【硝子の夜会|フランス王国】


革命と王妃のあいだで

アントワーヌ・バルナーヴ


革命家だった。


王妃を守るために生きてきた男でも、

宮廷に仕えてきた男でもない。


アントワーヌ・バルナーヴ。


若くして弁護士となり、

第三身分の権利を訴え、

フランス革命の中心へと進んでいった人物です。


彼にとって王家は、

守るべき「聖なる存在」ではありませんでした。


ところが1791年。


ヴァレンヌ逃亡に失敗した国王一家を

パリへ連れ戻す任務の中で、

バルナーヴはマリー・アントワネットと

同じ馬車で長い時間を過ごすことになります。


それまで彼が見ていたのは、

「王妃」という存在だったのかもしれません。


外国生まれの王妃。

贅沢の象徴。

旧体制の中心にいる女性。


けれど、近くで言葉を交わしたとき。


そこにいたのは、

革命の記号ではなく、

子どもを連れ、

恐怖と屈辱の中にいる

一人の女性でもありました。


ここから、

バルナーヴの立ち位置は複雑になっていきます。


彼は革命そのものを捨てたわけではありません。


むしろ、

革命を守るためにも

王政を完全に破壊するのではなく、

憲法のもとに王権を置く

立憲君主制を成立させようとしました。


そして王妃との間には、

秘密の書簡が交わされるようになります。


政治について助言し、

王家と革命の間に残された

細い道を探そうとするバルナーヴ。


けれど王妃もまた、

単純に彼へ身を委ねていたわけではありません。


二人の間にあったものを

「恋」と呼んでしまえば、

たぶん簡単すぎる。


政治的な必要。


警戒。


敬意。


同情。


信頼。


そして、

知ってしまった人間を

以前と同じようには憎めなくなるという矛盾。


バルナーヴ自身にも野心はあったでしょう。


革命の中で名を上げ、

新しいフランスを作る側に立った若者です。


けれど、

革命がさらに急進していくにつれて、

彼が望んだフランスと

現実の革命との間にも亀裂が生まれていきます。


王妃を理解しようとすれば、

革命家として疑われる。


革命を選べば、

目の前で知った王家を切り捨てなければならない。


どちらへ進んでも、

自分の一部を裏切ることになる。


そして後に、

王妃との秘密の通信は

彼自身を追い詰める材料となりました。


1793年11月29日。


アントワーヌ・バルナーヴは

ギロチンで処刑されます。


32歳でした。


マリー・アントワネットが処刑された

わずか44日後のことです。


敵だったはずの女性を、

知ってしまった男。


彼女を知ったからといって、

革命を捨てることもできなかった。


革命を信じていたからこそ、

王家を救う道を探そうとした。


その矛盾の中に、

バルナーヴという人物の

いちばん人間らしい姿があるように思います。


革命は人間を

「王妃」

「貴族」

「革命家」

「反革命派」

という名前に分けていきました。


けれど人は、

名前だけでは割り切れない。


敵だと思っていた人間の顔を

近くで見てしまったとき。


歴史の境界線は、

ほんの少しだけ滲むのかもしれません。


硝子の夜会

フランス王国


感情師 𝒀𝒖𝒌𝒊𝒌𝒐


※史実をもとに人物の感情や内面を考察した創作表現を含みます。


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