俺は、売り専の仕事をしていて


一度も罪悪感や自己嫌悪なんてものに


さいなまれたことがない。




俺を包み隠す殻でしかない体を


いくら傷つけられようとかまいはしない。


俺の中のずっと奥にあるプライドは


誰にも見せず、触れさせずに


ずっと平静を保っている。




そんな俺の内部に


突然、スッと波紋を起こしたのが


シュンだった。



シュンは、俺が無くしたものを持っている。



シュンとの一時は、


それを取り戻せたような気持ちにさせてくれたんだ。



でも、その一時のための約10万は


シュンが体を売って捻出していたということらしい。




どうしてそこまで?

それも俺を救うためなのか?



それとも俺はただからかわれていただけなのか?



教えてくれ。



天使様。






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今日はシュンに指名され続けて6日目・・・になると信じてた。





シュンがいつもやってくる夜7時に


俺は先客の相手をしていた。



俺の耳元から足の指の先まで


ねっとりと舐めまわしながら


自分の息子をシゴき続ける50代のオヤジ。



恍惚の表情で、俺の足の裏を舐めているコイツと


目が合ってしまった時には


心底この世から消えたくなる。




今日は、1時間延長してもらった分だけ


多目に全身舐めまわされた俺は


オヤジの唾液と共に鬱陶しい気分を


洗い流すようにシャワーを浴びて


マネージャーのいるレジカウンターへ走った。



シュンのことを訊くと


マネージャーは首を横に振った。



どうしたんだろう。


今日は遅れてやってくるんだろうか。



レジの隣にある置時計の秒針を見つめて動かない俺に


マネージャーは暗く渋い表情で


そっとすり寄ってきて、


「お前、あの客が隣町にある●×△のボーイだって知ってるのか?

 お前を引き抜きにきたんじゃないだろうな?」


と耳打ちをした。




マネージャーの突拍子もないその言葉に


俺は勘違いも甚だしいと鼻で笑った。



引き抜きどころの話じゃない。


体を売るような真似をシュンがするはずないし出来るはずもない。


シュンに限って売り専ボーイだなんてありえない話だ。



そう信じて疑わなかった。




●×△のHPで紹介されている


シュンの


あの屈託のない笑顔を


見るまでは。




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俺に話しかける時のシュンは


とてもまっすぐに


俺を直視してくる。




その大きくて澄んだシュンの目は


俺のすべてを見透かしているような気がして


怖くなる時があるくらいだ。





今もシュンの貫くような視線が俺へ向けられている。



けして目を離そうとしないシュンに


俺は、身震いするような感覚を覚えながらも


自分から目を離すことはすまい、と必死に耐えた。




一時の間をあけて


シュンが口を開く。





「ボクは、マサキ君を救うために来た天使様なんだよ。

 2時間だけマサキ君を他のオトコ達から救い出すんだ。

 だから、ボクとエッチなんてしなくていいんだよ。」





俺を救う?


シュンの言葉の意味はまったく理解できない。




でも、耳を真っ赤に染めて


懸命に自分を天使様だなんて言うシュンが


あまりに愛おしくて


俺は静かにシュンの肩をそっと抱き寄せた。







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シュンが俺を指名し続けて5日目。





「次のボスが強いんだよなぁ」



今日のシュンは、

俺の隣で携帯のゲームに夢中だ。


その横顔は、あまりに無邪気で尊い。




この無邪気さが足枷になって


今日まで訊けずにいたことがある。


それを今こそ訊かなければ。と思った。




「マサキ君もやってみる?」


「・・・シュン」


「ん?なに?」



シュンは、携帯を置いて

怪訝そうに俺の顔をのぞき込む。





「毎日指名してくれるけど、俺とエッチする気ないの?

 ないんだったらお金もったいないし、来るのやめた方がいいよ」





シュンは、こんなところに似つかわしくない。






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夜7時。


今日もシュンからの指名がはいった。


これで4日連続だ。




俺がシュンの待つ個室へと向かい


ドアノブに手をかけると


部屋の中からドタドタと駆け寄ってくる音が聞こえる。


扉を開くとそこには


大きな目をくりくりさせ、下唇を噛んで


物欲しげに待機しているシュンがいる。



初日こそ緊張した面持ちで室内のソファーで大人しくしていたが


2日目からはずっとこんな感じで


シュンは俺を出迎える。


その姿はまるで


ご主人様を出迎える子犬のようだ。



「こんばんわ!」


「こんばんわ。今日も指名してくれてサンキュ。」




いつの間にか敬語も使わなくなっていた。


客といえど、シュンの歳は多めに見積もっても


俺とタメくらいだろうし


何よりシュンと話していると敬語なんてどうでもよくなる。





「ねぇ、聞いてよ。今日バイト先にすっごい嫌な客が来てさぁ」




今日もシュンは


エッチする気がないらしい。







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今日もシュンは、優しい微笑みを残して帰った。


もうこれで3日目・・・・・・こんな客、初めてだ。



---



シュンと名乗る小柄で華奢なその客は


一昨日の夜、突如現れ


俺を指名してきた。



個室に二人きりになると彼は


「ボク、マサキ君の大ファンなんです!」


と、いきなり肩をすくめ上目遣いで俺に言った。



ああ、きっと俺の出演したエロビデオを見たに違いない。


俺を指名してくる大半がそういう客だ。


その中でも多くが、ビデオの中でやったプレイと同じことを強要してくる。


彼もそんな客の一人なんだろう。


そう思った。



しかし、実際シュンは


プレイを強要してくるどころか


俺に指一本触れてこようともしてこない。



ベッドの上に座って


2時間ぶっ通し


家族や芸能人のことなど他愛のない話を楽しそうにするだけすると


大笑いしたいのを我慢するような、そんなはにかんだ顔で


「また来るね」と、満足そうに帰って行く。




俺がウリ専の仕事を始めて3ヶ月、


こんな変な客に会ったのは初めてだ。





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「今どんな格好してるの?」



「まず乳首さわって」



「大きくなってきた?・・・ズボンの上からさわってみて」





陶酔しきった声で指示してくる「名無し」に

ボクは言われるがまま行動に移した。



でも、何も感じない。


自分の乳首なんて触っても気持ち良くなんてなかったし

「名無し」の下す指示の意味さえも理解できない。


だから、大きくもなるはずがなかった。




途中で嫌気がさしたボクは

それから電話口で卑猥な喘ぎ声を出すことだけに専念する。


口先だけでオトコにサービスをする

テレクラ嬢にでもなった気分だった。


ボクはイクどころか服さえも脱がずに

乱れた息遣いで「名無し」とテレセを共にし

最後には、わざとらしく果てる真似をしてテレセに終止符を打つ。


用が済んだ「名無し」は、じゃあ・・・と言って

あっけなく電話を切ってしまった。




こんなんじゃないんだ。


ボクが知りたかったものはこんなんじゃない。



携帯を握り締めたまま、

ボクはしばらくその場から動けなかった。






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ツーショットチャットルームに待機し始めて

10分と経たないうちに

入室してきたのは、「名無し」だった。



「名無し」は、入室すると挨拶をすることもなく


「こっちから掛けるから番号教えて」


と冷たくボクを急かした。



慌てて自分の携帯の番号を打ち終えて

その後のログを確認すると

「名無しさんが退室しました」と表示されている。



突然のことにえっ?と声になって出た瞬間、

ボクの携帯がけたたましく鳴った。



発信元を確認するも非通知になっている。



「名無し」だ。



ボクは、意を決して通話ボタンを押して

携帯を耳元へ運んだ。



「今一人なの?」



吐息まじりで気だるい話し方。


「名無し」の迫ってくるその声を聞きながら


ボクは自分のしたことを悔やみ始めていた。







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「●●駅周辺で今からヤレる20代のネコいない?」


「今シコってます。ズリ写真を交換しよう。筋肉質でデカマラの人よろしく」


「今すげぇ溜まってるんで一緒にテレセできる同年代でスリ筋の人いない?」





二人きりで話せるツーショットチャットルームには

こんな待機者メッセージが並んでいる。



そんな中に割り込むように入って


「テレセはじめてなので教えてくれる人いませんか?」


というメッセージを載せ


ボクは、Eルームで待機を始めた。





ボクはテレセが


一体どういうことを行うものなのか知らない。


ただ漠然とエッチなことをするんだろう


という大体のイメージだけだ。




だから、知りたいんだ。


オトコ同士のするエッチというものを。


たとえそれが電話越しのものでもいい。


きっと何かがわかるはず。






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チャットルームには


ボクより年下の男の子達も少なくなかった。




しかし、年下といえど


大抵の子達は、ボクよりもオトコの経験は豊富だ。




「ローションなんてなくてもその気になれば、唾つけりゃ入る!(笑)」



そんなノリ良く、みんながシモネタの会話で盛り上がっている中、


まったく経験のないボクは苦笑いで応えることしかできない。



ボクを置き去りにするように流れていくログを見つめながら


ボクの知らない奥の世界を


知りすぎて、慣れすぎている彼らを恐ろしく感じていた。



そして、彼らに比べて今まで自分がどれだけ


狭い世界で無知な時間を過ごしてきたのだろうと


悔しくて情けない思いでいた。






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