夏の夕方。空は薄暗くなっており、ドリームワールドはすでにライトアップされている。
「うわ~きれい~」
瀬奈は小学校以来のドリームワールドにうきうきしてきた。
「行こう」
再びシンは瀬奈の手を握った。
入場券を買うシンに瀬奈はお財布を出すと「いらない」の一言で片付けられてしまった。
瀬奈は素直にお礼を言った。
「俺が誘ったんだからね。君は側に居てくれるだけでいいんだ」
甘い言葉を恥ずかしげもなく言う彼がもしかしたら日本人じゃないのかもと瀬奈は思い始めてきていた。
(時々、イントネーションがおかしい。でも日本人にも見えるし。もしかして帰国子女とか……?)
「セナ、何に乗りたい?」
「えっと……ちゃんとお話したいから観覧車に乗ろう?」
それはデートの最後の締めくくりに乗るものだろうとシンは思ったが、瀬奈の意見を聞き入れた。
シンも瀬奈とふたりっきりになりたかった。
平日の夕方のドリームワールドはすいていて並ぶとすぐに観覧車に乗れた。
シンにとってはありがたい。
長い時間並んでいればファンに見つかる可能性も否めない。
瀬奈が座ると隣にシンも座った。
シンが座った途端に観覧車はぐらっと揺れる。
「あ、あのっ、傾いちゃう」
揺れてビクついている瀬奈は実は高所恐怖症。高い所は苦手なのだ。
「大丈夫、日本の観覧車は優秀だよ? これぐらいじゃ問題ないよ」
にっこり笑いかけられる。
(また彼と隣同士に座る事になっちゃった……)
動き出した観覧車はゆっくりと上昇し始めた。
「な、名前を聞きたいなって」
(セナは本当に俺の事を知らなさそうだ)
「ソ・ジフン。ジフンでいい」
「えっ……? ジ、ジフン?」
(どこの人なの……? 日本語は上手だし……でもやっぱり外国人だったんだ)
「そう。ジフンって呼んで?」
瀬奈はシンの顔をじっと見て首をかしげる。
(まさかばれたんじゃないだろうな?)
シンは瀬奈から目をそらした。
「ジフンって……どこの人?」
予想もしなかった言葉にシンは茫然となり瀬奈に視線を戻す。
はにかんで聞く瀬奈にシンは心の中が温かくなる気がした。
(彼女は最高だ。作った笑顔じゃない笑顔。いつも見たくなる)
「韓国だよ」
「韓国人……でも日本語が上手だよ? 日本に住んでいるから?」
「日本語は習ったんだ。日本には住んでいない。ソウルに住んでいるんだ」
日本語は一年でほぼ困らないくらいに話せるようになった。
薄暗かった外はいつの間にか真っ暗になっていた。
眼下には近くにあるショッピングモールのライトがキレイに輝いている。
「そうなんだ……観光で来たの?」
「いや、仕事で。俺の事よりセナの事話して」
繋いでいる手を自分の口元に持ってくる。
「ジ、ジフンっ!」
驚く行為に瀬奈の心臓が止まりそうなほど大きな音をたてた。