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イギリス、ペットショップでの生体展示販売の撲滅へ ますます対応遅れる日本

9/10(月) 18:39配信

 

──生後6ヶ月未満の子犬・子猫の販売禁止へ

 

英国のイングランドで施行される見込みの新法は、通称「ルーシー法」と呼ばれている。悪徳ブリーダーの元からレスキューされたキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの繁殖犬『ルーシー』の名にちなみ、英国内の複数の動物愛護団体が、子犬・子猫販売の規制を現状の8週齢未満から6ヶ月未満に大幅に引き上げるキャンペーンを張り、約15万人の市民の署名を集めていた。

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ルーシーは、「パピーファーム(子犬工場)」と呼ばれる劣悪な環境下のウェールズの繁殖施設で数多くの子犬を産まされた末に、狭い檻に閉じ込められていた。動物愛護団体の手で推定5歳だった2013年に救出されたが、長年出産を強いられ閉じ込められていた影響で背骨の変形やてんかんなどの健康問題を抱えていて、3年後に死亡。救出後から今日まで、パピーファーム撲滅運動のアイコンになっていた。

新法では、ペットショップやインターネットオークションなどのペット販売業者(第三者)による生後6ヶ月未満の子犬・子猫の販売を禁止する。ブリーダーや保護施設との直接取引には適用されず、今後、子犬を迎えたい人は、認定ブリーダーかシェルターから入手することになる。

◆子犬・子猫の展示販売は悪徳業者の温床

英環境省によれば、政府の認可を受けたペット販売業者の数は、イングランドで100に満たないという。しかし、実際には英国全体でペットショップなどの第三者を通じて年間4万~8万匹が販売されており、無認可の販売業者が横行しているのが実態だ(BBC)。ルーシー法キャンペーンは、これが繁殖の実態の把握を困難にし、悪徳ブリーダーの横行の温床になっているとして、6ヶ月規制の導入を主張してきた。6ヶ月規制の施行は、事実上、ペットショップなどでの生体展示販売の撲滅を意味する。イギリスでは、それ自体は違法ではないにも関わらず、既に店舗での生体展示販売はほとんど見られない。一方で、インターネットを通じた子犬・子猫の販売がしばしば問題となっている。

かわいい子犬・子猫を目の前にすれば、連れて帰りたくなるのが人情だ。販売されている背景にまで思いを至らすのはなかなか難しいだろう。悪徳業者は、こうした心理を突いて幼い命を商品として扱う。つまり、ルーシー法キャンペーンを貫くのは、日本でもおなじみのガラスのショーケースや、ネットオークションの商品画像にかわいい子犬と子猫が並ぶ姿を撲滅すれば、儲け主義の乱繁殖や売れ残った子犬・子猫の殺処分といった問題も抑制することができるという理屈だ。

マイケル・ゴーヴ英環境大臣は、「第三者による販売の禁止は、我が国で愛情をたっぷり受けているペットたちに正しい一生のスタートを保証する」「私は、ルーシー法キャンペーンに敬意を表する」などと述べた。また、「ペットの福祉に全く敬意を払わない人たちは、もはやこの悲惨な取引によって利益を得ることはできない」と、悪徳業者の撲滅を宣言した(英政府HP/GOV.UK)。

◆ペット先進国では「8週齢規制」が常識

ペット先進国と言われるドイツ、イギリス、北欧などの欧米諸国では、子犬・子猫を肉体的・精神的に未熟なまま親元から引き離してペット販売業者に引き渡し、売りに出すのは好ましくないという考えが常識となっている。そのため、これらの国では、乳離れの目安となる生後8週間(約2ヶ月)以上を販売解禁の目安としている。

イギリスの6ヶ月規制は、この「8週齢規制」をさらに強化するものだ。同国では、「犬の飼養および販売に関する1999年法」により、既に生後8週間未満の犬猫の販売が禁止されている。ただ、これは数少ない認可業者にしか適用されず、多くの抜け穴が指摘されていた。6ヶ月規制に先立って今年10月1日から施行される新法では、罰則が強化され、適用範囲が「ブリーディングと販売に関わる全ての者」に拡大される。

日本の環境省の調べでは、その他の主な国では以下のようになっている。「最低生後8週間以上および離乳済みの犬猫でない限り商業目的のために輸送または仲介業者に渡されてはならず、または何者によっても商業目的のために輸送されてはならない」(アメリカ連邦規則)、「8週齢未満の子犬は、母犬から引き離してはならない。但し、犬の生命を救うためにやむを得ない場合を除く。その場合であっても引き離された子犬は8週齢までは一緒に育てなければならない」(ドイツ/動物保護・犬に関する全般的規定)、 「生後8週間以下の子犬および子猫は、売りに出してはならない。生後10週間以内の子猫の住まいの変更をしてはならない」(オーストラリア・ニューサウスウェールズ州/動物福祉実施基準・愛玩動物店の動物・犬猫に関する特別要求項目)

 

◆日本は「8週齢規制」の実現も不透明

対して日本では、2012年改正の動物愛護法による「生後49日」、つまり1週短い7 週齢規制を敷いている。しかし、環境省が専門家に委託した調査で、子犬を親元から引き離す時期を「8週齢以降にすることにより、問題行動の程度に差が明らかになった」ことなどを受け、我が国でも8週齢規制を導入すべきだという声が高まっている。今年2018年は「49日規制」が導入された前回から6年ぶりの動物愛護法改正の年で、5月には超党派の「犬猫の殺処分ゼロを目指す動物愛護議員連盟」が、8週齢規制の完全履行を柱とする改正項目案をまとめた。

ただし、これを報じた朝日新聞(電子版)の記事は、8週齢規制にはペット販売業界からの根強い反対があり、実現は不透明だとしている。「ペット関連業界が8週齢規制に反対してきたのは、7日分の飼育コスト増を避けたいことに加え、『大きくなると売りにくくなる』と考えるためだ」という。動物愛護法の改正は、議員立法で行われ、議連の改正項目案をたたき台に各党内で調整したものが正式に法案として国会で審議される。報道によれば、ペット関連の業界団体の支持を受けた自民党の一部議員が規制強化に反対しており、情勢は厳しいという声もある。

ペットを迎える側の立場では、「自分は愛情をたっぷりと注ぎ、健康管理・しつけを徹底できる自信がある。子犬(子猫)を迎える資格は十分にあるはずだ」と主張する人もいるだろう。英大衆紙『ミラー』は、ルーシー法施行後の「子犬の買い方」を指南している。基本は、「6ヶ月以上の子犬は引き続きペットショップなどで買えるが、6ヶ月未満の子犬は、直接そのブリーダーと取引しなければならない」ということになる。英国ケンネルクラブは、ブリーダーとの取引の際には、「母犬が子犬と一緒にいる所を見ること」「実際に手に触れる機会を得ること」「親犬がケンネルクラブに登録しているかを確認すること」「当該の子犬の社会化の背景を把握すること」が重要だとアドバイスしている。このように、飼い主の側にも意識改革が求められている。本当に動物を愛する心があれば、その場の「かわいい」という感情だけで衝動買いしない勇気が持てるはずだ。

内村コースケ(フォトジャーナリスト)