聶の不知道日記。14 | ★wide range★

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硬く結った三本編みは 引っ掴めば ばらんばらんと崩れる

何故か 弛く編んだ三本の道は

いつまでも解けず

 最後まで形を保った。

私は、兄と揃いのこの髪型が好きだ。

たとえ  独りになろうとも 三つに編み今生を進むのだ。



「聶兄! 聶兄! 何をブツブツ唱えてるんだ?」

四方山話なら聞いてやるが、念仏や講話なら聞かねーよと  魏兄は西瓜をぶった切る。

肉切りの刀は、大きく育った果実を切り 赤い汁を滴らせている。

清河の清い水流に足を浸け、高く結い上げた髪を振り回し、豪快に潜らせる美しい男。

その傍らに、初夏の日差しをも跳ね返す程 白くまばゆい含光君の佇まい。

片手に傘を差し日差しを遮る。

時折よく通る小声で、魏兄に向かって はしゃぐな、気をつけよと小言を言う。

清流は 誰の耳にも心地よく響くが、含光君のそれもまた耳障りが良い。

二哥の声に良く似た囁き声は、あの夜を思い出させる。

照りつける陽射しの下、簡単に建てた幌屋根と、黒地の紋様で染め上げた旗と蚊帳で人目を遮り、私は、二人の様子を見ている。

こんなふしだらな記憶を呼び起こしているなど 思いもしないだろう?

風雅を好む聶宗主は健在だからなあ。

誰だって 予想もしないだろう。

この夫婦に限っては当てはまらないが、心で思う分には安易ではないよね。

「魏兄、日陰で休んだら? もう半時辰も浸かりはなしだ。足からふやけるんじゃない?」

川べりで待つ含光君に手を取られ 上がってくる。ダダっと走る足を止められ、手ぬぐいで足を拭き、丁寧に裾を整えられる。

少しばかりの従者と私だけがこの場所にいるという状況ですら、夫の体裁を繕う事には労を惜しまない。

屋根の下に入って、椅子に腰掛けると、乱れた髪を櫛で梳いていく。

乾坤袖から新しい赤色の髪紐を取り出し、幾段か低く束ねた髪に巻いていく。
そこまでやって やっと含光君は椅子に腰掛ける。

「ランジャン‼ありがとうな。俺が割った西瓜を食え! 冷たくて甘いぞ!」

「楊梅酒もなかなか良い出来だよ。二人共飲んでみてよ。」

山桃の色が滲み出た酒を硝子瓶に注ぎ、薄い乳白色の碗に並々と注ぐとほんのりと薄桃色になり美しい。

大哥と川遊びの記憶は幼少の頃だけ。

このように朋と言える者達と陽の高い日中に出かけ、色の薄い光の飛んで目眩ましのような煌めきを目にする事は久しい。

私の纏う衣も麹塵と浅葱の格子。
魏兄と含光君は揃いの秘色と透けた白。
なんとも風流で雅やかだ。

兄ならば絶対に選ばない薄らほうけた色。

ことさらに目を奪われる

 白い肌に吸い付いた痕のような淡桃の酒にほろ酔いそうだ。

またも寓けて 二哥を思い浮かべる。

「ほわいさん 誘ってくれてありがとうな。めっちゃ楽しいよ! な?ランジャン」

うんと頷き、会釈をする。

「聶宗主、多謝。ウェイインは大変喜んでいる。」

「そう 良かった? 含光君も喜んでくれてると良いんだけど.....」

「気遣いに感謝する。私も楽しんでいる。」

魏兄が、豪快に酒を煽り、含光君は俺がいればどこだって楽しいんだよな!と笑う。

その横でうんと頷く夫 含光君。

今年で道侶になって何年目だったっけ?

然程 傍目から変わらぬ関係にも見えるが、二人が公言してからは数年経つ。

私たちが出会った少年時代とは比べ物にならない睦まじさだといえば誰しもが一頷するだろう。

かつて乱世に名を轟かせた悪名高き 夷陵老祖と、逢乱必出、品行方正な含光君。

とりわけ二人はあの時代に名を馳せた。

仙術に疎い民であっても 姿は知らずとも名前だけは市井を滑るように走り抜け耳に届いたほどだ。

そんな二人が 今や生来の知己から道侶になったと言うのだから百門仙家は度肝を抜かれた。

しかし私は、とりわけ二人に色眼鏡をかけて見たりはしなかった。

片鱗を見抜いていたからね。

座学時代を共に過ごし、彼らの関係性の変化は目を見張るものだった。四大仙家でも群を抜いた仙術と剣術、家柄は言うまでもなく容姿の美しさは人々を魅了してやまなかった。

なにかにつけ問題を起こすのも、時代の節目にも深く関わり、翻弄された。

「宗主、先日 兄が拝謁した際に 貴方の白布をお借りしたそうで、兄よりお返しするよう託かった。」

そう言って、墨檀の箱を差し出す。

中には綺麗に洗濯された白布と、真鍮の銀細工が細やかな冠が入っている。

「わあ。さすが二哥だね。僕の好みをよく知っている。お礼申し上げるよ。」

付けてみようかと、束冠を外すと、細かく編んだ三つ編みがばらりと崩れる。

「ああ、、、、、編み直さなくちゃ、、、、だぐぁ、、、、、」

あ、、、、、、。


条件反射

いつもの癖

何年経ってもか?

朝はいつだってそうだった

大哥の大きな手のひら

太くて無骨な指なのに

しなやかに 私の 髪を編み上げるのに

忘れられない  習慣だと言うのに。。。。。

魏兄は 大きな目を伏せて

酒を啜る。

「ほわいさん、俺が結ってやろう。新しい髪型を試してみたくはないか?」

「ああ、、、、、 いいね。 ねえ 含光君、、、、、沢蕪君にこの間 髪を結ってもらったんだ。どうだったかな、、、、、緩めの三つ編みでね、、、、、見せたくない首筋を隠すにはこれが適していると言ってた あの、、、、、」

「どういう意味だ?」

空気が冷える。

氷兄弟は 季節関係なく凍てつかせるのが得意なものだ。

「誰かと寝たあとなんかさ、情痕のひとつやふたつ隠したいものだろう? ねえ 魏兄。」

「あ、ああ.....俺は毎日だ。ほら聶兄 結ってやる!」

私の髪に触れようとした魏兄の手首を引き、後ろへと隠す。

「ランジャン‼」

「君は触れるな。」

含光君は失礼すると、手際よく髪を梳き、

いつもの髪型に整えた。

覚えているのは造作もない この人なら。


「兄上は、貴方に対する多情多恨はない。」

牽制と詮索

恐ろしいだろう? どこまで識って善いものか

君が知れば、落胆することばかりだ。

兄の復讐のために どれだけ悪事を重ねても、よもやよもやで済ませられるものでもないことを知っている。

ただ 知っていて 知らない振りを続けているわけでもない

知っていて、知ろうと踏み込まないだけなのだ。


仲良しの均衡は 直ちに崩れ落ちるものだと

知っているから。

魏兄...貴方の夫は利口に振る舞う努力をしている

貴方がそうしたように。

自分が動けば、貴方を傷つけることが解っているからね。

「そうだろうね。二哥はいつだって 私に優しいよ。」

精巧な銀が頭頂で白く煌めく

まるで氷の粒を発しているように

二哥は、私に感謝している

永遠に大事な存在に引き合わせる私に、、、、、

毒で嗅覚を鈍らせて、ただれた皮膚を綾で隠して

それでも尚 懇願するのだからね。

私が知らないを通している間は

誰も然程 傷まないのだ。

大事なことだ

知らないを識る事は。


「魏兄、そうだ! 含光君が今月壊した風呂桶の数の話をしてよ!」



※恥ずかしさで体中真っ赤な含光君は楊梅を煽り河原にぶっ倒れました。