ずっと欲しかったモデルガン。
今、こうして手元で眺めることが出来る至福。

かつて様々な名機を産み出した東京CMC。その最後の作品がS&WM36です。
それまでチーフスペシャルとか、ハンドエジェクターという商品名でお馴染みだった小型リボルバーは、正式にはM36なんだと僕らが知ったのが80年に入ったばかりの頃。
例によって、永田市郎記者の書くガン誌の記事で得た知識でした。

それ以降、チーフスペシャルという呼び方は誰もしなくなり、昔のモデルガンであっても例えばMGCのM36とか、国際の初代M36とか言うようになります。
僕はこれには少し抵抗がありまして、モデルガンに付けられている商品名はそのまま呼んであげたいと思うのであります。
つまり、MGCのはニューチーフスペシャルであって、M36ではない。
同じくMGCヘビーデューティマグナム44は、縮めてMGC44マグナムでも良いけどM29ではない。
S&Wタイプのモデルガンに、S&Wと同じモデルナンバーが付けられて販売されたものはそのままMGCM39とかM59、M586と呼びますけどね。もちろん、それ以外の呼び名がないからですけど。

ひねくれてんでしょうね。
だから、同じCMCの製品であっても1型チーフはM36ではなくて、チーフスペシャルとハンドエジェクターなんです。



さて、チーフスペシャルのモデルガンがM36になったとき、そのメカニズムは格段にリアルになりました。
CMCM36が生まれたのが1981年。
当時主流になりつつあった樹脂製での登場でした。
その頃までS&Wタイプのプラリボルバーは、MGCのハイパトか44マグナム。そして、それをコピーした国際のハイパトくらいしかなくて、映画やテレビドラマに出てくる刑事さんの拳銃もでかいNフレームに短い銃身をくっつけた不恰好なスナブノーズでしたね。
刑事を演じる役者さんがみんな長身で体格の大きな人たちだったので、そんなに目立たなかったですが、日本の警察官があんな大型拳銃を持つわけがない。と分かるようになると、リアリティーに欠けるなあなんて思うようになるのでした。
ドラマ製作陣もそのことは分かっていたのか、MGCがマークⅢを出すとドラマの刑事さんの拳銃も順次ローマン2インチに貸与換えになっていきます。

でも、日本の警察官がローマンやトルーパーを使ってるはずもなく、テレビドラマでもS&Wのチーフとかミリポリを使っていて欲しいと願うのですが、何故だかS&WのチーフどころかKフレームのプラリボルバーを作ろうとするモデルガンメーカーはなかなか現れませんでした。
それはおそらく、プラリボルバーの元祖たるMGCがブローバックするモデルガンの製作に比重を置いていたことと、同時期にマルシンが発明したPFCで、時代はセミオートタイプに大きく傾いていたからでしょう。

CMCがようやく樹脂製M36を出した1981年。刑事ドラマはシリアル路線よりも西部警察などの影響を受けたアクション路線の人気が高く、マグナムどころか刑事がショットガンを撃ちまくる荒唐無稽なド派手アクションがもてはやされていて、せっかくのプラチーフを使う刑事ドラマは殆んどありませんでした。

しかし、CMCプラチーフが出たことにより、プラリボルバーの新作が切り拓かれる道筋が立ち、それもかなり高性能な製品が続々と輩出されるようになります。

80年代も半ばに入りますと、エアソフトガンが台頭し、モデルガン並みの外観と操作性を持つガスガンの登場で、観る間にモデルガンは駆逐されてしまいます。
あれほどタマの出るエアソフトガンを危険視していたMGCまでもがガスガンの製作販売に熱を入れるようになり、日本中のモデルガンメーカーがこぞってエアソフトガン製作に傾いていきます。

そんな中で、CMCだけはモデルガン一筋に生き続けていました。



上がCMCで、下がコクサイ。CMCはよくMGCと対比されることが多かったという記憶ですが、S&Wリボルバーではコクサイと双璧をなしていました。

リアル志向が定着していたCMCですが、70年代初め頃までの作品はMGCと似たり寄ったりのデフォルメも多く、75年に登場したチーフスペシャルは信じられないことですがマルシンのコピーなんですね。
当時のマルシンはモデルガンメーカーとして立ち上がったばかりの新参者。
主に中田のお下がりを自社ブランドで出してる2流メーカーという印象が強く、同社が躍進するのはPFCの発明からです。

マルシンチーフはアサヒイーグル2型チーフの後継機でした。
アサヒの2型チーフは71年生まれ。前年に登場したMGCニューチーフを参考にして国際2型チーフの要素を加味した、当時としてはかなりハイレベルな製品です。

アサヒイーグルがモデルガン業界から撤退したのちに、中田(TRC)の製品と共に、マルシンブランドで生まれ変わったモデルガンの1つで、アサヒが2インチのチーフスペシャルだけだったのに対し、4インチのハンドエジェクターもラインナップに加えています。
僕にとって、これは非常に嬉しいことです。マルシンがハンドエジェクターを作ったことで、CMCもそのままそれを製品化し、M36としてリメイクしたときも忘れずに3インチを出してくれたのですからね。


サイドプレートの形状はコクサイの方が正確なようです。

S&Wのモデルガンで有名なのはコクサイですが、コクサイも70年代終わり頃まで他社のパクり商品が主流のパっとしないメーカーでした。
それがある日突然変貌を遂げ、リボルバーのコクサイと呼ばれるようになります。
その第一弾は1981年登場のニューM28でした。
CMCのプラM36と同じ年生まれです。
両者共に、それまでにないS&Wメカニズムを正確に再現し、マニアを唸らせました。
しかし、コクサイニューM28はエジェクターロッドにセンターピンが通ってなく、リコイルシールドがサイドプレート側にあるなど、再現性ではCMCに劣りました。
コクサイはその後に出したプラM19でもCMCのM19を超えることは出来ませんでした。
だからか、コクサイは金属製ではかなり修正した上で、決定版とも言えるS&Wモデルガンを産み出すことに成功しています。


こちらは、yonyonさんのホームページから拝借した写真です。
左がCMCで右がコクサイ。


コクサイが金属製のS&Wニューリボルバーシリーズを登場させたのが1984年でしたが、時代は既にエアソフトガン旋風が吹き始めており、モデルガンの新作は頑なにモデルガンだけにこだわり続けていたCMCと、コクサイの両雄に頼るしかありませんでした。

そんな80年代の半ば。CMCが突如としてその活動を停止してしまうのです。

後継者がいないからという理由だそうですが、CMCがなくなるなんて信じられない衝撃的なニュースでした。

CMCが最後に出したのが金属製のM36でした。

コクサイが金属製のM19を出した翌年のことです。


CMCが自社製品最後のモデルガンとして、金属製のリボルバーを選んだのは、モデルガンは金属製であるべきという、老舗の意地のようなものを堅持していたからかも知れません。



プラスチック製のモデルガンは銃身内に鉄板のインサートはありますが銃口が開放しています。
この角度から見ると、銃弾を遮るものは何も見えません。
目の前に突きつけられると、さぞかし恐ろしいでしょう。
でも、これはプラスチック製ですので持ってても罪にはなりません。


こちらは金属製ですので、法律で厳格にインサートの設置が義務付けられていて、ご覧のとおり前から見ると悲しいくらいインサートが丸見えです。
これでも、表面の黄色が抜けて銀色っぽくなっただけで所持違反となり、モデルガンは没収された上に高額な罰金が課せられます。

こんな愚かな法律に嫌気がさし、モデルガン一筋に生きた老舗ブランドが足を洗う気になるのも分かるような気がします。