【第一夜 祈りの底の火】
彼は、正しくあろうとした。
感情に揺れず、
欲に溺れず、
秩序の中で生きることこそが、
自分を保つ唯一の方法だと信じていた。
けれど、ある夜。
ひとつの声が、
彼の胸の奥に眠っていたものを呼び覚ます。
彼が恐れたのは、
その人ではない。
自分の中に、
まだ誰かを求める心が残っていたこと。
愛しさを欲望と呼び、
動揺を罪と呼び、
自分を守るために、
相手を裁こうとする。
祈りは彼を救わなかった。
祈りの陰に隠したものが、
やがて彼自身を焼きはじめた。
怪物になったのは、
欲したからではない。
欲した自分を、
赦せなかったからだ。
――硝子の夜会
「怪物になる前の感情」より
