自分を見つめる目からは今にも涙が零(こぼ)れ落ちそうだった。
杏梨は大きな目で俺を見つめていた。
泣かないで話さなきゃ。
杏梨はそう思っても口を開いたら涙が止まらなくなりそうだったし、視線を逸(そ)らしても涙が出そうで雪哉の顔をただ見つめるだけだった。
そんな表情の杏梨を見ていたら雪哉はいかに自分が大人気なかったかを思い知った。
杏梨が泣かないように抱きしめたい。
雪哉は杏梨の髪に手を伸ばした。
ピクッ
杏梨の肩が跳ねた。
かまわず雪哉は杏梨の身体を引き寄せてゆっくりと髪を撫でる。
少しすると緊張が解けたように杏梨の頭がコトッと雪哉の胸に付いた。
ゆきちゃん・・・。
目を閉じると涙がつーっと頬を伝わった。
頬に伝わる涙を見られたくなくて手の甲でさっと涙を拭(ぬぐ)う。
そしてグッと歯を食いしばってから口を開いた。
「嘘つかないでよ!ゆきちゃんの態度、変だったもん!」
「・・・不安にさせてごめんな」
「ねえ、どうして怒っていたの?わたしの事、お子様って言ったり――」
突然、ゆきちゃんの顔が降りて来てわたしの唇を塞(ふさ)いだ。
啄ばむように口づけをする。
ずるいやり方だ。
雪哉はそう分かっていてもなだめる為にキスをした。
「ぃ・・・やっ!」
杏梨が腕の中で暴れる。
「いやっ!・・・ちゃんと説明してよっ!」
雪哉の腕から逃れて荒い息をついている。
非の打ち所が無いと言っても過言ではないゆきちゃんの顔をわたしは睨んだ。
雪哉は大きく肩で息を吐くと口を開いた。
「・・・杏梨と峻くんの仲が良かったから嫉妬したんだ」
「・・・ゆきちゃんが・・・嫉妬?」
「そうだよ お前が彼に向ける笑顔に嫉妬したんだ」
きれいだが男らしい指が杏梨の頬にかかる髪を優しく払う。
「ゆきちゃんが嫉妬するなんて・・・おかしいよ わたしはゆきちゃんが好きなのに」
「そうだよな ごめん 大人気なかったよ」
真剣な表情でゆきちゃんはわたしに謝った。
そして柔らかい笑みをわたしに向ける。
それからすべてを溶かしてしまいそうなキスでわたしの思考をシャットダウンさせてしまった。
続く