砂をかけばばあ。
その名だけを聞けば、ただ不気味で、ただ恐ろしい存在に思える。
けれど彼女は、闇の中で身を潜めるだけの妖怪ではない。
誰かの目を塞ぎ、足を止め、こちらへ来るなと告げる。
それは悪意なのか。
それとも、その先にあるものから守るためなのか。
人は時に、優しさを優しい形で差し出せない。
長い年月の中で傷つき、警戒し、声を荒らげなければ、自分も誰かも守れなくなってしまうことがある。
砂を投げるその手は、拒絶の手に見える。
けれど本当は、境界を守るための手なのかもしれない。
近づくな。
これ以上、踏み込むな。
ここから先は、私が守る。
老いた女の怒りは、しばしば醜いものとして扱われる。
静かで、従順で、穏やかであることを求められ、声を上げれば疎まれる。
けれど、怒りは尊厳を守るために生まれることがある。
拒むことも、退けることも、決して悪ではない。
硝子の砂を纏い、月夜に凛と立つ彼女は、もう誰かに怯える存在ではない。
気高く。
妖しく。
誰にも奪わせず。
砂かけばばあ、おかえり。
その手で守ってきたものごと、今夜はどうか、ここで休んでおゆき。
