【後編】ももクロ妄想小説「Do you remember...?」 | 泥酔天使の超泥酔天獄

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泥酔天使のブログです。
妄想が止まらず感情が昂った時に書きます。

ももクロ妄想小説

【後編】「Do you remember...?」

~虹を作る人~

 

 

●主な登場人物

西条レイ:主人公。横浜市在住の小学六年生の男の子。チーム親方メンバー。HEAVENZ箱推し。

ケンヂ:レイの叔父。現在、東北に在住。HEAVENZのれな推し。

ゼータ:特殊能力を持つ宇宙ネコ。HEAVENZのれな推し。

大葉モモノスケ:小学六年生、あだ名はモモ。チーム親方のリーダー。HEAVENZのかんな推し。

宍戸タマト:小学六年生、呼び名はタマト。チーム親方メンバー。百人一首、和歌に詳しい。HEAVENZのしおん推し。

河上アキラ:小学六年生、あだ名はアキラッチョ。チーム親方メンバー。ダンスがうまい。HEAVENZのありさ推し。

西条カコ:横浜市在住。レイの母親。ケンヂの姉。あだ名はカーコ。

大葉マリ:モモノスケとモモタの母親。元「横浜魔苦須」総長。

宍戸ナツキ:タマトの母親。あだ名はナンシー。パンク好き。元パンクバンド「SID」のボーカル。

河上フウコ:アキラの母親。あだ名はフーコ。HEAVENZのプロデューサーARINAは姉。

大葉モモタ:モモノスケの兄。全国高校総番長制覇の旅に出ている。

HEAVENZ:4人組の人気アイドルグループ、2年ぶりに新国立競技場で復活ライブを行う。

千田かんな:HEAVENZのリーダー。担当カラーは赤。アスリートと結婚後、出産・子育てのため育休中。

遠藤しおん:HEAVENZメンバー。担当カラーは黄色。独身。女優兼モデル、バラエティータレントとしても活躍。

渡辺ありさ:HEAVENZメンバー。担当カラーはピンク。既婚、夫は専業主夫。ソロアイドル、女優、モデル、手話番組、アイドルプロデューサーとしても活躍。

高田れな:HEAVENZメンバー。担当カラーは紫。冒険家と電撃結婚し、新婚旅行で世界中を冒険後、冒険記「れなちゃんの奇妙な冒険」を出版。現在、不定期放送のゲリララジオ番組「パンチDEハッピー」のパーソナリティーを務める。年に1回、ソロコンを開催。

ARINA:HEAVENZのプロデューサー。アキラの伯母。

ナオミ:ケンヂの恋人。ゼータの命の恩人。

ベルカ:ケンヂがレイにあげたスピッツ系の雑種(メス犬)。レイの命の恩人。

麻宮れに:謎の鉄仮面少女(?)。ヨーヨーを自在に操る。

 

 

●第7章

 

『午後4時になりました!神出鬼没のレディオビーナス・高田れなの不定期ゲリララジオ「パンチDEハッピー」、まさかまさかの本日2回目の放送です。それはなぜか。そう、もう1通リクエストが届いていたからです。入場中の人、会場に向かっている人たちも聴いてね。それでは早速読みたいと思います。ラジオネーム・サザンカ超特Qさんから「れなさん、こんばんはー。東北の田舎町で塾の講師をしているれなちゃん推しのおっさんです。実は塾の小六の子供たちがどうしても自転車で新国立競技場のライブに行きたいと言い出して、6日かけて新国立競技場を目指しています。なんとか無事「集結」したいと思っています。子供たちは来年別々の中学に進学するので、おそらくこれが最後の思い出作りの旅になると思います。そこで子供たちに励ましの言葉をかけてもらえませんか?よろしくお願いします」。そうですかー。もう着いたのかな?それとも今まさに向かっているのかな?安全に気をつけて会いに来て下さいね。私たちはここにいる、ずっとここにいるから!別々の中学になってもズッ友でいることはできるし、まずは今を楽しんで下さい。待ってまーす、からのー、来れんのかー!!。それではサザンカ超特Qさんのリクエストで、ももいろクローバーZの「今宵、ライブの下で」』

 

旅にでよう

少年と少女の淡雪の恋やチケット

勇敢な挑戦や冒険 宇宙へもゆける

ぜんぶこころのなかに

自由にはばたいたら笑 顔や涙あふれる

戻ればいつでも隣にいるの

今宵 ライブの下で待ちあわせた

 

午後5時。ライブの開演時間になった。

「ママ、やっぱり今日のライブに行きたいよ」

「ダメよ。ママもいるでしょ」

『まあまあ、ママさんの気持ちはわかるが、レイのケガはもう治ってる。オレが治した。脳波の検査でも異常はなかったんだろ?行かせてあげなよ』

「えっ?なにっ?アンタしゃべれるの?」

『ああ。時間がないから詳しい話はまた後で。オレは宇宙ネコで話もできるし、治癒能力もある。レイのママ、どこか痛いところはあるかい?』

ママは戸惑いながらも「肩と腰ね。肩こりが酷いのよ。あと冷え症」

『あーわかったよ。それじゃあ、この椅子に座って』

「なに?変なことしたら、半殺しよ」

ママが座るとゼータはツノを装備し、ヒザに押しあてた。

『どうだい?』

「えっ!?肩こりも腰の痛みもないわ。冷え症は…わからないけど」

『多分、冷え症も治っているはずだ。これでわかったろ。レイのケガは治っている。ライブに行かしてあげてくれないか?』

「姉ちゃん、頼む」

「もう、しょうがないわね。じゃあ、さっさと行きなさい。ママは退院の手続きして行くから。会場で合流しましょう」

「ラジャー」

 

おじさんとゼータが荷物をまとめている間にボクは着替え、3人、いや2人と1匹で病室を飛び出した。病院の駐輪場の自転車に飛び乗り、猛ダッシュだ。おじさんのママチャリの後にボクも続く。ゼータはボクのママチャリのカゴに乗っている。

「安全運転だぞー」言葉とは裏腹におじさんは猛スピードだ。何だかペダルが軽い。ゼータが能力を使ってサポートしてくれているらしい。念のためゼータは毛布を被って外からは見えないようにした。

 

残り5㎞、4㎞、3㎞…新国立競技場が見えてきた。

その時…おじさんの自転車がパンクした。

「時間がない。レイ、そっちの自転車で二人乗りだ」

おじさんは自転車を通行の邪魔にならない場所に置くと、ボクの自転車にまたがった。ボクは後ろの荷台だ。

またおじさんは猛ダッシュだ。

『あのよー。オレの能力使うか?空飛べるぞ』

「なにー?オマエ、空飛べるのか?」

『そりゃ、そうだろう。オレは宇宙ネコだぞ。どうやって地球まで来たと思ってるんだ?そもそも初めに会った時、オレ空飛んでただろ』

「言われてみれば。でもまあ大丈夫だ。ここで飛んだら目立つからな。大騒ぎになっちまう」

『そうか』

このペースなら着くのは午後6時頃かな。1時間遅れで入場できそうだ。

 

ポツ、ボツ

「ヤバい!雨だ。そこに停まるぞ」

いつの間にか空が薄暗くなっていた。

おじさんは歩道橋の下に自転車を停めると「秘密兵器―」と言って「強力撥水スプレー」を取り出し、ゼータの全身に吹きかけた。

おじさんの用意周到さに恐れをなしたのか、雨は止んだ。

 

残り2㎞、1㎞…ライブの音が漏れ聴こえてくる。その音が段々と大きくなり、そしてとうとう…新国立競技場に着いた。

 

240㎞を走破した!おじさんとゼータとハイタッチをした。

 

本日の走破距離10㎞

新国立競技場に到着

 

 

会場の周辺にはもう人はあまりいない。もうみんな会場の中だ。モモたち、ママたちも会場に入っている。

 

ソイツらは駐輪場で待っていた。黒塗りの車の男たちだ。今日は男が4人に増えていた。そしてその後ろに1人の女性…鉄仮面を被り、セーラー服を着て腕組みをしている。

ゼータが『この前は世話になったな』と一歩前に出た。

「レイは下がってろ。オマエたちは一体何者なんだ?なぜこのネコを狙う?」

「おじさん、警察を呼ぶ?」

「呼んでも無駄だぞ。オレたちは政府直轄の特殊機関だ。ソイツは宇宙人だろ?捕獲命令が出ている。大人しく差し出せばオマエたちと争うつもりはない」

「宇宙人?そうなの?ただのノラネコだろ」おじさんはとぼけたが、ゼータがハンガーを取り出し、ヌンチャクのように振り回している。

「オレたちも争う気はないよ。ライブを見に来ただけだ。さっ、行こう」

 

「交渉決裂か。よしっ、捕まえろー!」

4人の男たちが飛びかかってきた。

ポツポツと雨が降ってきたけど、撥水加工されたゼータの体は雨粒をはじいている。ゼータは雨を気にせず縦横無尽に飛び回り、ハンガーで男たちを殴り飛ばした。

だけど、2人の男がボクとおじさんの方に向かってきた。おじさんが立ち向かったけどあえなくぶっ飛ばされた。でも男の足にしがみついて、ボクの方に来るのを阻止してくれている。ボクも勇気を振り絞って男に立ち向かった…けど、ビンタされ吹っ飛ばされた。

「レイー!」

ボクは子供だ。敵うわけがない。でもこのままではゼータが連れていかれてしまう。ボクの友だちが。

意識が遠くなりかけた時、ゼータの声が聞こえた。

『ケン!レイ!強くなければ大好き人はみんな遠くに行ってしまうんだぞ!強くなれ!』

ケンとレイ…今まで気づかなかったけど、おじさんとボクってケンとレイなんだ。そう、ケンシロウとレイ。北斗神拳伝承者のケンシロウと南斗水鳥拳伝承者のレイ。じゃあ、もっと頑張らないとな。あとゼータ、そのセリフは「刑事物語」の片山刑事のパクリだよね。

ヨロヨロと立ち上がったおじさんがボクを助けに来ようとしている。

 

「おじさん、助けなくて大丈夫、一人で起きる、みんなが待ってる、ボクも一生懸命闘う、あるだけの力を出して抵抗する、だから…おじさんは、おじさんの闘いをして」

ボクは男たちをにらみつけ「テメエらの血は何色だー!!南斗水鳥拳究極奥義・飛翔白麗!!」そう叫んでジャンプし男の肩口にチョップをした…けど腕を捕まれ、またビンタで吹っ飛ばされた。男は倒れたボクの胸ぐらをつかみ持ち上げ何度もビンタをした。

 

 

●第8章

 

「なにが大丈夫だ。やられてるじゃねえか」

レイを助けようとしたものの正直それどころではない。何度も蹴られ意識が朦朧としてきた。

オレはまた大事な人を失うのか?レイを、ゼータを。そんな思いが頭をよぎった、その時に「自分を責めないで」という言葉が聞こえてきた。ナオミの声だ。

ゼータの方を見るとゼータと目が合った。ゼータがうなずいた。

オレは何とか立ち上がり、男に片足タックルをした。油断していた男が倒れた。

「ウォーーーーー!!!レイを離せー!」もがくレイにビンタをする男の後ろから飛び蹴りをかましてやった。

 

その時。

「あー、もうアンタたち、何やってんの!ほら、こっちのネコはアタイが相手するから、そっちの2人を4人で捕まえて」

男たちの後ろに控えていた謎の鉄仮面少女が怒鳴った。

ゼータにボコボコにされていた2人の男がオレとレイの方に向かってくる。

 

『やっと親玉の登場か』

鉄仮面少女はポケットからヨーヨーを取り出し「高校卒業してはや十一年、いまだセーラ服を着て頑張ってるアタイの名前は麻宮れに!

またの名をスケバン鉄仮面!!鉄仮面に顔を奪われ二十と九つ…。生まれの証さえ立たんこのアタイが、何の因果か政府の手先。テメエら、ぜってー許さねえ!」そう言ってポーズを決めた。

 

麻宮の放つヨーヨーをゼータはハンガーで叩き落した…ように見えたが、ハンガーはヨーヨーに絡めとられ、麻宮の手に。

『名前はジャギだと思ったぜ。ケン、レイときて鉄仮面が登場したら、それはジャギだろう。でもジャギよりはやるようだな』

 

麻宮とゼータの激しい闘いが始まった。雨が少しずつ強くなってきた。

ゼータが「秘伝・絶天狼抜刀牙!」と叫び、麻宮に飛びかかった。

麻宮の鉄仮面が二つに割れ、麻宮の素顔が現われた。

 

「ナオミ!?」思わず声がでた。

『いや、そんなはずはねえ。ナオミはオレの中だ』

「ナオミなんて知らないねえ。アタイはジャギでもナオミでもねえ。れにだよ」

 

気を取られたオレとレイは4人相手に捕まってしまった。

「おい、ネコ!抵抗すると2人をもっと痛めつけるぞ」男はゼータにそう言った。

『それはどうかな』ゼータが不敵な笑みを浮かべた。

 

「おんどりゃー!!!」絶叫とともに現れたのは全身真っ赤な特攻服に身を包んだモモタだった。

モモタは4人の男たちを次々と蹴散らした。

「モモタ、全国制覇は?」

「ちょっとてこずったけどな、全国制覇達成したぞ!」

 

だが、安心したのもつかの間、雨が土砂降りになった。

するとゼータの動きが鈍くなった。撥水効果が切れたらしい。

 

ヨロけたゼータに麻宮のヨーヨーが当たり、ゼータが吹っ飛ばされた。

雨はさらに激しさを増した。

 

『お客様にお知らせです。豪雨のためライブを一時中断します。貴重品をお持ちになり、雨のかからない場所へ移動願います』

 

ライブが…中断した。

 

倒れたゼータをモモタが起こし、こっちに投げた。

オレはキャッチし、レイと雨のかからない場所へ移動した。

レイがゼータを抱きかかえた。

 

モモタにぶっ飛ばされた4人はピクリともしない。

モモタと麻宮の闘いが始まった。モモタと麻宮の勝負は互角だった。

雨は激しさを増した。

 

ゼータがレイの腕の中でなにか言っている。

『ツノ…つけてくれ』レイがゼータにツノをつけるとゼータはヨロヨロと立ち上がり、大声で『ニャーーーー!!』と叫んだ。

 

周囲に雷鳴がとどろき、モモタと麻宮の間に、カミナリが落ちた。

 

ドッカーン!

 

2人は吹っ飛び、倒れた。

先に立ち上がったのは麻宮だった。麻宮はヨーヨーを構え、モモタにとどめを刺そうとしたが、その前にレイが立ちふさがった。モモタを庇うようにレイが両手を広げ、麻宮をにらみつけた。

レイをじっと見た麻宮はヨーヨーを下ろし「アタイの負けだ」と言い背中をむけた。

 

「アタイたちは殺し合いをしてるんじゃない。上には他の星に逃げられたって報告する。あとはうまくやりな」麻宮は鉄仮面を拾い上げるとそのまま立ち去った。

 

気がつけば雨が止んでいた。

 

 

『午後6時30分になりました!神出鬼没のレディオビーナス・高田れなの不定期ゲリララジオ「パンチDEハッピー」、本日3回目の放送です。

突然の豪雨でライブが一時中断となりましたが、雨もやみ、もう雨の心配は無いそうです。今、安全と機材の確認中です。確認ができ次第ライブを再開しますので、それまでこの放送を聴いてお待ち下さい。まずはラジオネーム・ほろ酔天使さんからのリクエストで、ももいろクローバーZの「灰とダイヤモンド」です。この前教えてもらった話なんですけど、炭とダイヤモンドは、どちらも炭素からでできていて、炭は燃え尽きると灰になるんですけど、炭を超高温・超高圧という特殊な環境で合成するとダイヤモンドになるっていうんですよ。凄くないですか?特殊な環境で圧力をかけられて育ったももクロの皆さんは灰にならずにダイヤモンドになったアイドルなんですね。私たちHEAVENZもそんなアイドルになりたいと思います』

 

薄い膜を破り

芽生えたての羽は

高い壁の前で 広げかたもよめず

けれど 知っていたんだ

悩む前に飛べと

熱いアザをのこして

次の空 めざした

 

 

●第9章

 

意識を取り戻したモモタが「レイが守ってくれたのか。ありがとな」とレイの頭を撫でた。

能力を発動しぐったりしているゼータをタオルで拭いてやると、ゼータは少し回復したようだ。

「パンチDEハッピー」を聴きながら、みんなで関係者入場口に向かった。

オレ、レイ、モモタ、3人の名前を確認してもらい、入場しようとすると「ちょっと待って下さい。ペットは持ち込みが禁止されています」とスタッフに止められた。

 

『安全が確認されました。19時からライブを再開いたします』

 

「オレたちHEAVENZのプロデューサーARINAの関係者なんです。見逃してもらえませんか?ほら、静かにしているでしょ?」

「ルールなんで」

押し問答をしているとゼータがオレをチョンチョンとつついた。なにか言いたそうだったので入場口から離れた。

『オレはいいからさ。オマエたちだけで見に行けよ。オレはこの辺で待ってるから』

「そんなのダメだよ。ゼータも一緒じゃなきゃ」レイが言う。

オレはゼータがこのままいなくなりそうな予感がして「オレもレイと同じ気持ちだ」と言った。

「おい、急がないと始まっちまうぞ」モモタが声をかける。

「モモタ、悪い。先に行ってくれ。オレたちは残る」そう返事するとモモタは何か言いたそうだったが中に入って行った。

 

モモタ、東京都制覇

そして日本全国制覇達成!

 

 

『オマエらさー、泣き虫だけど弱虫ではないよな。いろいろありがとな。楽しかったよ』

「なんだよ。別れの挨拶かよ」

『オレはさー、ユニコーンの子孫だと言ったけど、同時にペガサスの子孫でもあるんだよ。ユニコーンにはツノがある。そしてペガサスには翼があるんだ』

「へーそうなの」

『オマエたちはオレと一緒にライブを見たい、でもオレは中に入れない。オレはオマエたちにライブを見て欲しい』

「ああ。なんとかARINAさんに連絡してもらって中に入れてもらおう」

『でも、もう時間がない。それにそんなことで手を煩わせるも抵抗がある。そこでだ…』

ゼータがどこからかコントローラーを取り出し、おもむろに『上上下下左右左右BA』、そう無敵コマンドを入力した。

 

ライブ再開のOvertureが聴こえ始めた。

 

『宇宙ネコZ-Ⅱ、ZZver.に転変!』

 

ゼータがそう叫ぶとゼータの体が光り始め、白いオーラに包まれた。

「オマエ、体調が万全じゃない時にこれ以上、能力使うと…」

『死にはしないから安心しろ!』

ゼータが『ニャーーーー!!』と叫ぶとゼータの背中に小さな翼が現われた。ツノと翼、たしかにユニコーンとペガサスの血をひいてるようだ。

『まだ、本調子じゃないから、オマエら2人は同時には乗せれないし、どのくらい飛べるかわからない。さてどうするか?あっそうだ。レイの自転車があっただろう。アレで飛ぶぞ』

 

オレたちは駐輪場に戻りレイの自転車に乗った。

前のカゴにゼータが乗り、後ろの荷台にはレイが乗っている。

『ケン、全力でこいでくれ。そうしたら飛べるはずだ』

オレは全力で自転車をこいだ。

 

すると…飛んだ。自転車が浮き上がった。

 

「おい、オレはこぎ続けた方がいいのか?」

オレたちの乗ったママチャリはどんどん上空に上がっていった。

『ここまでくれば大丈夫だ。ほら、2人とも下を見てみろよ。そして後ろも見てみろよ』

 

 

おじさんのお腹に手を回し、ギュッと目をつぶって荷台に乗っていたボクが、ゼータの声でゆっくりと目を開くと…

 

眼下にはうつくしい光景が広がっていた。4色のペンライトの海。もし天国があるのなら、きっとそこはこんな場所なんじゃないのかな。

ステージ上にHEAVENZのメンバーが踊っているのがわかる。歌声も聴こえる。ビジョンに映るメンバーの表情は笑顔だ。客席の4色のペンライトが波打って見える。後ろを振り返ると「虹」があった。ボクたちが通った跡に虹ができている。

 

「おじさーん、後ろを見なよー」

 

 

ゼータに言われた通り、オレは視線を下に向けてみた。そこには…

 

ああ、オレはこの光景が見たかったんだ。DVDで何度も見た光景。

映像とは違う生の迫力。離れて見ると余計きれいに見える。

 

「キレイね」ナオミの声が聴こえた気がした。

 

レイの言葉で後ろを振り向くと「虹」があった。オレたちは虹でできた道を走っていた。いや、正確にはオレたちが走った跡に虹ができていた。オレたちがこの虹を作っているんだ。信じられない光景だ。

 

 

「ねえ、あれ見て!」かんなが上空を指さした。MC中の出来事だ。

ステージ上の他のメンバー、そして観客がみんなかんなの指さす方向を一斉に見た。

 

「あれ、虹だよね」とかんな。

「虹って夜にもできるの?」としおんが聞くいた。

「私、聞いたことあるよ。月の光でできる虹。月虹って言うんだよ」

「へー、れな、よく知ってるね。月虹っていうんだ。ロマンティックな言葉」ありさが感心した。

「今度、そういうタイトルの曲、作ってもらおうよ」

「その案、いいね、いいね、賛成」かんなの提案にしおんがのった。

 

「ねえ、ありさ。手話で“月虹”ってどう表現するかわかる?」とかんな。

「月虹かー、月虹はわからないけど“月の虹”なら、右手親指と人差し指の先をつけて、三日月を描くようにおろしながら、指先を離してまたくっつける、これが月。それで、右手の親指、人差し指、中指を伸ばして、顔の左前から上に弧を描いて右に動かすの。これが虹」

「何か手話って、もうひとつ言語が話せるようなもんだよね」かんなが感心して答えた。

 

「あれっ?今、月のところになにか見えなかった?自転車みたいなの」

「どこ、どこー?れな、なんにも見えないよ」

「おかしいな、何かね、虹の先端に自転車が見えた気がしたの。月に照らされて影絵みたいに見えたんだけど、なんか自転車で虹を作ってるように見えたの」

 

「誰か見えた人いますかー?」しおんが観客に聞いたが、手を上げた人は誰もいなかった。

「れな、見間違いだよー。でも虹を作る人って、本当にいたら素敵だね」ありさが言った。

 

 

その虹を作ったボクたちは新国立競技場の屋根の上からその様子を見ていた。月あかりに照らされたステージは幻想的だった。

 

 

 

●第10章

 

「皆さん、今日は私たちの2年ぶりの復活ライブ『来れんのか?HEAVENZ RESTART 集結セヨ。』にお越しいただき、いや集結していただきありがとうございました。雨での一時中断がありましたが、なんとか再開できて、こうして最後までやることができて本当によかったです。余韻に浸りたいところではありますが、風邪をひかないよう今夜は早く帰ってお風呂に入って寝て下さいね。では、次が最後の曲になります。『Neo HEAVENZGATE』聴いて下さい」

 

曲の終盤、花火が上がった。何発も何発も。横を見るとおじさんの頬を涙が伝っていた。

 

「なあ、ゼータ、ナオミはなぜあの場所に行ったんだろうな?」

『オマエの部屋で、小学生の時の読書感想文を読んだらしい。何か賞もらったんだろ?』

「そういうことか。実家から邪魔だって送られてきた荷物に入ってたんだな。読書感想文じゃなくて体験談だったんだけどな。マリさんたちとポリネシアンセンターに自転車で遊びに行った時の珍道中だ」

『その珍道中の場所を見たくなったらしい』

「そうだったのか。あの堤防が珍道中の始まりの場所だったな、そういや。ナオミは水泳部だったから海水浴したことないって言ってたしな」

『水泳部だと海水浴しないのか?』

「ああ、海は塩分で浮きやすいからな。あんまり海で泳ぐとプールで泳いだ時に調子が落ちるんだ。だから禁止されてた。今は知らんけどな」

ゼータはなにも言わず花火を見上げていた。

 

ゼータに出会ったのは花火大会の日だった。あの出会いは偶然だったのか、必然だったのか、ボクにはわからない。でもおじさんとゼータはひかれ合ったんだと思う。

 

ライブが終わり、ボクたちは地上に降りた。ゼータは力を使い疲れたから休むと言うので、ボクとおじさんはみんなと合流し、バックステージでHEAVENZのメンバーと対面した。

 

メンバーの前でおじさんはお地蔵さんのように固まっていた。れなちゃんが気を使っておじさんに「ライブどうでした?月虹は見えました?」と話しかけると、おじさんは「ライブよかったです。ペンライト、きれいでした。月虹、見えました。あっ、虹を作る人、ボクは見ました」と答えた。

れなちゃんは「本当にー?ここに見た人いたよー。ほらー、やっぱりいたんだよ、虹を作る人」と大喜びしていた。

 

みんなは「推しの前だからって適当なこと言ってー」と、つっこんでいたけどおじさんは適当なことなんか言っていない。

 

おじさんは見ただけじゃない。

れなちゃんが、れなちゃんだけが気づいた「虹を作る人」は、今、れなちゃんの前でお地蔵さんのように固まっているそのおじさんなんだ。

緊張して固まっているダサいおじさんだけど、ボクの自慢のおじさん。

虹を作ったのはゼータの力だけど…そう、ゼータ。

 

あっ、ゼータ。つい浮かれてバックステージに来ちゃったけどゼータは大丈夫かな?いなくなってないかな?

 

おじさんの方を見るとおじさんも同じ気持ちだったらしく目が合った。

ボクとおじさんはひと足早くバックステージを離れ、ゼータを捜した。

 

ゼータは別れた場所で毛布にくるまって眠っていた。

でもゼータのツノがなくなっていた。ツノを外したわけでも無いようだ。首輪にもぶら下がっていない。そういえば別れる時にはもう無かった気がする。

 

みんなと一緒にホテルに戻った後、お風呂に入り、着替えてからおじさんの部屋を訪ねた。おじさんの部屋にはゼータもいた。おじさんがこっそり隠して部屋に持ち込んだようだ。

 

「ゼータ、ありがとう」そうゼータに言うと『まあ、いいってことよ。オレも楽しかったしな。オレの方もありがとな、助けてくれて。あとでモモタにもお礼言わないとな』

「ところでゼータ、ツノはどうなったの?」

『ああ、ツノかー。今、ケンにも説明したんだけどな、ツノは消滅した』

「えっ?どういうこと?」

『まあ、簡単に言えば、全身濡れた状態で能力を使い過ぎたんだな』

「じゃあ、もう能力は使えないの?」

『しばらくはな。ツノが消えちまったから。でも3年すれば、また生えてくるから心配するな』

「3年?それじゃあ、あと3年は地球にいるの?」

『ああ、嫌か?他の星に行くためにはツノが完全に再生しないと無理だからな』

「嫌なもんか!ずっと一緒にいよ、でも…」

『でも、なんだよ』

「ゼータはおじさんと一緒にいた方がいいと思う。それはゼータにとっても、おじさんにとっても」

「無理する必要ないんだぞ」おじさんが言った。

「無理はしてるよ。本当はゼータと一緒にいたい。でもボクよりおじさんの方がゼータを必要としてるし、ゼータも…」

「レイ…」おじさんがなにか言おうとした。

 

「じゃあ、こう考えてよ。ゼータはボクが引き取った。そのあとおじさんに譲った、それならどう?ボクはベルカをおじさんからもらった。だから今度はボクがゼータをおじさんにあげる」

『なんだ、オマエら、オレのこと押し付け合ってないか?オレをモノだと思ってないか?』

「ならゼータはどうなの?ボクとおじさん、どっちといたいの?」

『それは-…』

 

『私はケンといたい』

 

ボクもおじさんもびっくりした。ゼータも驚いている。

今、はっきりと聞こえた。女性の声だ。ゼータといる時に、そして夢の中で聞いたことがある声。

 

「今のがナオミさんなんだよね」

「ああ、そうだ。レイにも聞こえたんだな」

「うん。これで決まりだね。それじゃあボクはもう寝るよ」

 

おじさんの悲しい記憶は楽しい思い出で上書きされるかな。

 

「ゼータ、ナオミ、よろしくな」

『ああ、よろしく』

『よろしくね』

 

 

●第11章

 

8/28 HEAVENZのライブday2当日

ボクはお昼まで熟睡していた。考えたら昨日は入院していたんだった。あまりにも濃密な時間だった。モモたちが起こしに来て一緒に昼ごはんを食べた。おじさんとゼータは出かけたらしい。

外を見ると快晴。天気予報を見ても今日は1日中降水確率0%だ。

 

昨日あったことをモモたちに話し、モモたちからボクがいない間のことを聞いた。

 

そこに特攻服を着たモモの兄ちゃんが起きてきた。

「よー、オマエら元気かー?」

「兄ちゃん、全国制覇おめでとう!」

「ああ、ありがとな。でも世の中にはまだまだ強いヤツがいることがわかった。まだまだ修行だな。ゼータと修行しないとな」

「モモの兄ちゃん、おめでとう。あと昨日は助けてくれてありがとうございました」

「よう、レイ、改めてよろしくな。モモタ兄ちゃんって呼んでくれ。それとゼータと修行させてくれ。夜露死苦!」

 

ちょうどそこにおじさんが帰ってきた。

「ゼータは?」おじさんに聞くと、おじさんは背負ったリュックを指さした。

 

みんなでおじさんの部屋に集まった。ママたちはみんなで買い物に出かけたらしい。

リュックから出たゼータにおじさんは「超強力撥水スプレー(UVカット)」って書いてあるスプレーをかけた。

シューッ。シューッ。シューッ。

 

「今回のは前のスプレーより強力だから、ゲリラ豪雨でも大丈夫。何といっても「超強力」だからな!しかもUVカット!」

「撥水スプレーのUVカットってなんだよ。絶対に怪しいだろ」タマトがつっこんだ。

「おじさん、それってゼータの体に良くないんじゃないの?」

『大丈夫、大丈夫、なんの問題もない。それどころか大助かりだ。もっと早く知りたかったよ』

 

「ゼータ、昨日はありがとな」モモタ兄ちゃんが言った。

『いやーこっちこそ助かった。それに悪かったなカミナリのコントロールがきかなくて』

「さすがにアレには驚いたな。戻ったら一緒に修行しようぜ」

『オッケー。オレはツノが無くても強いぜ?』

 

「そういえばレイ、推しは決まったのか?まあ、箱推しが悪いわけじゃないけど」

「うん、決まったよ」

「おっ、それは意外。誰だよ」

「それは…」

そう言ってボクはラジオをつけた。

 

『午後2時になりました!神出鬼没のレディオビーナス・高田れなの不定期ゲリララジオ「パンチDEハッピー」、昨日、ライブに来て下さった皆さん、本当にありがとうございました。途中雨で中断しましたが、皆さん、風邪ひいてないですか?今日は降水確率0%という予報なんで安心してライブを楽しみましょう。今日はまた新しい人からリクエストが届いています。ラジオネーム・レイ・ベルカ ZZver. さんからです。「れなさん、こんにちはー。昨日のライブに行きました。ちょっとトラブルがあって途中からの参加だったのですが、それでも楽しかったです。初めてのHEAVENZのライブだったのですが、ペンライトの海、そして月の虹、月虹がとてもきれいでした。もちろんステージ上のみんなも。ライブを見る前、ボクは箱推しだったのですが、ライブを見て「れなちゃん推し」になりました。ちなみにボクのおじさんとネコのゼータもれなちゃん推しです。今日のライブも参加するので今日は初めから全力で楽しみたいと思います」。

レイ・ベルカZZver. さん、いや君なのかな。ありがとうございます。箱推しから私推しになったそうで、そうですか、私の魅力が伝わりましたか、ありがとね。それにおじさんもネコのゼータちゃんまでも私推しだと、こりゃ今日のライブやる気でるわー。では聴いて下さい。

レイ・ベルカZZver.君のリクエストで「Dancing れなちゃん」です』

 

れーなちゃん!れーなちゃん!

れーなちゃん!れーなちゃん!

Help!すればとんでくぜ わたしは Dancing れなちゃん

Baby Baby こっち来てもっと 遊ぼ Everynight

夢なら醒めたくない れな れな れな れな Yeah!

Lonly Daysが、どっちかって言うと嫌いな Boys&Girls

無敵の合言葉さ れな れな れな れな もう一回 Let's Go!

 

 

「おーレイもれなちゃん推しかー。ソロコン一緒に行こうな」

おじさん、そしてゼータもうれしそうだ。みんなで久しぶりに踊った。

 

 

『さて今日はこれだけじゃありません。もう1通リクエストを読みたいと思います。昨日もリクエストいただいたラジオネーム・フェニックス・ナオミさんからです。「昨日のライブ、楽しく見させていただきました。特にラストの「Neo HEAVENZGATE」、そして花火をもの凄く近い場所で見れたのは一生の思い出です。ところでれなちゃん、私も「虹を作る人」見ましたよ。きっと「虹を作る人」は心がきれいな人にしか見えないんだと思います(笑)」。フェニックス・ナオミさん、昨日のライブ来てくれたんですね、ありがとうございます。

よく考えるとフェニックス・ナオミってラジオネーム、なかなか破壊力ありますよね。そんな破壊力抜群のフェニックス・ナオミさんのリクエスト曲でドレスコーズの「コミック・ジェネレイション」をどうぞ!』

 

そうだ そうだ 今夜僕らはこの世界の

誰よりもふまじめなキング

そして…わがままなクイーン!

愛も平和も欲しくないよ

だって君にしか興味ないもん

我こそは恐るべき人類

コミック・ジェネレイション

 

『機嫌がいいので最後に私自身のリクエスト曲をかけて終わりにしたいと思います。さっきのレイ・ベルカZZver.君とフェニックス・ナオミさんも書いていましたが、昨日のライブ中に「月虹」が見れたんですよ。あれはとても珍しい気性現象みたいで昨日ライブに来た人はラッキーですよ。それに私が見た「虹を作る人」、会場で聞いた時は見た人いなかったようなので、私の見間違いなのかなって思っていたんですけど、実は昨日1人いたんですよ。見たっていう人が。そして今日もまた1人。だからきっと本当にいたんだと思うんです。その大切な記憶を、思い出をいつまでも忘れないように、覚えているように、この曲をかけたいと思います。皆さんにとってこの番組がそういう存在になることも願いながら。では聴いて下さい。ラモーンズの「Do You Remember Rock 'n' Roll Radio?」』

 

This is rock and roll radio

Come on, let's rock and roll with the Ramones

Rock'n rock'n'roll radio, let's go

Rock'n rock'n'roll radio, let's go

Rock'n rock'n'roll radio, let's go

Rock'n rock'n'roll radio, let's go

Do you remember Hullabaloo
Upbeat, Shindig! and Ed Sullivan too?
Do you remember rock and roll radio?
Do you remember rock and roll radio?

Do you remember…

 

2日目のライブ、ゼータはぬいぐるみのフリをして入場し、一緒にライブを楽しんだ。おじさんとゼータは仲良しだ。でもしょっちゅうケンカをしている。それを見てまるで恋人同士のようだってママが言ってた。

そういうもんなのかな、ボクにはよくわからない。でも、楽しそうなのはわかる。

 

 

そして今、ボクの目の前にはこの2日間のライブのチケットが置いてある。結局使わなかったけど、おじさんがみんなに記念に持っていろと言って渡してくれたものだ。

 

楽しかった夏の思い出。

この思い出をボクはいつまで覚えていられるのだろうか?

この後、いろんな経験をしていつか忘れてしまうのだろうか?

 

いつか忘れてしまうのかもしれない。

 

でもその時はまた思い出せばいい。

そのために記録に残しておこうと思う。
 

この2日間のライブ、いやこの夏のみんなとの思い出をずっと覚えているために。

 

 

【完】