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「イルカ兵器」の供給元はどこか 日本からロシアへ「生きたイルカ」の輸出も

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水族館で目にするイルカは、愛らしい姿で私たちを楽しませてくれる。大海原を泳ぐイルカは、神秘的なムードを醸し出す。それでは果たして、戦地にいるイルカはどんな役割を担わせられているのか。侵攻が続くロシア近海で確認された「イルカの軍事利用」と日本の関係について、ジャーナリストの竹中明洋氏がレポートする。

 

  【写真4枚】軍事利用が疑われるシロイルカ

 

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 ロシアがウクライナに軍事侵攻して2か月あまり。当初は“軍事大国”のロシアが圧倒するとみられたが、西側各国の支援を得たウクライナとの衝突は終わりが見えず、市民の犠牲は増えるばかりだ。 

 

 憲法において、戦争および武力の放棄を掲げている日本は、避難民の受け入れや防衛装備品の供与など、あくまで「後方支援」という形でウクライナを支援してきた。

 

  だが、日本由来のものが“軍事利用”されているとしたら──。 

 

 4月30日、米CNNテレビが、ロシア黒海艦隊が拠点を置くクリミア半島の要衝・セバストポリ港の入り口に、「イルカ用の囲い」が設置されていることを報じ、世界的に大きなニュースになった。衛星写真の解析から、設置されたのはロシアの軍事侵攻が始まった2月頃だという。 

 

 水族館のショーでお馴染みの愛くるしいイルカだが、体重に占める脳の割合がヒトに次いで大きいとされ、知能の高さはよく知られている。水中を移動する能力も抜群で、時速50kmで泳ぎ、300mの深海に10分間も潜ることができる。

 

  なぜロシアの軍港にイルカがいるのか。実は、ロシアは軍事目的でイルカを操っているのだ。

 

  そうした軍用イルカの“供給元”は、ロシア近海で捕獲されたものだけではない。

 

  日本の財務省の貿易統計に「くじら目、海牛目及び鰭脚下目」がどれだけ国外に輸出されているかという項目がある。それによると、ロシアへの輸出数は、2016年に25頭、2013年に15頭。すべて生きたまま輸出されている。大型のクジラや、ジュゴンなどに代表される海牛目が生体で輸出されることはないため、この数字はそのまま「生きたイルカ」の輸出数と考えられる。 

 

 また、野生動物の国際取引に関する条約であるワシントン条約のデータベースによると、2018年にカマイルカが4頭、ハンドウイルカが3頭、日本からロシアに輸出されている。

 

イルカを待ち受ける過酷な訓練

 

 

 イルカが軍事目的で利用されるようになったのは、約60年前にさかのぼる。アメリカに始まり、ソ連、さらにロシアで進められてきた。

 

  アメリカで研究が始まったのは、1962年のことだ。1960年代後半にはベトナム戦争にイルカを派遣している。当初は海中に落ちた人や物を捜したり、潜水中のダイバーに物を届けたりする作業が中心だったという。1990年代の湾岸戦争や2000年代のイラク戦争では、港湾や水路にばらまかれた機雷(水中の設置爆弾)の探索や、水中での破壊工作を行う敵ダイバー(フロッグマン)が停泊中の軍艦艇に接近・攻撃しないよう、警戒に使われた。

 

 米軍のイルカの訓練所は、カリフォルニア州のサンディエゴやフロリダ、ハワイにあり、一時は100頭を超えるイルカが飼育・訓練されていたという。動物愛護団体から「虐待だ」との激しい抗議運動もあり、現在では米軍によるイルカの軍事利用は大幅に縮小したとみられる。 

 

 一方のソ連では、軍事利用に向けた研究は’66年にスタートした。初期にはイルカの脳に電極を埋め込んだり、バクテリアに汚染された水中でサバイバルさせたり、果ては北極海にパラシュートで降下させたりと、“過酷な訓練”が行われたこともあったという。 

 

 ソ連のイルカ部隊の拠点は前出の黒海セバストポリ港。およそ50頭のイルカが飼育されていた。イルカの鼻先に金属製のマスクを取りつけ、刀剣や偵察用の小型カメラなどを装着して活動させたこともあったという。 

 

 なお、イルカを使っての敵への攻撃は米軍も行っており、ベトナム戦争中の1968年には、米軍の拠点に海から潜入しようとしたベトナム兵58人を殺害した記録があるという。

 

  イルカの特徴的な能力に、潜水艦のアクティブ・ソナー(音波発信探知機)と同じように、鼻の奥の器官から超音波を出し、その跳ね返りをキャッチして海中の対象物の位置や形などを特定するというものがある。自然界ではエサや仲間を発見するためだが、訓練次第では金属製のものだけを選り分けて見つけることもできるようになるらしい。

 

  この能力が存分に発揮されたのが、1997年7月にセバストポリで行われたイルカによる探索活動だ。このときすでにソ連は崩壊しており、イルカ部隊はウクライナに引き継がれていた。ロシアのインタファクス通信などの報道によると、ウクライナがイルカを使って港周辺の海中を探索させたところ、水深7~20mの海底に、9個のコンテナが沈んでいるのを見つけたという。第二次大戦中に投棄されたもので、なかには化学兵器が大量に保存されており、腐食が進めば、甚大な環境汚染が起きかねなかった。 

 

 その後、2014年にロシアがクリミア半島に侵攻して一方的に併合した際に、このイルカ部隊もロシア軍に組み込まれたそうだ。

 

  2019年4月、ノルウェーの北極海沖で、やたらと人懐こいシロイルカが発見された。胴体にハーネスが巻かれ、小型のカメラを設置できるホルダーが取りつけられていたという。ホルダーにはロシアの大都市「サンクトペテルブルク」の刻印があったため、「ロシアが軍事用に訓練して、人に慣れたイルカだろう」とみられている。

 

 今回、米CNNテレビが報じたセバストポリ港の入り口に設置されたイルカの囲いは、港への侵入者を発見するためだろう。ロシアの黒海艦隊は、3月に大型揚陸艦が破壊され、4月にも旗艦の「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイルの攻撃によるものとみられる爆発で沈没した。

 

  これ以上艦船を失わないために警戒にあたっているとみられるイルカ兵器の供給源が、実は、日本なのではないかとの指摘があるのだ。

 

日本産イルカは信用が高い

 

 和歌山県の太地町は、イルカ漁の町だ。この町で行われるイルカの追い込み漁は、2009年公開のドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』によって世界中に知られ、反捕鯨活動家が大挙して押し掛けてきた時期もあった。

 

  ここで捕獲されるイルカの大半は食用にされるが、一部は生きたまま海外へと輸出されていることはあまり知られていない。輸出の仲介業者の話だ。 「生け捕りにしたイルカは特殊なコンテナで空輸されます。その数は年間に数十頭から100頭を超えることも。捕獲されてから輸出するまでの期間にイルカにストレスがかからないよう生け簀で飼育し、しかも人間に慣れさせるトレーニングを施すノウハウがあるのは世界において太地町だけです。

 

  動物検疫体制がしっかりしている日本からなら病気を持った個体を買わされる心配もなく、世界の業者からの信用も高い」

 

  太地町から輸出されるイルカの大半はアジアや中東の新興国の水族館向けだというが、なかには軍事利用されるものもいるというのは、業者の間ではよく知られた話だ。

 

  2016年3月のロシアメディアの報道によると、ロシア国防省はセバストポリに配置するためのイルカ5頭を購入する計画を明らかにしたという。皮膚や歯に損傷がないことなどが条件とされたそうだ。そして、前述した通りその年、日本からロシアへ25頭のイルカが輸出された。

 

  ロシア軍港で、プーチン大統領の野望を果たすために毎日必死で泳ぐイルカが日本から運ばれたものだとしたら──なんともやりきれない思いが募るばかりだ。

 

 ※女性セブン2022年5月26日号

 

 

~転載以上~

 

 

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