福井新聞からです。

 

 

毛皮、ファー産業の裏の過酷な真実 動物が毛皮に処理されるまでの実態

10/30(土) 19:10配信

 

「ファッションに動物の犠牲はいらない!」 今まで多くの毛皮反対キャンペーンが、このスローガンを掲げて行われてきました。ファッションのためだけに、動物の命を搾取するのはやめようという運動です。数十年に渡り、世界中の動物愛護団体や運動家たちが声を上げ続けたことで、数年前から毛皮に対する人々の姿勢が変わりはじめました。

 

 その転機となったのは、イタリアのハイブランド「アルマーニ」が、毛皮の使用をやめると宣言した2016年です。その後それに追随して、そうそうたる有名な高級ファッションブランドが、次々と毛皮の使用をやめました。以前はラグジュアリーなハイブランドに毛皮は欠かせないアイテムでしたから、大きな決断だったと思います。それを促したのは、毛皮反対キャンペーンにより、毛皮の生産過程がいかに残酷かという実態を、消費者が気づきはじめたからです。

 

2018年には米サンフランシスコが、毛皮の販売を禁止することを発表。翌年から販売禁止条例が施行され、新しく生産された毛皮を売ることはできなくなりました。また、イギリスでは、毛皮動物の飼育が人道的見地から禁止されていますし、毛皮の輸入規制も検討していると発表しています。そして2019年には、イギリスのエリザベス女王が「今後リアルファーは買わない」と宣言。エリザベス女王が新調される洋服には、フェイクファーが使用されるというニュースも大きな注目を集めました。

 

 このように、世界の「NO Fur」の情勢に拍車をかけたのが、イタリアの巨大人気ブランド「グッチ」でした。「グッチ」は、2017年に毛皮の使用をやめると宣言しました。こうして、この頃からファッション界の毛皮使用廃止や、毛皮反対の機運が一気に上昇。「ヴェルサーチ」のクリエイティブディレクターが、「ファッションのために動物を殺したくない。間違っている気がする」と発言したことも、業界の毛皮使用廃止に追い風となったようです。

 

 こうしてファッション業界は大きな転換期を迎え、リアルファーの使用をやめ、フェイクファーやエコファーと呼ばれる人工素材で作られたファーファッションを展開するようになりました。そのクオリティーは、リアルファーとの違いがわからないほど進化しています。ファーファッションが好きな人にとっても、リアルファーを選ばなければならない理由がないほど優れています。 バブル時代に人気だったファーファッション。私も昔は、毛皮の真実を知らずに、リアルファーの洋服を購入したことがありました。

 

バブル時代にお洒落を楽しんでいた人の多くは、何かしらのリアルファーを身につけた経験があるのではないでしょうか。トレーサビリティなど、まだ意識の低かった時代、おそらく誰もが、毛皮の生産過程について考えたこともなかったと思います。

 

 今でもまだ、こんなことを言う人がいます。リアルファーは、「自然の中で死んでしまった野生動物からいただいたモノだと思っていた」と。また、ある若者は、「動物の毛を刈ったものだと思っていた」と。多くの人は、まだ毛皮に対して無知なので、毛皮がどう作られているか想像すらできずに着ているのだと思います。 しかし、消費者がその生産過程を知れば、二度とリアルファーを「購入したくない」「着たくない」と思うでしょう。今の時代、毛皮以外にも、暖かくてお洒落なファッションはいくらでもありますから。おぞましい動物虐待の産物だと知ったならば、「買わない」という倫理的な選択をすべきだと思います。

 

では、その残酷な毛皮の生産とはどのようなものなのでしょう、、、。 スイスの動物保護協会「SAP」が、アジアの動物保護活動家たちの協力を得て、中国の残酷な毛皮生産の実態を隠しカメラで撮影し、2005年に映像を公開しました。「SAP」の代表は、「西洋諸国で行われてきた毛皮動物の劣悪な養殖、残酷な殺傷方法でさえも、些細なことと錯覚してしまうほどの内容だ」と、記者会見で語っています。 公開された映像には、毛皮動物が養殖場で乱暴に扱われ、EUの基準よりもはるかに劣悪で不適当な小さな金網の檻の列に閉じ込められている様子が収録されています。極度の恐怖と病理的な行動の兆候が目立ち、幼獣の死亡率は高く、親に殺されてしまう子もいます。毛皮にされる多くは、アカギツネ、北極ギツネ、タヌキ、ミンク、ウサギなどです。養殖場から過酷な長距離を輸送後、ようやく檻から出られた時には、残酷な死が待っています。

 

 これから記すことは、本当にこんなことが現実にあるのだろうか、そう思わずにいられないほど、惨たらしいものです。しかし、どうか目を背けず、その真実を知ってください。 まず、動物を檻から出す時は、首の付け根を鉄バサミではさみ、尻尾を掴んで引っ張り出します。鉄バサミは後ろ脚をはさんで逆さ吊りにする時にも使われます。逆さ吊りになった動物は、頭を金属や木製の棒で何度も殴られます。後ろ脚を掴んで地面に叩きつけられることもあります。これらは、失神させるための方法ですが、多くの動物は痙攣したり、もがき苦しみながら横たわり、失神も絶命もできないという凄惨な虐待を受けます。

 

 その他にも、感電死があります。鉄棒を無理矢理くわえさせ、お尻の穴にももう一本の鉄棒を突き刺します。感電は、心臓麻痺のように強烈な痛みを伴います。心臓発作と同じように筋肉が収縮し、呼吸筋麻痺となり死に至ります。どの方法も麻酔は使われておらず、動物たちの恐怖と苦痛は計り知れません。後ろ脚をフックにかけられて逆さ吊りにされた動物は、ナイフで毛皮を腹部から剥がされます。後ろ脚から徐々に前へと、そして最後は頭まですべての毛皮を引き剥がすのです。

 

 しかし、この過程の中で、最期まで意識を保っていた動物が何匹も映像に記録されています。動物はもがき苦しみ、それでも最期まで空しく抵抗し続けます。皮膚が完全に剥ぎ取られた後でさえ、5分から10分の間、呼吸や心臓の鼓動、体の動き、瞬きが確認されています。また、意識を失っていた動物が、毛皮を剥がされる途中で意識を取り戻し、苦痛にもがく様子もたくさん確認されています。業者はナイフの柄で、動物が動かなくなるまで何度も頭を殴ったり、頭や首の上に乗り窒息死させようとします。このような残虐な虐待を受ける動物の苦痛は想像を絶します。けれど、自分に置き換え、自らの皮膚が剥がれていく恐怖と苦痛を、少しでも想像してみてください。

 

 この屠殺場は、卸売市場に隣接しています。そしてこの場所に、大企業が毛皮の仕入れに来ます。ファッション関連企業は、最低限の動物福祉の基準もない中国で、コストが低いという理由から利幅を求め、中国の業者にシフトしていきました。その結果、中国がそのマーケットを独占しているといっても過言ではないようです。ハイブランドの高級な毛皮が姿を消していくなかで、近年は誰でも手の出る安価な毛皮が市場に並んでいます。洋服の襟やフードの装飾、アクセサリーやブーツにも毛皮は使われています。残酷さを想像させないような、カジュアルポップなデザインで新たなファーブームを起こそうと巧みです。

 

 それらに使われているファーは、今日の毛皮生産の最大拠点である中国で、毎年何百万匹の動物の犠牲により大量生産されているものです。福祉には一切の費用をかけず、動物に苦しみを強いて生産されているから安価なのです。そして、表示はされませんが、犬や猫の毛皮も使用されています。 毛皮の関連産業は、毛皮動物のブリーダー、養殖業者、輸出入業者、卸売業者、そして小売店やブティック、デパートですが、これらは毛皮ビジネスから大きな利益を得ています。ですから、どれだけ残酷な実態があろうと、「リアルファーのほうが自然素材で環境に良い」と、強引とも言える理由を並べて、毛皮業界は今も毛皮ビジネスを肯定し続けています。

 

 いまだにリアルファーをお洒落だとして取り上げるファッション誌。この事実を知ってもなお、「人々が肉を食べ、レザーを身につけるかぎり」毛皮を使い続けるというハイブランドもまだ存在します。

 

 もちろん、動物を犠牲にせず生きてこられた人など一人もいないでしょう。それは、完全菜食主義であるヴィーガンの人々も、動物の権利(アニマルライツ)を訴える人々も例外ではありません。私たちは、動物実験により進歩した医療を受け、食品や生活雑貨における農薬や化学薬品の安全性の確認も、その犠牲の上にあります。私たちは誰もが動物を利用している受益者です。

 

 しかし、利益のために動物福祉を無視し、過酷な苦しみを与えることは許されることなのでしょうか。動物を利用するするならば、最低限、人道的に扱うべきです。国際社会の共通目標であるSDGsの実現においても、企業と消費者には、エシカルという道徳的な選択を心がけることが求められています。毛皮は、そういう意味でも食となる動物の副産物である革製品とは、まったく性質の異なるものです。倫理的な動物の利用という意味では、同じく、クロコダイル、リザード、ヘビなどのエキゾチックレザーやフェザーも、今後使用廃止に向かうことを願います。

 

 もちろん、毛皮以外の動物福祉(アニマルウェルフェア)の問題も世界中に山積しています。しかし毛皮の問題は、それらの問題のレベルをはるかに超えた、どの角度から考えても、到底受け入れることのできないものです。文明社会において恥ずべき行為でしかありません。ファッションのためだけに、生きたまま毛皮を剥がれ、ゴミのように捨てられていく動物たち。その痛々しく凄まじい断末魔は、言葉では到底言い表すことができない地獄です。絶望の淵で見開かれた動物たちのあの目を、私は忘れることができません。その視線の先に、彼らは何を見ていたのでしょう。あの映像が脳裏をよぎる度、胸が締め付けられます。

 

 もし、皆さんがこの現実に胸を痛めたなら、まずは、自分のできることから始めてほしいと思います。「毛皮の付いた商品を買わない」。とても簡単にできることです。毛皮動物を地獄から救えるのは、私たち消費者の選択にかかっています。地球や自然や動物に対し、できるだけ「思いやり」ある選択を心がけたいものです。(杉本彩)

 

 ※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

 

  ×  ×  ×

 

  杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。