8日目
Mount Sinsing
正直私はこの日を一生忘れないでしょう。
日の出前、気温が10℃の中起きて身支度と朝食。
10℃!寒い!!
一緒に来ていた地元民のパーティは我々より早くに身支度をして出発していきました。
我々の目的は植物を見ることですので、暗いと何も分かりません。そのためやや明るくなるまで出発を待ちます。
またガイドからの注意点。
「朝6:00前に出発をするが、帰路のことも考慮して昼12:00にはどこにいても引き返すこと。」
本日はピストン縦走です。
普通の登山と異なり登って降りる、行って泊って次の日に帰るということをしません。
同じ道を往復するので帰り道にも同じ時間と労力がかかります。
それどころか帰りは疲れているのでさらに時間がかかる可能性もあります。
そのため最長でも行きに6時間、帰りに6時間で合計12時間。これが限界。
そうでないと日没までに間に合いません。
まぁ12時間もかからんやろ(笑)
ベースキャンプからMt Sinsingまでの頂上までは約2.0㎞、標高400mほど登ります。
ヘッドライトを頭につけ、日の出前の真っ暗闇の中ひたすら登り続けると、大体1km進んでいつの間にか稜線上に出ました。
そしてそこはN. lowiiとN. macrophyllaの大群生地帯でした。
一般的に(というよりトラスマディ山では)N. lowiiは風通りと日当たりが良い場所に、N. macrophyllaはやや谷っぽい、奥まった場所に生えているというのが通説です。
しかしここでは全く同じ、山の稜線上で背の低い木々に絡んで生えています。
というより稜線上であるため全体的に樹木の背が低く、N. lowiiもN. macrophyllaも同じような場所に生えてしまっていると言う方が正しいのでしょうか。
確かにやや日当たりの悪い所にN. macrophyllaが生えている傾向はあるのですが(というより奥まった場所にはN. lowiiが生えていない)、明確に住み分けている!!と言えるほどではなかったように思えます。
この場所は稜線上なので風を遮るものは何もなく、気温はかなり低いです。
20℃-8℃とかなんじゃないでしょうか。
先日のG Minodtuhanと異なり地面は水たまりだらけ泥だらけのびしょびしょのぐしょぐしょですが、苔は比較的乾いています。地面がより砂っぽいというか泥っぽいというか…水はけが悪い感じです。
ここまで登ってくる際にも標高が2,000m近くになってもあまり雲霧林っぽくありませんでしたので、比較的(雨が降らず)乾燥しているのかもしれません。
用土はこちらも大量の有機物の中…という感じでしょうか。
ただしこちらは実生株の数も多く、そういったチビ苗はザ・自生地!!という感じの苔の上などに生えておりました。
N. macrophyllaもN. lowiiも稜線上のあちこちに生えており、両種のトンネルなんてものも。
これはすごい!!
またN. ×trusmadiensisの数もめちゃくちゃ多い!
両種が同じ場所に生えているからでしょうが、そもそもN. macrophyllaもN. ×trusmadiensisも、本来はトラスマディ山の固有(雑)種と言われておりました。
実際は(種子が空を飛んで広がるので)そんなことはなく、周辺の山にも生えてはいると報告はあるのですが、それにしてもN. ×trusmadiensisがここまで多いのは驚愕です。
自然交雑種であるN. ×trusmadiensisは本家トラスマディ山でもあまり多くはないという話でしたのに…
そしてN. ×trusmadiensisは自然交雑種ですのでバラエティも非常に豊か。
N. lowiiっぽいものもあれば真っ赤なもの、ストライプが入っているもの、逆にN. macrophyllaっぽいものなどなど。
こんなN. ×trusmadiensis見たことないで…と言わんばかりに生えております。
こんな環境がSinsingの頂上まで1kmほど続きます。
私は夢中でぱしゃぱしゃやって時間も疲れも忘れておりました。
ここはすごい所や!!
Mount Kaingaranまでの縦走
写真を撮りながらゆっくり平らな稜線上を歩いていき、稜線の終了である2㎞地点がMt Sinsingの頂上です。
そこからは急激な下り。
嫌な感じしかしません。
Mt Kaingaranまで残り4㎞ちょっと。
急激に数百m下って稜線上まで急激に登ってを何度も繰り返します。
Mt. Sinsingを過ぎてもベースキャンプから3㎞地点ぐらいまで(Mt. Sinsing頂上から1km)はやや鬱蒼とした雲霧林でN. macrophyllaが生えているのですが、そこから先は稜線上でもN. lowiiとN. tentaculataぐらいしか生えておりません。
疲れすぎて記憶もおぼろげですが、7回ぐらい谷と山を上り下りしたんじゃないでしょうか。
何度も繰り返される同じようなくっそきつい上り下り。
頂上へ上ると次登る山頂が見え、頂上へ上ると次登る山頂が見え、頂上へ上ると次登る山頂が見え…
基本生えているのはN. lowiiとN. tentaculataばかり。
テンタの開花株は自生地下では初めて見ました
この時点でもう私の心は折れかけておりました。
そして必死に這って歩いて10:30頃の1.5km地点で、既にゴールまで行って戻ってきたガイドさんと遭遇。
Mt Kaingaran直前にめちゃくちゃでかいネペンがあったけど他にめぼしいものはなかったこと。
折り返し地点のKaingaranの頂上は木に覆われており別に景色も良いわけではなかったこと。
12:00には引き返すようにと言われてもう本当にやる気はなくなっておりました。
が、でかいネペンは見たいと。それだけが先に進むモチベーションでした。
そして11:45頃300m地点。
ガイドさんの言っていたでかいネペンと遭遇。
3㎞地点から一切出現しなくなった巨大なN. macrophyllaが一本生えていました。ややN. ×trusmadiensisの気を感じますが一応牙も立派です。
何故ここにだけ残っているのか不思議です。
そうして(写真を撮りまくっていたため遅い)同行者と一緒に写真をパシャパシャ撮っていたのですが…
その瞬間ぶわぁ~っと目の前の霧が晴れて、最後のMt Kaingaranまで至る最後の谷と山があらわに…
あれが最後の山、Mt Kaingaran。
私の絶望した光景(笑)
最後300mでまだ下って登るんかい!
もう無理や!!!(´;ω;`)
という訳で私の心は完全に折れてしまい、同行者は最後まで進むものの、私は300m地点で昼食をとって引き返すことにしました。
といっても既に5.7kmの縦走を6時間ほど行って体力は空っぽ。
しかもメンタルブレイクもして歩くモチベーションも出ない。
あまりにも疲れて歩けないからかMt Kaingaranの最後まで登った同行者二人にも帰路中に追い抜かれました。
疲れと精神崩壊しすぎて稜線上から飛び降りたら気持ち良いやろなぁ~とか考えたり、急に叫んでみたりと頭がバグりながらも何とか這いながら進みます。
そして残り一本の登山ストックを同じように体勢を崩してポキリ。
ストックを2つとも失いました(´;ω;`)
這う這うの体でやっと3㎞地点、N. macrophyllaが出現するエリアに。
なんかもうN. macrophyllaが現れ始めるとゴールが近いと思っていたのですが、まだ3㎞もあります。
しかもアップダウンはまだまだ続き、最後の最後でボルネオ3番目の山、Mt Sinsingの頂上までまた登らなければいけません。
……なんとかSinsingの頂上まで登ってきたとき時刻は16:52。
朝通ったときは7:24だったので7.4kmの縦走を9時間30分ほどかけたことになります…。
稜線上に出てしまえばあとはネペンだらけの1㎞ぐらいの稜線と下るだけの道。
しかし体力の限界も限界だった私はネペンの写真も撮らずにそこからも這うように歩き続け…
日没直後。真っ暗な山道を下って人の声とベースキャンプが見えた時は思わず涙が出そうでした。
出発時:5:45頃。
帰還時:18:30頃。
総歩行時間:12時間45分。
総歩行距離:11.4km。
アップダウン:(後日判明したところによると)2,100m
MantapokとかMinodtuhanとかがかすむぐらいのしんどさでした。
筋肉痛とか疲れすぎて逆に吹っ飛びました。
そもそも平地でも11kmはなかなか歩かない距離ですが、加えて何百mのアップダウンは想定しておりませんでした。
正直片道で1登山ぐらいの体力を使いまして、良く帰ってこれたと思います。
疲れすぎてもう何もできません。
飯食って早々に就寝。
9日目につづく。