「行こう」
「え……、ちょ、ちょっと待って」
「ダメだよ。立ち止まったら君は断るんだろう?」
(す、鋭すぎっ……)
軽く手を引っ張られて思わず足を進めてしまう。
路地を出ると大きな通りに出てシンはタクシーを捕まえた。
押し込められるのかと思いきや意外と紳士的に瀬奈を乗せてから乗ってくる。
後部座席に座った彼を見ると、長い足が窮屈そうだった。
「ドリームワールドへお願いします」
シンが運転手に告げると車は動き出す。
「ドリームワールド?」
「そう、君と遊園地で遊びたい」
まさか遊園地に連れて行かれるとは思っても見なかった。
(ドリームワールドなんて小学校以来かも)
タクシーに乗る前に握られた手は一度離されたものの今は再び握られていた。
彼はそれから一言も話さずに瀬奈の顔ばかり見ている。
じいっと見られている瀬奈は恥ずかしくなってくる。
「あ、あの」
シンの指が瀬奈の口元に触れる。
「知りたい事は後で話すよ。今は君の顔を見ていたい」
(つまり……話すなってこと……? わけが分らない)
彼はキャップのつばの下からブラウンの瞳を瀬奈に向けている。
(もう……早く着いて……)
うつむくと握られた手が見える。
すらっとした指で女性より綺麗なんじゃないかな、と思うけどやっぱり節があって男らしい手。
話をしないカップルに運転手が怪訝そうにバックミラーをのぞいたりしている。
(何も会話しないなんておかしいよね)
瀬奈は目を閉じて寝ている振り作戦を決め込んだ。
「――ナ、セナ」
名前を呼ばれて身体を揺さぶられる。
聞きなれない声にハッとして目を開けると思い出した。
「あ……」
(寝たふりが本当に寝ちゃうなんて……)
「君は寝顔も可愛いね」
寝ぼけた顔がおかしいのか、クスッと笑われる。
(もしかして……よだれ出ちゃってた……?)
気になって手を口元に持って行くと、その仕草を見て再び笑う彼。
彼から視線を外すと、タクシーのドアが開いていた。
彼が先に降り、瀬奈も慌てて降りるとそこはドリームランドの入り口だった。