かようにもこのような事象が起こり得るのか…
俺はまだその事を知らずにいた。
目に見えたことが 全てとは限らないと
世間では言うが 見たことが考えも及ばぬ事だとしたら
アレは 夢々の幻…
そう思うことに 固執しよう
貴方が 目を開き、柔らかく微笑んでくれたらば
その時 やっと安堵するだろう。
「キュヒョナ、帰らないの?もう皆帰ってしまったよ」
研究員のイ・ソンミン
同じく 俺も。
「ええ。学会発表まで余裕がないですから。」
「そうだったね。 じゃあ 僕も残ってあげる。」
「え? いいですよ ミニヒョンは、完璧に仕上げたじゃないですか。」
「いいから。僕が居たいんだ。迷惑?」
「そんなわけない。天にも昇る気分です。」
「大袈裟だな キュヒョナは。」
本当なんですって。 願ってもみないほど 嬉しいんです。
「ふぅん。眼鏡かけるんだ。 いつもはコンタクトなのに」
「あ、、、、この時間になると、目も疲れますからね。時折はかけるんです。」
「似合ってる。 賢そうに見えるよ。」
「もともと 賢いですから。更にそうみえますか?」
おっと いけない。 談笑している場合でもない。
終わらなければ、帰れない。
.....帰れなくてもいいけど。。。。。
でも、ミニヒョン、真面目だから 捗らないと 怒るよな。
口より手を動かす!
雑話が続けば、最終的には この言葉で戒められる。
「あの。。。。。ミニ・・・・・・没頭する前に一つ良いですか?」
呼んでしまった。 学会発表までは、甘い雰囲気はお断りだと言われていたのに。
「・・・・・何?」
「最近、鍛えてるんですか? 分厚いっていうか・・・・・」
「ああ・・・・特には。 不摂生が祟ってね。 単に肉が着いただけだよ。」
目は、本に伏せったまま 答えだけが返ってくる。
俺的には ヒョンがどうであれ 構わない。
会話のきっかけにすぎない。
「あの・・・・・発表会終わったら、、、、どこか旅行でも・・・・」
「終わったらね。 何日でも お前に付きあうよ。」
それって、、、、ずっと一緒にいられるってことですよね。
「頑張ります。景色の良いホテルで、美味しいワインなんて いいですよね、、、」
「キュヒョナ、没頭するの?それとも一つでは終わらない質問はあと幾つ?」
「すみません 終わりです。。。。。」
パソコンの画面を これみよがしに見つめ、キーボードを叩いて見せる。
「お前は 少し食べなよ。飲んでばかりなんだろ 生白い。」
食欲がないんだ。
ここ半年ほど まともに食べた記憶がない。
ヒョンの前では、少しばかり 口にするが、飲んで誤魔化した記憶がある。
食べずとも良いとさえ思う。
その 割り増し分 ヒョンに触れられないもどかしさによる性欲ばかりが増幅する
ストイックに決めきれず、何度か 自慰で逃したことも。
年頃故の全盛は、幾分仕方がない。
尚且つ 逃れられぬは、愛している人が常に近くに居るという 苦だ。
ヒョンといえば 持ち前の我慢強さで乗り切っているのだろうと
俺自身は そう解釈している。
せざるを得ないだろう。
この3月くらいは セックスはおろか キスすらしていないのだから。。。。。
パソコン越しに、ヒョンを盗み見ていると、
先ほどと同じように、顔を上げずに 言葉が飛んでくる。
「来週には 解放される。 そうしたら、お前が言う 景色のいい部屋のベッドで、時間を忘れるほど愛し合えばいいんじゃない。」
嬉しさと唐突なメイクラブの誘いに駆け寄りたい衝動だ。
「僕だって 我慢に我慢をしているのさ。触れられぬピアノを目の前にしているみたいにね。」
ヒョン。。。。。
限界を 今しがた超えた気がします。
ですが、貴方の言葉で、奮い立った気もします。
頭の中で、アニュス・ディからのコムニオの美しく荘厳な旋律が流れているようです。
終わりに近く、解放を感じる フーガと小気味よいトッカータ。
大袈裟ではなく。
それほどまでに 追い込まれていると言えば 現実的だろうか。。。。。
「励みに頑張ります。」
クスリと笑い、俺の横を通り過ぎる。
振り返ると、甘い何かしらの香りが残る。
トワレかな?
初めて嗅ぐわう。
ムスクでもなく、蜜蝋でもなく、、、、、
ケーキでも食べたのかな。
不調ではあるが、楽しみが増えた。
ヒョンに寄り添い、体中余すことなく香りの出所を探れば良いのだから。
両頬を パンパンと二回叩き 気合を入れる
「さあ ラストスパートだね。」
コーヒーを二つ。
一つはデスクに、 一つは 手にもって椅子に腰かけるヒョン。
バニラ。
コーヒーと溶け合って 深く甘い。
香りは、愛する人からか・・・・?
眼鏡をずり上げる。
まあ いい。 調べれば明らかなのだから。
お互い 深く繋がって、ヒョンの全てを漏らさぬように。