部屋の屑籠は、最早機能しない。
書き損じた原稿は、床を埋め尽くす。
リライト リライト・・・・・・
インスタントコーヒーをもう一杯と、三段の階段を上る
「うわ、、、、、段なんて見えないじゃないか・・・・・」
これじゃ寝ぼけて、 踏み外してしまう。
4日分の白黒の紙をざらっと掻き集め、無理やり 屑籠に押し込む。
誰も 足を踏み入れていない証拠。
ジョンスヒョンですら、扉を開けても入ってこようとはしなかったようだ。
誰も・・・・・?
ソンミナは?
差し入れのキンパが置かれていたのは、 三日も前だ。
入らなかったのか それとも俺自身が拒んだのか。。。。。
はあ。と溜息をついて、カップをニッチに置き、床に座り込む。
小さな連載だと引き受けたまでは良かったが、エッセイはともかく、長編に時間をかける暇もないなんて。。。。。
本来なら、続編に打ち込むのが、仕事の大部分だと自分でも意識していたのに。
勿論こなしている。 月に一度の短編、隔週のエッセイ。
・・・・・・
とりあえず コーヒーだ。
ドアを開けようとすると、クラビーアの息継ぎが聞こえてくる。
ソンミナが弾いているんだろう。
いつから来ていたのか?
ところで何時なのか?
基本的な生活のパターンというものは元々備わっていない。
唯 俺が気に掛かるのは、ソンミナが俺の所を訪れたか
それともそうしたくないか。
聞けば済むことが 聞けない時
精神状態が芳しくないからだ。
そんな時こそ ヘマをして相手を怒らせることもある。
ドア越しに耳を澄ます・・・・・・
ナンネルの小品メヌエット ヘ長調
また長調を伸ばしてる。どれだけ、長くするのさ。
その分ゆっくりだけど、 二分余りの小曲をタッチも柔らかく丁寧に弾く。
俺なら、12あるレオポルトナンネルの為に書き下ろした楽譜を、半分の17分くらいで弾く気概すらある。
レッスンは丁寧に且つ迅速に。
ナンネール!指の運びに注意して!なんて指導は絶対にしない。 思うままの指運びで為さる楽譜に出来ているのだから。
アレグレットならば15分で!
ソンミナは、ジャジーに鍵盤に指を吸い付かせるようにゆったりと奏でる。
ねっとりとしたメヌエット、、、、なんだかエロティックだ。
俺が部屋から出てくるように誘ってる?
何日 待ったの?
クラビアの音が聞こえたのは たった今だけど。
ソンミナは怒ってはいないようだ。
クラビアの音色がその証拠。
まだ9時前か。
開館するには10分ほど早い。
階段を下りていくと、クラビアの音が止みそうになる。
手振りで続けてと促すと、今度は、アレグロで弾いて急かす。
「ソンミナ、メヌエットの早さで、、、 しっかりとした長調で。」
指でタクトを振ると、ソンミナは上目で、確認し 正しく弾く。
口角の下がった美しい形の唇がパクンと開く。
「アンニョン 指揮者殿、制裁も正しく振るえるのですか?」
「従う気があるのならね。」
ジョンスヒョンはまだのようだ。
「アンニョン、ソンミナ。 君には楽譜を見る必要はないようだ。」
クラビア越しにキスをする。 楽譜を閉じて。
「キュヒョナ、朝食は? 何か食べに行かない?」
クラビアの音に釣られ、部屋から出せたのは成功だ。
それと、キスを拒まれなかったのも 精神の安定だ。
けれど、食事は欲しくない。
「今すぐ食べたい。 ソンミナを。」
睡眠不足で頭がおかしくなったのか?
「ここで?」
今 したいことを言える喜び。
「ここでもいいけど、不健全だと怒られる。」
「フフ。 ならば、いくつかある部屋の一室を数時間借りるのは?」
思考回路が蘇る。
今なら書けそうだ。
ソンミナ 君を抱いた後なら どうなっているのだろう。
思考は、違う回路に繋がって行くのか。
リライト リライト・・・・・
「写真家が使っていた部屋なら暗幕がある。」
「じゃあ そこにしよう。」
もう一度 ソンミナに口づける
一気に 変化が起こるのが感じられる。
開館まであと数分
俺たちが味わうであろう快感までどのくらい?
ソンミナの温かい舌が絡む。
真っ暗な部屋。
二人の吐息と、舌音だけが響く。
数分後
「ゆっくりね。 初めてだから。」
躰ごと変化する。
「俺の指に正しく反応して。 そうしたらきっと苦しくない。」
君はクラビアじゃないから
俺の侵入はきっと優しくない。
「順を追って、ソンミナがきちんと感じるように導くから。」
リライトとは、 新しい表現を生み出すために必要な工程。
激しくキスを交わす これだけで いってしまいそう。
中指を舐める俺に ソンミナは身を固くする。
いよいよだと 気持ちが揺らいでいる様
「はじめはゆっくりね・・・・・ キュヒョナ 好きだよ。」
ソンミナの中に指を進める
早くも、アンダンテは乱れそう。
「好きだよ ソンミナ。 」
いっぱい感じて。
自制を捨て去りたい 自分との闘い。
優しくするって約束したから。
部屋の屑籠を持ってくれば良かったな。
俺の自制と同じ役立たずのね。