ロンドンが意外に、というか予想に反して、楽しい。もちろん何度も来たことがあるのですが、私の中でのロンドンの印象は、つまらなくて、古くて、食べ物が美味しくなくて、人の様子も(これは見た目かも知れませんが)ちょっと変わっていて、発音がおかしくて、聞き取りにくくて、何かあまり来たい場所ではなかったのですが、今回その印象が大きく変わりました。

 発音がアメリカとは違うのですが、かえって聞き取り易いかも知れない。少なくとも地下鉄の車内アナウンスなど、ニューヨークの地下鉄では聞き取りほぼ不能ですが、ここロンドンではクリアに聞き取れました(しかしこれは日本でも車掌さんのアナウンスはかつてほとんど聞き取れなかったのが聞き易くなったように、個別の問題なのかも知れません)。単語の使われ方がアメリカとは違うことが多いのですが、もちろん本家はイギリス。あぁこう云うんだ、と思うことが多くあり、これだけ英語と米語が違うなら、我々日本人がちょっと変わった(間違った)単語を使っても、十分通じるだろうなと妙に安心したり。街のパブのような店での店員やホテルのスタッフとのやり取りも、どこか優しさや丁寧さを感じたり。

 地下鉄の中でも、私はずっと開かない方のドアの近くに立っていたのですが、或る駅で座っていた女性が降りていく時に、私の所に寄って、Excuse me. と云ってから私の足下に私が落としていた細い愛用のペンのことを教えてくれました。何と優しいのだろう。ニューヨークにも優しい人は大勢います。でも Excuse me. って云うかなぁ。Hey. って云いそうだなぁ、と思った次第。地下鉄やその駅など、インフラは古いのですが、長ーいエスカレーターの横の壁に掛けられた看板やデジタルサイネージが、実は極めてきちんと整列していて、日本並みの秩序とか精度があったりして。日本と云えば色々なモノ、コト、組織などの日本語での命名が、実はイギリスの英語の直訳から来てるんだと感心したり。おっと最も大切な街の人々の印象も、アメリカよりも知的で女性もきれいな人が多くいるような気がしたり。街自体の雰囲気が、前よりも明るくきれいに感じたり。

 どうしてだろう?着いた日の天気が最高の秋晴れで(それはロンドンでは珍しいことで、案の定今日は雨でしたが)、印象の変化に影響を与えたでしょうか?ロンドンが変わったのではなく、私が歳を取って好みが変わったのでしょうか?いや、一番の理由は、今回はスケジュールの組み立て方から、時間に余裕があり、地下鉄に乗って移動したり、ぶらっと街中の店に気ままに寄って食べたり、ロンドン滞在の初めにそんなことが出来たので、ロンドンという街をよく知ることが出来たからではないでしょうか。よく知らなければ、良さに気が付くことも出来ません。私は元々”街派(まちは)”、街に溶け込んで行動するのを身上としているので、今までロンドンに来ると忙しく決められたスケジュール通りに車に乗って用事をこなしていたので、街に触れることが少なく、街の良さを知ることが出来なかったからではないでしょうか。appreciate という単語は、感謝するとか高く認めるという意味ですが、それと共に”よく知る”という意味があります(因みに私はその後者の意味でよく使うのですが、日本人には前者の意味に誤解されることがままあります)。

 先ずはよく知ること。何事もそこからですね。そんなことを思ったロンドン最初の一日でした。