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残酷な飼育で摘発、悪名高きライオン牧場の実態

1/3(金) 7:20配信

 

残酷な飼育で摘発、悪名高きライオン牧場の実態は

7月に撮影されたピエニカ・ファームのライオンたち。4月に立ち入り調査が入った時には、寄生ダニが原因の皮膚病にかかっていた。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 
特別レポート:南アフリカ、ライオン牧場が抱える深い闇(1)
 

「特別レポート:南アフリカ、ライオン牧場が抱える深い闇」の1回目。100頭以上のライオンのネグレクトが調査で発覚し、あるライオン牧場が摘発された。牧場のその後と、南アフリカのライオン飼育産業に潜む問題を追う。

ギャラリー:痛ましい子ライオンも、ライオン牧場の深い闇 写真15点

 南アフリカ共和国には、250を超える民間のライオン牧場がある。そのうちのひとつ、北西州にある「ピエニカ・ファーム」へ、2019年4月11日、同国の動物虐待防止協会(NSPCA)による立ち入り調査が入った。

 そこで調査官が目にしたのは、泥だらけの狭い囲いに入れられたライオンたちだった。本来なら3頭分のスペースに34頭が詰め込まれ、周囲には腐敗したニワトリの死骸やウシの体の一部が散乱していた。隅の方には排せつ物の山が築かれ、飲み水のボウルには青ゴケが生えていた。

 27頭のライオンが、寄生ダニによるひどい皮膚病に冒され、全身の毛がほとんど抜け落ちていた。ピエニカ・ファームはライオンを繁殖させている牧場だ。3頭の子ライオンが泥の中にうずくまり、体を震わせながら前へ進もうと地面を這っていた。もう1頭は、じっとしたままぼんやりと空を見つめていた。

「胸が張り裂けそうでした」と調査責任者のダグラス・ウォルター氏は語った。「子どものころから、ライオンといえばジャングルの王様というイメージしかありませんでした。それが、威厳も気品もすべてはぎとられて、あのようなひどい扱われ方をするなんて」

 ピエニカ・ファームは4頭の子ライオンのうち2頭の引き渡しに応じた。3頭目は安楽死させられたが、4頭目は皮膚病にかかっているおとなのライオンたちとともに牧場に残された。1962年に南アフリカで制定された動物保護法の執行機関であるNSPCAは、その後、牧場主であるジャン・スタインマン氏と従業員を、同法第71条違反で訴えた。南アフリカの法に基づいて警察が捜査を行い、現在、検察がこれを審理している。

 

「背筋が寒くなるような産業です」

 南アフリカで飼育されているライオンの数は6000~8000頭と推定されているが、今では1万頭にまで増えているかもしれない。そう語るのは、2015年のドキュメンタリー映画『ブラッド・ライオン』に出演し、ライオン飼育産業の舞台裏に迫った保護活動家のイアン・ミックラー氏だ。

 観光牧場では、訪れた客が料金を払ってライオンの子どもに触れたり、哺乳瓶でミルクを与えたり、一緒に写真を撮ったりできる。加えて、おとなのライオンのそばを歩けるサービスもある。子ライオンを使うこうしたペットビジネスは、虐待や商業目的の繁殖、処分につながる恐れがあると批判されている。ライオンが成長すれば触るのは危険になるので、ピエニカのような繁殖や狩猟ができる牧場によく売り飛ばされるからだ。

「あちこちから少しずつ収入が流れ込んできて、ボロ儲けできるんです。背筋が寒くなるような産業です」と、ミックラー氏は言う。

 フェンスで囲まれた場所にライオンを入れて狩る「缶詰」ハンティングを売りものにしている牧場もある。スポーツ狩猟家が、時には5万ドルを支払ってライオンを射殺し、皮や頭を“トロフィー(戦利品)”として持ち帰る。骨などの残された部分はアジアへ輸出され、伝統薬に使われる。なお、南アフリカは1年間に輸出できるライオンの骨の量に制限を設けている。

 保護活動家や動物福祉擁護家にとって、ピエニカ・ファームは南アフリカのライオン牧場が抱える深い闇のすべてを象徴する存在だ。

 ライオンの飼育産業はほぼ野放し状態であるという指摘は、以前からあった。同国の農業開発・土地改革省は、飼育ライオンの数を定期的に確認することもなく、ライオンの骨への需要が高まるなか、動物福祉の監視は人員と資金不足に苦しむNSPCAに一任されてしまっている。元々は小さかった産業は、今では手に負えないほどに膨れ上がってしまった。

「怪物を誕生させてしまって、それにエサをやらなければいけない状態になっています」と、NSPCAの野生生物取引及び密輸監視部門をまとめるカレン・トレンドラー氏は例える。

 スタインマン氏の弁護人を務めるアンドレアス・ピーンズ氏によると、スタインマン氏は北西州で2カ所の牧場を経営し、ライオン、トラ、その他の野生生物を飼育している。また、ピエニカ・ファームの敷地内でライオン狩りを許可することによって、種の保護を助けていると主張する。「繁殖させたライオンを狩猟のターゲットにすることで、密猟を防いでいるのです」

 さらにピーンズ氏は、ピエニカ・ファームで飼育されている100頭以上のライオンの状況をNSPCAが大げさに報告したせいで誤解を招き、NSPCAとスタインマン氏の対立を生んでしまったと主張する。NSPCAが公開した体毛の抜け落ちたライオンの写真も、スタインマン氏のライオンではないという。そのうち1枚の写真はナショナル ジオグラフィックでも公開され、今では広く出回っている。

 対して、NSPCAのウォルター氏はピーンズ氏の主張を否定し、あの写真だけではとても現状を伝えきれていないと話す。「実際はあれよりもはるかにひどい状態でした」

 スタインマン氏は、ピーンズ氏を通してナショナル ジオグラフィックの「ワイルドライフ・ウォッチ・チーム」を20平方キロメートルのピエニカ・ファームに招待した。ライオンたちが実際にどんな様子なのかを見てほしいという。

 2019年7月20日に、写真家のニコール・ソベッキ氏と私が到着すると、留守にしていたスタインマン氏の代わりに、ピーンズ氏と管理人のマリウス・グリーゼル氏が案内してくれた。

 

「これが普段の姿です」

 青く澄んだ空。踏み固められた土。かすかな堆肥のにおい。金網のフェンス。ピエニカ・ファームは、米国中西部によくある牧場とさほど変わりないように見える。だが、金網の向こうからこちらを見つめているのは、ウシやブタ、ニワトリではなく、百獣の王ライオンだった。

 素人の私の目には、ピエニカのライオンたちは落ち着いていて、具合が悪そうにも見えなかった。牧場の入り口付近に、2頭の子ライオンがいた。そこは遊び場になっていて、木製の台や大きな木の枝が置かれ、木からは黄色いボールがつるされていた。

 案内されたエリアは清潔そうで、汚物や腐敗した動物の死骸は見当たらない。囲いの中に泥はなく、飲み水もきれいだ。ライオンのケージと狩猟場を訪れると、様々な動物が放し飼いにされていた。だが、冷凍庫や従業員の住居には案内されなかった。他にも見せられていない場所があったかどうかはわからない。

「これが普段の姿です」。50メートル四方のケージの中で、明るい太陽の光を浴びる11頭のライオンを見ながら、グリーゼル氏は言った。

 ピエニカには、ライオンの他にもベンガルトラ、アムールトラ、ハイエナ、オオヤマネコ、ピューマ、ヒョウといった捕食動物が囲いの中で飼われている。また、ダチョウ、キリン、サイ、スイギュウは放し飼いにされている。グリーゼル氏とピーンズ氏は、様々な動物たちを誇らしげに見せながら、近寄ってみるよう私に促した。グリーゼル氏の家の裏庭に目をやると、木製のフェンスの向こうに日光浴するナイルワニがいた。

「ワニはどうするんですか?」と聞くと、ピーンズ氏は「観光客向けです。ハンターなどの米国人が来るので、ただワニを見たり、そういった経験をしてもらうためです」と説明した。

 ピーンズ氏は、4月に調査が入った時はタイミングが悪かっただけだと説明した。ライオンを50頭ヨーロッパへ輸出するはずだったが、取引がだめになったので、地元の別の牧場へ移送するつもりだった。自治体にライオンを輸送する許可を申請していたが、その許可が下りる2日前にNSPCAの調査が入ってしまったのだそうだ。

「たくさんのライオンを抱えてしまって、どうすることもできなかったのです。牧場へただ放すわけにもいかないので、従業員や他の動物たちと接触しないよう囲いに入れていました。いつもあんなに詰め込まれているわけではありません。あれは一時的な措置でした」

 動物たちがいつも以上に汚れていたのは、その前の週に大雨が降って囲いの中が泥だらけになってしまったせいだとピーンズ氏は付け加えた。実際には、ケージは少なくとも週に1回は掃除されるという。飲み水も換え、排せつ物やエサの残りは撤去される。鶏肉処理場が休みの日曜日以外は毎日エサを与えられ、平日はビタミンやカルシウムの粉末サプリメントも与えられると、グリーゼル氏は言った。

 

 

~転載以上~

 

 

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