「亜美」
「どうしたの?」
「まだ俺に話せない?」
翔平はあたしが話すのをずっと待っていてくれていた。
正直、ひかりのことを知っているのはあたしだけ。
心細いのは確かだ。
「……」
「俺じゃ頼りにならない?」
「頼りになるとか、ならないんじゃなくて……」
言ってしまおうか……。
その時、ピューッと冷たい風が身体に当たる。
真夏の夕方なのに、その風は異常に冷たく感じて、あたしの身体はブルッと震えた。
明るかった空は徐々に薄暗くなってきている。
腕時計を見ると、もう6時半を回っていた。
「翔平、あとで話すから帰ろう?」
「わかった。戻ろう」
あたしたちは元来た道を引き返す。
翔平と今日の練習の話などを話していると、ふと何かを感じて振り返ってみる。
「きゃっ!」
1メートルほど離れた後ろにぼんやり立つひかりの姿があった。
ボブカットの頭から顔の半分に血が流れ、少し首を傾けあたしを見ていた。
その顔はとても寂しそうに見える。
そう思った瞬間、口を大きく開けてニタリと笑った。
「亜美? なに驚いた顔をしているんだよ」
あたしが見ている方向に翔平は視線を向けるけれど、ひかりの姿は見えないらしい。
不気味に笑うひかりからやっとのことで翔平に視線を移す。
「翔平には見えないんだね」
「えっ? 何の――!? もしかして幽霊!?」
翔平が焦った顔になり、あたしは急いで首を振る。
「ち、違うよ」
怖がらせても良くないと思い、否定してからひかりを見るといなくなっていた。
「行こうっ」
翔平はあたしが否定したものの、歩きながらしつこく「幽霊だったんだろう?」「うへっ、こえぇな」なんて言っている。
なんとなく早歩きになって、すぐに合宿所の建物が見えてきた。
そこであたしは歩みをゆっくりにさせる。
「翔平、驚かないで聞いてね?」
「ん? あ、ああ……」
「さっき、ひかりがいたの」
あたしはしっかり翔平を見つめてひかりの名前を口にした。
「ええっ!? ひかりって吉村の事か?」
「うん。3年の女生徒2人、バイク少年の事故、あれはひかりがやったの」
「ちょ、ちょっと状況が読めないんだけど? 最初から話してくれるか?」
合宿までひかりは来ている。なにかが起こりそうで怖い。そのとき、あたしひとりで対処できるかわからない。だから、一番信頼できる翔平に話しておこうと決心したのだ。
あたしたちは立ち止まり、今までのことを早口に説明した。
話し終わると、翔平は「まじか……」ぼそっと呟いてそれから黙り込んでしまった。
