頂きます。ニック・リーソンなど、社内トレーダーの暴走がいろいろと大問題を起こしていた時に、どうやって不正を行っている、或いは隠しごとをしているトレーダーを検知するかという話です。彼の考えは、損得(PL)が平坦で安定しているトレーダーはまず疑ってかかるべきだということでした。何故なら、市場の動きはいわゆるランダム・ウォークに近く、PLを平坦化するのはまず不可能であり、そうなっている時は何かしらの恣意が働いているに違いないというのです。まぁ、儲かる時もあれば、損する時もあるのが理論的にも通常であるということでしょうか。何か安心する話ですね。一喜一憂しないで、長い目で見たリターンを考えた方が良さそうですね。


9月8日     <ブラック博士の想い出>
フィッシャー・ブラック博士の言った含蓄のある話をもう一つだけ御紹介しましょう。
市場がある方向に勢いよく動いている時は、象の大群が暴走しているのと同じで、止めることは不可能で、決して抗ってはいけないと。但し、その暴走の理由を完全に理解し、把握している時だけはその限りでないと。
私自身がトレーダーであったので、博士の言葉は実際のトレーディングの中で何度も何度も噛み砕きましたが、この考え方は特に味わいの深いものでした。


9月9日     <アメリカの学者>
フィッシャー・ブラックを始めとして、アメリカでは高名な学者さんが金融界などの実務に携わることが多くあります。フィッシャーに直接聞いたこともありますが、机上の論理では意味がないので、実際に実務に携わり、実証することを尊重しているのだそうです。ビジネスの現場こそが、最良の実験室だと言っておりました。アメリカでは学界と政府の交流もありますね(サマーズ財務長官など)。これはあまりやり過ぎるのもなんですが、やはり学問は実際の社会や経済に貢献するためにあるものですから、日本ももう少しこのような動きがあってもいい気がします。


9月10日    <損切りと利食い>
損切りと利食いのどちらがより大切かという話が、トレーダー仲間が夜出かけたりするとたまに「お題」になることがあります。ある人はいつでも大きく儲ける機会はあるので素早く損切りをして次のチャンスに備えるべきだと言い、またある人は結局のところ利益を確定しポジションを閉じなければいつ損に変わるか分からないので、利食いこそがトレーディングの重要なポイントだと言います。成熟したマーケットであれば、勿論理論的にはどちらがより重要かということはありません。これは心理的な問題だと言えます。私は「利食い」派でした。しかしある時ある人に、それは私が損切りが得意なので、逆に利食いを強く意識するのではないかと言われはっとしました。結局自分のくせ・弱点を認識し、それに対する対処を身に付けて置くことが大切なのかも知れませんね。


9月13日      <リスク>
先週の金曜日にお話ししました損切りと利食いの話には、御興味を持たれた方も多いようです。そこで今週はトレーディング哲学シリーズ第二弾として、どの程度のリスクを取るのが適当かなど、いわゆる「リスク」についてお話ししましょう。
よくリスクを取らないとリターンも取れないなどと言われますが、一つ決して忘れてはいけないことは、リターンには方向性があり、儲からなければ意味がないのですが、リスクは「大きさ」であって「方向」は一般にはないと言うことです。リスクは損益の振れ幅の目安であって、収益の目安ではないのです。ではリスクは、その取るべき最適値といったものが存在するのでしょうか?つまり、その人その人、或いは会社ごとに、取るべきリスクの大きさは違うのでしょうか?
ここから先はまた明日お話しします。


9月14日     <リスク その2>
人によって、取るべきリスクの大きさに最適値があるか?
これはいわゆるVAR(Value at Risk) と資本金の関係で最近はよく語られますが、分かりやすくカジノを例にとって説明しましょう。ラス・ベガスまでわざわざ日本から出かけた人が二人いたとします。どちらも滞在期間は3日間。カジノ以外の目的はなし。一人は100万円の軍資金で、もう一人は10万円の軍資金だとすると、自ずと一回一回のゲームでの掛け金には差がつくべきですよね。ここでは軍資金が資本金に、掛け金がVARに当ります。まぁ、身のほどを知るということでしょうか。もう一つの考え方は、ラスベガス旅行の全費用を3日間で稼ごうと思っている場合にどうするかという考え方です。費用と、何日間居るかが決まっていると、これも自ずと掛け金は決まります。勿論勝つ保証はありませんが、例えば50万円の旅費を3日間で稼ぐのに、1ドル単位で掛けても所詮無理ですね。このように、資本力と目的から、取るべきリスクの大きさは大体決まってくるものです。


9月16日    <リスク その3>
リスクは損益の振れ幅の目安であって、収益の目安ではないという話をしましたが、ではリスクとは「大きさ」であって、「方向」は本当に無いのでしょうか?リスクが1つであればそう言えます。しかし複数のリスクを取ると、それらの中にはお互いに干渉して全体のリスクが若干小さくなることがあります。例えばAという株のリスクが100で、Bという株のリスクが50だったとします。AとB両方を持つと、リスクの総額は最大で150、最少で50になります。(通常は130とか140でしょう) 50になる場合とは、Aが1円上下すると、Bは常に逆向きに1円上下する(下上する?)場合です。これがノーベル賞も取ったモダン・ポートフォリオ理論の基本です。このような特性をよく理解して分散投資することにより、全体のリスクを押さえ気味にしながらリターンを向上させることが可能になります。長い期間に亙って安定した成績を残す投信とは大概こういうものです。


9月17日    <リスク その4>
昨日はリスクは互いに打ち消しあうものもあるという話をしましたが、これを相関、もしくは逆相関があるといいます。多数のリスクを併せ持っている時に、逆相関がどれだけあると見積もるかによって、全体のリスクの額は大きく変わってきます。昨年のロシア危機のときに、いくつかのヘッジ・ファンドが大きな損失をしたのは、この相関係数の見積もりが大きく変わってしまったことによる部分が大きいと思います。即ち、逆相関の関係・度合いは常に一定のものではなく、相場環境などによって変化するものなのです。1,000ドルを持ってカジノに行き、一回10ドルの掛け金でゲームをしていたつもりが、ある時突然知らないうちに掛け金が一回500ドルまで上がってしまっていたようなものです。そこで二回続けて負けたらゲーム・オーバーですね。モダン・ポートフォリオ理論を構築した人たちが、その理論に足元をすくわれてしまいました。投資はやはり身のほどを知って慎重に行なうのが大切ですね。


9月20日    <市場の期待>
この数日でドルが対円で大きく戻しました。実際に大きく介入をしている訳ではなく、日米協調介入があり得るとか、日銀が介入に際しての不胎化政策の見直しを視野に入れたとか、そのようなニュースのために大きく動いた訳です。これは市場の期待にきちんと答えた為です。同じことを、市場が期待していない時にしても効果は全然なかったりします。マーケットは、長期的に見ると経済や需給などのいわゆるファンダメンタルズによって構成されますが、短期的にはこのように市場の期待からどれだけずれたかによって構成されるものです。例えば景気にとって悪い指標が発表されても、市場参加者全体の期待値よりはちょっと良かったりすると逆に株式相場は買われたりします。このような市場の期待値の中央値を知ることが短期的な動きを理解する為には肝要です。


9月21日     <コール・センター=マネックスダイヤル>
今日は午後にちょっとコール・センターに行き、開業直前のシステムのチェックや、オペレーターの練習の様子を確認しました。最新鋭のシステムによる、極めて近代的なオペレーションです。私自身も席に座り、実際に電話を受けて機器の操作をしてみました(電話はマネックス本部からのお客様を装ったコールです)。開業まで後10日となりましたが、まだ不慣れな点もあり、開業ぎりぎりまで、そしてその後も常に改善に努めて参りたいと思いますので、宜しくお願い致します。


9月22日   「日銀、金融政策変更せず」<本日の日経新聞の見出し>
一昨日、市場の期待についてお話ししましたが、それに応えないとどうなるかという格好の例が昨日ありました。日銀が昨日発表したことは、まさに経済の教科書通りの内容です。あまりにも正しい。不胎化政策の点についても、とても正しく、市場が昨今騒いでいたことがどれだけ的を外していたかを適確に審らかにしました。しかしそれが何の役に立ったでしょう?市場参加者の考えが正しいか正しくないかを教科書的に指摘することによって市場のコントロールはできません。市場の誘導地点を決定し、市場の考え・期待を把握し、その二つの関係から必要な施策をすることを金融“政策”というのではないでしょうか?


9月24日     「時間軸」
長銀の譲渡先は、ようやくリップル・ウッドに決まったようです。随分時間がかかりましたが、それだけの意義があったのでしょうか。交渉に時間をかけたことによって、もちろん国にとっての条件を良くしたり、他の候補者との関係を維持したりとか、いろいろとメリットはあったのでしょう。しかしメリットだけ見てもいけません。何かデメリットがあった筈です。両者をネット・アウトしたものを最大化することがこのプロジェクトの目的であった筈です。
最大のデメリットは、時間がかかりすぎたことです。時間には価値があります。それを一切無視してビジネスを考えることはナンセンスです。日本においては、また特に政府においては、この時間軸の感覚が希薄なように思えます。金融もネットも、時間感覚がもっとも肝要な分野ですから、マネックスもこのことに十分注意していきたいと思います。


9月27日    「メイク・マネー」
大学を卒業して最初に就職したソロモン・ブラザーズの同期の末永徹氏が、当時のソロモンでの出来事を綴った「メイク・マネー」という本を文藝春秋社より出版しました。主に当時のソロモン・ブラザーズ(東京)でのトレーダーの生活を書いたものです。恥ずかしながら私も所々登場します(O君として)。その中で株式の価値の見方として興味深い引用があったのでご紹介します。
………………
株式投資で財をなした経済学者ケインズは、相場は美人投票の結果を当てるゲームだから、自分が美人と思う株ではなく、皆が美人と思うであろう株を買わなければならない、と説いている。
もっとも、世界最高の投資家ウォレン・バフェットは、そういう考え方をしない。株価は、企業の価値であり、その株価で企業を買収してもよいと思うのでなければ、たとえ一株でも買うのはおかしい、と彼は主張する。(中略)
ところで、ジョージ・ソロスの考え方は、バフェットとケインズの中間あたりであろうか。ソロスは、いわば、美人投票で、げてもの人気が異常に高まったところを見計らって、正統派美人に投票するのである。イギリス通貨当局は、確信的なげてもの好きとなってソロスに大金を貢いだのだ。
………………
この本はあくまでも「トレーディング」についての本であり、マネックスが皆さんに御紹介して行こうと考えている投資とか運用についての本ではありませんが、御興味のある方はどうぞ。


9月28日   「遠近感(パースペクティブ)」
毎日つぶやくのも中々大変でして、ふと今日は何を書こうかと思います。タイムリーな話題がいいと思うのですが、さすがに開業3日前ともなると毎朝新聞を隅から隅まで読んでも、やはり記憶に残るのはオンライン・トレードのことばかりです。これは明らかに遠近感を失っていて、目の前のことしか見えなくなっている訳です。このような状況でなくても、例えば新聞などの情報ソース自体が遠近感を失っていて、市場の情報を俯瞰していたつもりが、実は偏って見ているということもあります。これは危険な状態です。投資判断をする時は、特に遠近感を正しく持つことが肝要だと思います。


9月29日   「新生長銀」
ようやく長銀の譲渡先がリップルウッドに決定しました。随分時間がかかりましたが、今後重要なのは国民にとってのコストが現時点でいくらであるとかといった類いの問題ではなく、新生長銀が新しい、生きた会社として今後どのようにビジネスを展開して行くかだと思います。後ろ向きな債権処分とその値段だけに焦点が当っては、住管のようになってしまいます。個人向けの商業銀行業務で、新生長銀が新しい、元気なビジネスを展開してくれることが、負担を強いられた国民にとっても、結果的により良い結果をもたらすものと信じます。


9月30日   「Giant Step」
明日はマネックスにとって、そして日本の資本市場、全ての個人投資家にとって、とても意義深い第一歩を踏み出す日であって欲しいと願います。
「Giant Step」…アームストロング船長の「私の一歩は小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩である」という言葉を胸に抱いて、明日を迎えたいと思います。