第五十一夜|見えとる

次の日。小姫は昨日より少し早く金長のところへ来た。

「金長、鷹来た?」

挨拶より先に聞かれて、金長は首を振った。

「来てない」

「……そっか」

昨日、金長は言った。そのうち来るやろ、と。けれど鷹は来なかった。

「探しに行く」

「どこ探すん?」

「知らん」

「知らんのに?」

「知らんけど、待っとっても来んもん」

小姫はもう歩き出していた。金長はその背中を見て、あとを追った。

川上の林。古い松の木。岩場。鷹がよく翼を休めていた場所。小姫は思いつく場所を順に回った。

「鷹ー!」

声が山へ響く。返事はない。

「どこ行ったんよ……」

金長は黙って小姫を見た。昨日までなら、鷹が一日姿を見せないくらいで、こんなに気にしただろうか。金長にも分からなかった。ただ、小姫が何度も空を見上げるから、自分まで空を見るようになっていた。

「俺も探す」

「え?」

「二匹で探した方が早いやろ」

「……うん」

二匹は歩きながら、何度も鷹を呼んだ。

「鷹ー!」

今度は金長も声を張った。

「おるなら返事せえ!」

返事はなかった。

けれど、鷹には全部見えていた。

二匹よりずっと高いところ。山の大きな木の枝に止まり、鷹は朝から二匹を見ていた。小姫が金長のところへ来たことも、自分がいない空を見上げたことも、二匹で川へ向かったことも。そして今、自分を探していることも。

全部、見えていた。

「鷹ー!」

小姫の声に、鷹の爪が枝を強く掴んだ。

ここにいる。

そう返せばいい。翼を広げて降りれば、それで終わる。小姫はきっと怒るだろう。金長は「どこ行っとったんや」と笑うかもしれない。また三匹に戻れる。昨日までのように。

けれど鷹は動かなかった。

金長の言葉を知っているから。

『大切なたぬきです』

六右衛門から聞いた、あの言葉。金長は小姫を大切に思っている。なら、自分が間にいる必要はない。二匹が幸せなら、それでいい。そう決めたはずだった。

「鷹ー!」

また小姫の声がした。

鷹は下を見た。小姫が空を見上げて、自分を探している。

自分がいなくなれば、二匹は自然に二匹になる。それが一番いいと思っていた。

なのに、どうして小姫は自分を探している。

どうして金長まで一緒に探している。

鷹の胸に、初めて別の考えが浮かんだ。

俺がおらん方がええと思っとったんは、俺だけなんか。

その瞬間、鷹は首を振った。

違う。

小姫が自分を探していることと、金長が小姫を大切に思っていることは別だ。一緒にしてはいけない。期待してはいけない。

そう言い聞かせても、目を逸らすことはできなかった。

やがて日が傾いた。

「今日はもう戻ろう」

金長が言った。

「暗うなる」

「……うん」

二匹が歩き始める。小姫は何度も振り返った。そして最後に、もう一度だけ空を見た。

鷹には、その顔が見えていた。

けれど小姫には、鷹は見えなかった。

鷹は二匹の姿が見えなくなるまで、ずっとそこにいた。

その夜。鷹が一匹で戻ると、仲間の狸が待っていた。

「鷹」

鷹が振り向く。

「六右衛門様が、明日来いと」

鷹は黙った。六右衛門が何のために呼ぶのかは分からない。ただ胸の奥には、今日見た小姫の顔が残っていた。自分を探して、何度も空を見上げていた顔が。

鷹は静かに答えた。

「……分かりました」