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https://news.yahoo.co.jp/articles/19802db2c38537ee359cd1f705594a9c7b1e9b39

 

犬のコロナ陽性報道で騒然…ペット用のマスクの危険性と感染の真実

8/18(火) 7:01配信

 

SNSで論争の「ペット用マスク」

 

 コロナ感染拡大とともに、SNSでは、#ペット用マスク #犬用マスクといったハッシュタグが登場している。人間のマスクに似せた布製の製品からアヒル口のようなもの、かなりハードに鼻と口を猿轡のように覆ものなど、いろいろな種類を見かける。

 

 【写真】ペットのPCR検査現場、中国でみかけた「犬にマスク」コロナ禍でのペット

 

 もともと、鼻と口を覆うアヒル口タイプのものは、以前から無駄吠えや噛みぐせ予防などで販売されていたが、ペットへの新型コロナウイルス感染を心配する飼い主から「ペット用マスク」の問い合わせが増え、ネット販売などでは需要が伸びているというのだ。中には、ペット用の手作りマスクの型紙をネットであげている人もいる。

 

 このペットマスクの盛り上がりに、

 「危なすぎる! 絶対、絶対つけさせないで」

「口を開け舌を出して温度調整している犬にとって口を塞がれることは、非常に危険。呼吸困難の危険がある」

「ただですら暑いのにこんなの付けて散歩したら、虐待だと思う」

といった「ペットマスク反対派」の声が数多く上がっているのだ。

 

  しかし、感染を心配する下記のような声もある。

 

 「そうは言っても、愛犬を感染させたくない」

「散歩中に感染するかもと思ったらマスク着用しなくてはと思ってしまう」

 「どうすればペットに感染しないのか、よくわからないから心配」

 「犬猫も手洗い的なケアをすべきなのか、情報がなくて困る」

 

 2匹の猫と暮らす友人も 「人間の場合は、とりあえず厚生労働省や新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解が頻繁に出てくる。それでもよくわからないことが多いけど、動物のこととなると、どこで調べればいいかがよくわからない。テレビやネットで情報は拾えても、正しい情報なのかがよくわからない。ペットと暮らしている人にとって、動物が感染するのかしないのかは、切実な問題。きちんとした情報を知りたい」というのだ。

 

  特に8月4日、日本で犬がコロナ「陽性」となったことがニュースで話題になり、ペットへの感染が心配になっている人が増えている。

 

 犬や猫にも、「コロナウイルス」と名前が付くウイルスが存在する。なかでも、猫コロナウイルス(Feline coronavirus: FCoV)は、猫伝染性腹膜炎(FIP)という重篤な疾患を起こすことがある。猫にかかって欲しくない疾患のひとつだ。私も猫飼いなので、FIPはとても怖い。が、猫コロナウイルスと新型コロナウイルスは別のものだ。なので、いっしょに考えて、恐ることはない。  

 

では、実際にペットの新型コロナウイルスの感染の現状はどうなのか? ペットにも対策をするべきなのか?

 

 ペット用マスクの是非含め、ペットと暮らしている人は何に気をつけるべきなのかをレポートしよう。

 

国内初のペットのPCR陽性報告が見つかった経緯

 

 話を聞いたのは、ペット保険大手のアニコムホールディングスだ。なぜペット保険会社に、ペットの感染症のことを聞くのだろう、と思う人もいるかもしれない。以前記事にしたが、アニコムグループでは、4月10日から新型コロナウイルスに感染した人が飼育するペットを預かってくれるプロジェクト『#StayAnicom』を実施している。コロナに感染した人から預かるため、感染予防に配慮し、預かる際には、ペットに対するPCR検査を行ってきたのだ。

 

 「「『#StayAnicom』プロジェクトでは、今まで犬29頭、猫12頭、うさぎ1羽の合計42頭のペットのお預かりを行ってきました(8月3日時点)。お預かりしているすべてのペットに複数回のPCR検査を実行して、『陰性』であることを確認していました。今回、『陽性』が出た2頭の犬も、複数回のPCR検査を行い、外部機関でも追試験を実施したことで出たものです。

 

 海外などの事例報告を見ると、陽性と結果が出ても、数日で陰性に転じることも多く、実際に今回陽性と出た1頭もその後、陰性に変わりました。2頭ともに元気で、健康状態に問題はありませんでした」(アニコム広報)

 

 さらに『#StayAnicom』プロジェクトでの預かりは、感染予防のために「陰性」が確認されるまでは、隔離して飼育することを徹底しているため、2頭の犬もそれぞれ隔離した状態で飼育されているという。同時期に預かっていたペットにもPCR検査を行なったが、すべて陰性との結果が出ている。

 

 これはペット同士だけでなく、『#StayAnicom』プロジェクトのスタッフも同じで、体調不良などの報告は一切ないという。

陽性=「犬が感染」とは言い切れない

 今回の報道で、PCR検査で陽性=犬も感染するんだ、と思った人も多いはずだ。しかし、PCR検査陽性=犬に新型コロナウイルス感染があったとは断定できないという。

 

  「連日、各種メディアでは、人の新型コロナウイルスのPCR検査陽性者の数を、『感染者数』として報道されています。このため、今回の犬でのPCR検査陽性の発表を聞いて新型コロナウイルスが犬にも“感染した”と思われた方も多いのではないでしょうか。しかし現時点では、犬に新型コロナウイルスの感染があったとは断定できません。

 

 PCR検査は、ウイルスが存在しているかを調べることができます。しかしながら現時点において、動物の場合は感染のあるなしを判定することはできません。人の場合は、深咽頭などの上部気道でウイルスが増殖することがわかっているため、この部分の検体でPCR陽性が確認されれば感染しているとみなされています。

 

 しかし、犬を含め他の動物の場合、症例数が少なく、感染が成立した場合に体内のどの部分でウイルスが増殖するかなどが、まだわかっていません。感染したかどうかを調べるためには、『抗体検査』が必要になります。ただ、抗体検査で陽性かを見るにはある程度の時間が必要です。今後、2頭の犬には抗体検査を実施する予定です」(アニコム広報)

 

動物から人への感染報告はない

 

 そもそも、今回の新型コロナウイルスが動物に感染したという報告は、2月28日香港の犬のケースが最初だった。ただ、こちらの報告は、確かに感染したのかは分からず、さらに「コロナにかかった犬が死亡した」という情報がセンセーショナルに伝わったが、17歳という高齢の犬だったため、新型コロナウイルスに感染して死亡したのははっきり分かっていない。

 

  その後も猫(ベルギー、フランス、香港、中国、NY、オランダなど)、動物園のトラ(NY)、ライオン(NY)、ミンク(オランダ)、フェレット(研究による感染)などから感染報告が上がっている。

 

 5月13日には、東京大学、米国ウィスコンシン大学、国立国際医療研究センター、国立感染症研究所が共同で行った研究では、新型コロナウイルスは、猫の呼吸器でよく増え、接触感染によって猫同士で感染伝播することがわかったと発表している。

 

 また、感染した猫の一部に呼吸器系症状、消化器系症状が出たという報告もある。

 

 え? ということは猫が感染源になるの? と思う人もいるかもしれない。が、実際には動物から人への感染報告はなく、必要以上に心配することはないとしている。

 

 日本獣医師会はそういった海外の報告や研究などをまとめ、「感染した人と濃厚接触のあった動物が感染する可能性は否定できないことから、ペットを守るためにも飼い主がしっかりした感染防御の対応をとることが重要」と7月31日に発表している。

 

 猫の場合は、人から猫、猫から猫への感染の可能性があることから、コロナ禍では猫は室内飼いを推奨して、外に出さないようにしたほうがいい、としている。

飼い主側が感染予防を。動物にマスクは不要!

 

 犬よりも猫のほうが感染しやすいというニュースが流れ、一部の海外諸国では、猫を殺処分したり、放棄する人が増加するという悲しい事態が発生した。しかし、適切な飼育をし、飼い主が感染予防をしていれば、必要以上に恐れることはない、決して飼養放棄や遺棄することがないように、と日本獣医師会も強く呼びかけている。

 

 よく考えてみてほしい。家で飼育している犬や猫(きちんと室内飼育している場合)は、ひとりでブラブラと出かけ、コロナ感染者と接触することはない。飼い主がウイルスを持ち込むことで感染する可能性があるのだ。だから、感染予防の基本の三密を避け、ソーシャルディスタンスを保ち、必要なときはマスク、手洗いを徹底する、という予防をしていれば、それはペットを守る対策にもなっているということだ。

 

  冒頭で論争になっているといったマスクも、動物と人間は呼吸のメカニズムも違う。多くの動物は鼻をセンサーにして、さまざまな情報を収集している。その鼻を塞ぐマスクは生きていく上で不都合も大きい。それに動物は基本、顔をガードされることをとても嫌がる。マスクをした状態は、動物にとってストレス以外何もでもないのだ。

 

  「マスクで犬の鼻や口をふさいでしまうと、とても呼吸がしづらくなります。犬の場合、汗をかくことができません。パンティングといって、舌から熱を放出することによって体温調節を行っています。ですから、口を塞いでしまうマスクは犬にとってはとても危険です。特に、今の季節気温も高いので、口を塞ぐマスクは絶対にしないように、と注意喚起しています」(アニコム広報)

 

 感染が気になるというのであれば、お散歩のときに他の犬や人と距離を取ればいいのだ。我が家にも猫が2匹いるが、猫たちは完全室内飼いなので感染源になることはない。「必要以上に怖がらない」、これを肝に銘じて、動物たちとの暮らしを満喫しようと思う。

 

伊藤 学(フリーライター・編集者)