MGC HSc。
あれは、僕が社会人になって3年目の秋。
天神西通りの南側突き当たり、国体道路沿いにあったミリタリーショップで店主に勧められて買った中古モデルガン。
当時の僕はセミオートタイプにあまり関心がありませんでしたが、きっと価値が上がると言われ、それを信じて買いました。

パッケージデザインはイラコバさんでしょうか。
マガジンボトムに打刻されたモーゼルマークですね。
モデルガンのマガジンボトムには、このモーゼルマークに似せたMGCマークが打刻されています。
モーゼルHScは、1929年登場のワルサーPP(PPK)を意識して設計された小型ピストルです。
ただし、ワルサー社のパテントは侵害しないよう注意深く設計されているようです。
その設計に携わったのは、アレックス・ザイデルという若手技術者だそうです。
彼の父親もモーゼル社の技術者だったそうなので血筋は良かったのでしょうが、アレックスは1927年に見習工としてモーゼル社に入社したばかり。
モーゼル社の新型ピストルは1935年に本格的に設計が開始されたと言いますから、アレックスは入社後10年も経たずに新型ピストルの開発に大きく貢献したということですね。
その開発過程で数多くの試作が行われ、それら20機種もの試作はグループ分けされて、最初の第1グループがHSa、次の第2グループがHSbと呼ばれていたそうです。
そして、最終グループがHSc。
HSとは、Hahn-Selbstspanner(ハンマーセルフコッキング)の略で、ダブルアクションの意味ですね。
特徴的なトリガーガード前方の三角形は、生産効率を上げるためなんだそうです。作りやすいようにわざと削り込まず、直線に仕上げたことで未来的な印象を与えますが、実際に撃ってみると重量バランスが悪くて狙いにくいそうです。
PPKは、トリガーガードを下方にずらしてバレルとのロックを解き、バレルごとスライドを分離するシステムでしたが、HScはトリガーガード内側のラッチを操作してバレルのロックを解きます。
トリガーガード自体か、トリガーガード内部のラッチか、という違いだけで理屈は同じ。
でもこれね、ラッチを下げてスライドを分離させるときの操作は、一回やるとクセになるほど面白いんですよ。
スライドと噛み合うフレーム側のレール溝の状態を見て下さい。
分解ラッチを押したらスライドが真上に外れるということが、このレール溝でお分かりになると思います。
緑線で示した部品が分解用ラッチ。
MGCのパーツリストによると、テークダウンラッチ。
一緒に写ってるバレルの台座が鉤状になってるのがお分かり戴けると思いますが、結合した状態ではこのバレル台座鉤状部分にフレーム側のピンが入り込みます。
緑色の矢印がテークダウンラッチ。
その横に見える四角い窪みにバレル台座が嵌まり、フレーム側のピンを内包します。
これでバレルは上下左右そして後方を固められ、唯一の逃げ道は前方だけとなります。
そこにテークダウンラッチがバネで上昇してバレル台座の前方を塞ぎ、バレルを完全固定するのです。

テークダウンラッチを下げると、バレルのロックが解けてスライドが上に抜ける。
それはスライドレールの凸部が他のセミオートのようにスライドの前から後まで通ってなくて、4か所だけ部分的に噛み合っているからです。
上の写真では分かりにくいですが、スライドの内側に特徴的な4か所の凸部を見ることが出来ます。
分かりますかねえ。
まるでホッチキスの針のようなものがあるでしょ。
これがスライドレールの凸部。
もちろん、モデルガンならではの仕様です。
スライド内部に4か所だけ凸部を設けるということは、複雑な型抜きか切削工程を増やすことで対応しなくてはならず、コストを抑えるための対策として行われたのがこの針金工法。
スライド表面に4つの凹みを付け、そこにそれぞれ2つずつ8個の小穴をあけ、4本の針金を通して内側で曲げる。
まるで試作品のようなこの工法は、かえって手間がかかるので、後に改められたようです。
実物メカとどれくらい近いのかは分かりませんが、これを見るとPPKのトリガーコネクターを反対側に移しただけのようにも感じます。
まあ、向きが違う位置が違うでパテントの侵害は避けることは出来ているのでしょう。
MGC独自のメカかも知れませんが、これ良く出来てるんですよ。
トリガーコネクターの上に縦向きに付いてる部品がディスコネクターです。
ワルサーピストルと良く似たセイフティレバーを操作するとディスコネクターがトリガーコネクターごと押し下げられて、シアーとの連繋を断つという仕組みです。
今回も完全分解の図は、yonyon師匠のホームページから拝借致しました。
HScモデルガンの詳細につきましては、yonyonホームページをご覧ください。
HScのモデルガンは、MGCからデラックスタイプとスタンダードタイプの2機種が販売され、デラックスが実物と同じ作動をするのに対し、スタンダードはフィンガーアクションでした。
同じ時期に国際もHScのモデルガンを販売しており、これは長いことMGCのコピーだと思い込んでいましたが、国際のオリジナル設計だそうで、同じフィンガーアクションでも部品の造りが微妙に違うそうです。
同じ機種で同じ動きをするなら、それはもうパクリ商品と言って良いのではないかと思いますけどね。
西岸良平の『夕焼けの唄』という単行本漫画をご存知でしょうか。
現在でもビッグコミックオリジナルに連載されている『三丁目の夕日』のことですが、昭和30年代から40年代後半くらいまでの日本の下町を舞台にした、庶民の生活を写し取ったような内容で、僕は好きなんですよねえ。
昭和61年2月に単行本として発売された『ブリキの鉄砲』に当時のモデルガンマニアが登場します。
デパートの玩具売場でモデルガンの実演販売が行われていた様子も描かれており、モーゼルHScも登場しています。
外装式ハンマーも殆ど隠れていて、衣類に引っ掛かる部分のない携帯性を重視されたデザイン。
直線の多い未来的な姿はSF映画に出てくる光線銃のようです。
フィンガーアクションタイプは規制後も生き残り、smGマークを付けて販売が続けられていましたが、元号が平成に代わる頃には市場から姿を消しました。













